行き違い6 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

行き違い 1 から読む

 たかしと南の島で過ごすのは、想像しただけで天国のようだった。緩やかな風に身をゆだねながら、誰かにマッサージをして貰う。バリ式の花びらを浮かべたバスタブは、想像するだにロマンティックの一言に尽きた。その後は彼と海に潜ったり土産物屋を冷やかしたり普段ゆっくり読めない本をのんびりと読むのも良いだろう。
 ダイビングのライセンスも欲しかった。やはりシュノーケリングでは限界がある。彼と海の中の別世界で魚と一緒になって、戯れるなんて夢のようだった。どんな魚がいるのだろう。バリでダイビングなんてあんまり聞いたことがないけれど、どんな海なんだろう。彼と一緒だったら、どんなに深いところでも潜れそうな気さえする。彼と一緒に行きたい。二人きりならば。

 けれど他の人も一緒に行くとなると話は全く別だ。見も知らぬ女の子と一緒に、レッスンを受けて、彼の友達と話をして。私の知らないたかしがそこにいるに違いないけれど、彼らはきっとたかしの元彼女と私を比べるだろう。他の女の子たちだってきっとそうだ。10年前ならそんなことは気にならなかっただろう。スタイルだって自信があった。だいたいお肌の張りからして全然違うのに15も年下の子と並んだ所を彼に見られたくなかった。
 彼はそんなこと気にしないに違いないことは分かっている。だけど、私はどうしても気にしてしまう。彼と二人でいるときは気にならなくなってきた年齢の差が他の人と一緒に過ごすことで、イヤでも突きつけられてしまうに違いない。
 どうやら、彼と付き合い始めた頃の自信のないdoorが蘇った感じだった。いったい彼は私のどこが良くて付き合っているのだろう。どんな女の子でもよりどりみどりじゃないか。

 若さや美しさというものの価値に気が付くのはやはりそれを失ってからなんだろうなと思う。自分だって若い頃はあったのだから、もはや羨ましいとも妬ましいとも思わないけれど、目の前にいるきらきらと輝く彼を見ていると、それだけでうっとりしてしまう。
 もし、神様がいてなんでも一つ願いを叶えてくれると言うのなら10年だけで良いから若くしてと頼むだろう。悪魔でも構わない。そのために20年寿命が縮まったってどうだというのだろう。

 電車にのって私の最寄り駅で一緒に降りようとするたかしを片手で押しとどめて一人ホームに降り立つ。ゆっくり考えてみたかった。これから先ずっとこんな思いをするのだろうか。それとも、どこかの段階で吹っ切れて気にしなくなる日が来るのだろうか。いったいいつまで彼と付き合っていられるのか。あと半年?一年?彼と付き合っていくことは私にとって決して楽しいことばかりではなかった。なんでもないことにこんな風に惨めな気持ちになったり、いちいち心を揺らしてどこか無理をしている。
 二人きりで世界にいる訳ではないのだ。あまり人目を気にしない私がこんな風に気にするのは、彼が人からどう思われるかを気にしているからで。いや、違う、やっぱり彼を言い訳にしながら自分に自信がないのだ。取り立てて美しくも若くもなく、こうるさく、きつい性格の自分が彼の傍にいると言うのがそもそもどこかおかしいのだから。