ENGLISH GARDEN ROSE CAFE | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

今週は疲れていたので地元でデートってことにしてもらった。

この店 はたかしと初めてデートしたお店。そのときの服を着て行った。国分寺の駅で11時半に待ち合わせ。
二人で手を繋いでゆっくりと坂道を登っていった。


「あの時はこんなに親しくなれるなんて想像もしていなかったね」
バラは先週の台風で少し傷んでいたけれど、これからが開花期。
蕾がたくさん出ていた。


「最近良く眠れないの?」
「うん、どうしても明け方、眼が覚めちゃう。4時半とか」
「そのあと眠れないの?」
「また眠れるし、最近は眠りが浅いのを時間で補っているから大丈夫」
「そうか」
「こんなに毎日楽しいけど、子供の父親との問題がやっぱりあるからなのかな」
「うん」
「たかしは離婚する時に話し合えた?」
「……もう、そういう状態じゃなかったね」
「うん、話せるくらいだったら、子供がいるのに離婚なんて出来ないよね」
「……僕が帰ってくると出かけている。僕が会社に出かけると戻って来るって感じで」
「そっか、お嬢さんたちも可哀想だったんだね」
「……僕もこのごろ途中で眼が覚めたりするな」
「そうなの、年とってくると早く眼が覚めるみたいな感じなのかなって」
「うん」
「とにかく鬱の前歴があるから、念のため薬を飲んでおきましょうってそれだけのことなんだけど」


「今日はケーキ食べないの?」
「うん、だってこんなに食べてお腹いっぱい
 …もしかして私大食いだって思われている?」
「ははっは、ちょっと」
笑いながらたかしの眉毛が持ち上がった。

曇っていた空は外で食事をしているうちに晴れてきた。陽が差してバラの色が輝きを放ち始める。
席をそのままに、下の庭園のほうに降りていく。一つ一つのバラを見ながら二人で香りを確かめた。


たかしはいつも車で移動するからお酒が飲めない。今日は特別電車で来てもらった。
私は朝からおでんを仕込んでおいた。帰り道のお豆腐やさんでがんもどきとおからの炒め物を買う。
父が良くこの店まで買いに来るから、おいしいのは知っていたけど、来たのは初めて。
おからの炒め物は金曜日の売れ残りのようで、おばちゃんはただでくれた。
そうして二人で手を繋いで家に戻ってきた。


「恋ヶ窪」私のかつてのHNでもあるこのお酒をたかしは気に入ってくれた。たかしの口から「恋ヶ窪」と出ると自分が呼ばれているようで内心ドキドキしてしまう。
でも3年近く使ったこのHNはもう使わない。

私は酔うと一段と声が上ずって、ひたすら笑い続ける。全身が真っ赤に染まる。
「おでんと恋ヶ窪とdoor、最高だな」
たかしはいつもと変わらない。赤くもならない。
「たかしは酔うとどうなるの?」
「突然眼がうつろになって、そのまま寝ちゃう」
「うつろな眼が見た~い、飲んで飲んで」
私たちはとても気持ちよく酔って、そのまま寝入った。ふわふわと漂う中、たかしが私をベッドに連れて行って布団を掛けてくれたみたい。


「なんかー甘いもの食べたーい、アイス買って来て」
「何のアイスが良いの?」
「ガリガリ君はいやだ~、ガリガリ君以外なら何でもいい」


覚えているのはそこまでで、あとはキスの感触。たかしが帰った気配。おやすみなさいのメール。
眼が覚めたら、少し淋しかった。


また来週まで逢えない…