うつ病や自殺さえ招く「薬の副作用」の新常識 米大学の最新研究が明かす副作用の実態とは?

2018/06/20 18:00
山口 茜 : 医学ジャーナリスト、プサラ研究所所長

最近よく眠れない、いろいろなことに興味が持てない、不安やイライラが続く、死にたい……。これらはすべて、よく知られているうつ病のサインだ。こうした症状が表れたら、普通なら休養を取ったり、心療内科の受診などを検討するだろう。

だがその前に、普段服用している薬の副作用を確かめたほうがいいかもしれない。実は、ありふれた処方薬の副作用で、うつ病になる可能性がある。

最新研究が明かす副作用の実態

世界5大医学雑誌の一つ、アメリカの医学総合ジャーナル『JAMA』2018年6月12日号に掲載された最新研究によると、アメリカ人の3分の1以上が、副作用でうつ病を起こす可能性がある処方薬を少なくとも1剤以上服用していることが明らかになった。

イリノイ大学のグループが2005年から2014年のアメリカ国民健康栄養調査データを研究した結果、こうした薬を処方されている人は、処方されていない人に比べて、うつ病の割合が高かった。

うつ病の副作用が起きる可能性のある薬の処方数が増えると、うつ病がある人の割合も高くなっていた(うつ病の有病率は、処方なし:4.7%、1剤処方:6.9%、3剤以上処方:15.3%)。

今回の研究対象になった処方薬には、うつまたは自殺念慮の副作用が出る可能性のある薬が200種類以上含まれていた。この中で最もよく用いられている薬は、降圧薬、プロトンポンプ阻害薬、鎮痛薬、ホルモン避妊薬だった。

イリノイ大学の研究者らは、うつ病とうつ病を起こす可能性がある薬の処方との関連について、医師が患者と話し合うべきだと結論している。


内科外来にいると、健康診断で脂質異常症(高コレステロール血症)を指摘された中高年男性がよく来る。彼らはスタチンという脂質異常症の薬を定期的に処方されて毎日飲み続けている。
その中には「薬が好きで、飲んでいると安心」という人もいれば、「できれば薬は飲みたくないけど心筋梗塞リスクが不安だから飲んでいる」人や、「いったいどの程度効果があるんだろうと思いながら飲み続けている」人もいる。

各企業に社員の健康診断100%受診を義務にして、得られた結果をもとに健康指導を行い、リスクを提示して医療機関へ誘導する。この仕組みは本当に罪深いと思う。
こんなことをされたら、大多数の人はもちろん不安になるし推奨を断れないし、医療機関の定期通院・定時内服のサブスクが始まってしまう。

これは言い方を変えれば、「医療側が個々人に無理矢理介入してリスクを見つけて脅して治療を始めさせるように仕向ける」ようなもの。
表向きは国民の健康増進のためとは言うものの、はたして本当にプラスになっているのか。自律の侵害であり、医療のエゴではないのか。

たとえばこのスタチンという薬も、それがどれくらい有効かはその人の年齢や家族歴や喫煙歴や高血圧や糖尿病の有無など、他要因の有無によって大きく異なる。
NNT(Number Needed to Treat)という指標がある。これは1人の予防(治療)効果を示すために、何人治療する必要があるかを示す。たとえばNNT 100の薬とは、100人に投与すると1人効果が得られるが、残り99人には効果がないかも、というものである。

下記サイトで紹介されている研究にはこう示されている。
”心筋梗塞を5年間で1件予防するためのNNTは、全集団が中程度のスタチン療法を受けた場合、70~100歳が最小で(NNTは70~79歳:145、80~100歳:80)、年齢が下がるにつれて増加した(同60~69歳:261、50~59歳:439、20~49歳:1,107)”

年齢によってNNTは大きく異なり、最も有効とされる80-100歳では80、効果が乏しい20-49歳では1107である。
つまりこの研究における20-49歳では、少なくとも5年間だけを見れば1100人に投与してやっと1人に予防効果がある=残りの1099人には効果がないかも。

しかし翻って実際の臨床現場で患者さんに伝わって理解される情報は、
「コレステロールが高いと心筋梗塞のリスクが高まる。スタチンを飲めば”全員に”予防効果が得られるから、飲んだ方が良い」
という、きわめて単純化されたものになってはいないか?

患者さんたちは個々の研究の詳細まで分析するトレーニングを受けていないし、そんなことをする余裕も時間もないし、結局はテレビや医者の言うことを聞くしかない。
でも実際には、よくよく調べてみるとリスクが高くない人たちにとってはそもそもそんなに心配いらないし、治療薬もほとんど効果が期待できなさそうだったりする。
素晴らしい予防薬とされるスタチンですらこの程度であって、もっと悲惨なNNTなのに「あなたにはリスクがあるから」「この薬には効果があるから」と飲まされている薬が世の中にはたくさんある。

さらに言えばこのNNTもかなり乱暴な数値ではあって、一人一人の背景は全く異なるから、同じNNT100の薬でもあなたは他のリスク因子がかなりあるから飲むべきかも、でもあなたは他のリスク因子が全然ないから飲まなくてよいのでは、と考えるべきもの。

長くなったのでこのへんにするが、こうした状況をどう考えるか。
私はものすごく罪深いと思うし、不健全だと思う。
詳細を知られないのを良いことに、義務化した健診で無理矢理介入して、リスクで脅して効果を有耶無耶にして治療を開始する。

もちろんそれでも治療したい人はすればいい。
でもいろんなことを知ればやっぱり治療したくない、通院や内服のストレスが大きいからやめたいという人もいる。
さらには本当はそんなにリスクが大きくないのに、一律に不当に煽られて不安になってしまって健康を害したり生活が歪んでしまう人がいる。

そういうところにもっと焦点を当てて、みんな当事者意識を持って考えていかないと、このままAIだ人工知能民主主義だとなっていくといよいよ文句が言えなくなる。
医者に都合の良い解釈ばかりAIが提示してきて、それに逆らえなくなる。訂正できなくなる。
そんなことを恐れています。

carenet.com/news/journal/c…



高LDL-C値の70歳以上、心筋梗塞・アテローム性心血管疾患リスク増大/Lancet

ケアネット(2020/12/3)

 

非アテローム性心血管疾患・非糖尿病・スタチン非服用で、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールが上昇した70~100歳集団は、心筋梗塞やアテローム性心血管疾患イベントの絶対リスクが最も高いことが、デンマーク・オーフス大学病院のMartin Bodtker Mortensen氏らが行った、同国一般住民を対象とした大規模コホート試験「Copenhagen General Population Study(CGPS)」で明らかにされた。

一方で、同70~100歳集団は、同イベントの発症を5年間で1件予防するための必要治療数(NNT)が最も低いことも示された。著者は、「本試験のデータは、増え続ける70~100歳集団の心筋梗塞およびアテローム性心血管疾患の負荷を軽減するために必要な予防戦略にとって重要なものである」と述べている。先行研究では、70歳以上のLDLコレステロール値上昇は同イベント発症リスク増大と関連していないとされていた。Lancet誌2020年11月21日号掲載の報告。

アテローム性心血管疾患・糖尿病、スタチン服用のない20~100歳を追跡
 研究グループは先行研究の仮説を直近の70~100歳集団で検証するため、2003年11月25日~2015年2月17日に9万1,131例を対象に行われたCGPSの被験者データを解析した。被験者の年齢は20~100歳で、ベースラインでアテローム性心血管疾患や糖尿病がなく、スタチンを服用していない参加者を包含した。LDLコレステロール値は標準的な病院検査法を用いて測定された。

 心筋梗塞およびアテローム性心血管疾患についてハザード比(HR)と絶対イベント率を算出し、5年間でイベント1件を予防するためのNNTを推算して評価した。

LDL-Cが1.0mmol/L増でMIリスク1.3倍、70歳以上で増幅顕著
 被験者9万1,131例は2018年12月7日まで、平均7.7(SD 3.2)年追跡を受けた。その間に1,515例が初回心筋梗塞を、また3,389例がアテローム性心血管疾患を発症した。

 心筋梗塞リスクは、LDLコレステロール値が1.0mmol/L上昇するごとに増大することが、全年齢集団において認められた(HR:1.34、95%信頼区間[CI]:1.27~1.41)。同増大の関連は、いずれの年齢群においてもみられ(HRは20~49歳:1.68、50~59歳:1.28、60~69歳:1.29、70~79歳:1.25、80~100歳:1.28)、70~100歳でもリスクの増大はみられた。

 アテローム性心血管疾患リスクも、LDLコレステロール値が1.0mmol/L上昇するごとに増大することが、全年齢集団において認められ(HR:1.16、95%CI:1.12~1.21)、70~100歳でもリスクの増大はみられた(HRは70~79歳:1.12、80~100歳:1.16)。

 心筋梗塞リスクは、LDLコレステロール値5.0mmol/L以上上昇が3.00mmol/L未満上昇に比べ増大することも認められた。80~100歳のHRは2.99(95%CI:1.71~5.23)、70~79歳では同1.82(1.20~2.77)だった。

 LDLコレステロール値の1.0mmol/L上昇ごとの心筋梗塞発症率(件/1,000人年)は、70~100歳群で最大で、年齢が下がるにつれて減少した。心筋梗塞を5年間で1件予防するためのNNTは、全集団が中程度のスタチン療法を受けた場合、70~100歳が最小で(NNTは70~79歳:145、80~100歳:80)、年齢が下がるにつれて増加した(同60~69歳:261、50~59歳:439、20~49歳:1,107)。

(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)