オーバーラップ 5 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

どうも、doorです。
酷い風邪です。地球が回っています。あ、当たり前ですね。
とにかくそれを実感してます。よく分かりません。

では、オーバーラップお楽しみいただければ幸いです。


オーバーラップ 1から読む

 今日の予定を思い出す。午前中に納品とちょっとした打ち合わせ。一度うちに帰らなければ。それにしても、スカートがよれよれだ。ああ、全く失敗もいいところ。男にもきちんとお礼をしなければならない。
 それにしても昨夜は楽しかった。なんだか遠い幻のようだ。このところ恋人とうまくいっていない。彼は一緒にいる時にずっと野球がどうとか球団がどうなどと話しているのだけれど、私には野球に何の関心も持てなかった。
 初めのうちは良かった。
 お互いを宝石箱のように取り出してはあちこちの引き出しを引っぱりだしては感心したり、讃えたり、驚いたり。けれどもだんだん一緒にいる時間が長くなって来てお互いの引き出しをあらかた改め終えると、なんだか物足りなくなって来る。一緒に居たいという気持ちはあっても、新鮮味がしだいに薄れてきてそれぞれ好き勝手に動き始めるようになった。私が悪いのだ。彼に合わせようとする気が余り無かったからだ。いろんなことを先生のように説明するのが面倒だった。それに私達は違う所が多すぎた。

 ふと我に返る。急いで家に帰らなくては。化粧をして財布の中身を確認すると二万八千円入っていた。5000円札を取り出してティッシュでくるむ。洗面所を出るとひざの抜けたグレーのスエットスーツ姿で男が目玉焼きを焼いていた。横の髪の毛が跳ねている。後ろから見ると後頭部がだいぶ薄くなっているのが見えた。
「昨日は本当にご迷惑をおかけしました、あの、これ少ないですけど、タクシー代とか夕食のお金とか」
男は振り返った。
「え~、いいよそんなの」
「ホンの気持ちしか入ってませんので」
「それより朝飯、目玉焼きぐらいしかできないけど」
みそ汁の匂いもしていた。しかし、一刻も早く帰りたかった。迷惑を掛けておいてなんだが、この男と向かい合わせで朝食を食べるのはどうしても避けたかった。
「あの、時間がないので。駅の方へはどういったら良いんでしょうか」
「そんなに急ぐのか……ここを出て前の道を左に行くと商店街があるから、それを右に曲がって、あとは道なりで駅の方に行くから」
「何から何までお世話になりました」
請求書の封筒やチラシの束が載っているテーブルにお金を置くと、ありがとうございましたと言い置いて、アパートの玄関を飛び出した。

駅まで10分ほどだったろうか。商店街が長かったので不安に思った頃駅に出た。
 男の家が山手線で良かった。もし、私鉄から乗り換えてとなると間に合わなかったかもしれない。なんだか妙なことになってしまったものだ。表札の名前も確認しないで出てきてしまったので、結局お互い名前もわからないもの同士が何もなかったとはいえ一晩を過ごしたのだ。


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