さて、その「グレン ミラー物語」の二番煎じと言われ続けているのが「ベニー グッドマン物語」である。何でも手を出した女の旦那に撃ち殺されたミラーと違って、製作された当時もバリバリの現役だった本人が「ミラー物語」を観て、同じ会社に製作を依頼したというのだから、結果としてそう捉えられても仕方がないかも。
ところが僕はこちらの方が断トツ好きな映画であるのだ。
理由はまずベニー グッドマンが好きというのが根本的にあるとしても、こちらの映画はシカゴのスラムで育ったユダヤ人の本人が成功をおさめて行く過程を、ジャズの歴史をなぞる様に描かれているのが興味深いからだ。もちろん50年代の映画ゆえ、ずいぶん都合の良い歴史にデフォルメはされているものの、ジャズの歴史に少しでも関心がある者にとっては大変楽しめるシーンが多いのはこちらの方だ。キッド オリー、ベン ポラック、フレッチャー ヘンダーソンがストーリーに合わせて本人役で登場するのが面白いし、シカゴのギャングや多少なりとも人種問題にも話がおよんでいるのも良い。
特にダンスミュージックばかりに嫌気がさしていた楽団が、クビ覚悟で「ワン オクロック ジャンプ」を演奏すると、踊っていた客が一人また一人とステップを止め、ステージに体を向けていく様をワンカットで背後から描いたシーンは、端的に観賞用ジャズの誕生を表していて上手いと思う。ちなみにこの曲では若き日のスタン ゲッツが映画の中でもカッコいいソロを吹く。
しかしこの映画が好きな決定的な理由は、やはり本人が映画のために録音したサントラが存在するからに他ならない。しかも映画にももちろん本人で出演したハリー ジェームズ、ライオネル ハンプトン、テディ ウィルソン、ジーン クルーパといったグッドマン楽団の大スター達が顔をそろえているのだ。
グッドマン楽団が人気最高潮だったのは1930年代中~末。この頃のエアチェック版を聴いたら、これこそが当時世界一の最先端でイカしたバンドであったのは疑いを持たない。本作はそれから20年近くたってからのもの。しかし仮に最盛期が30歳前後だったとしたら、この録音時は50歳前後という事になる。50歳なんていよいよアブラがのってくる頃ではないのか?事実このレコードでは全員が最盛期と何ら変わりがない輝きを放っているのが手に取る様にわかる。「シング シング シング」の興奮は実際のカーネギーホールの実況版のそれと比べて、何もおとっていないのは聴いていただければ解っていただけるだろう。
今となってはあまり表には出ないアルバムだが、このまま消え去るにはあまりに惜しい名演の数々。もしレコード棚に眠っていれば、一度風通しのつもりで聴いてみる事をお勧めします。








