増税への怒りが爆発して政府転覆も――私たちはなぜ税金を納めなければならないのか?

「増税クソメガネ」――あの手この手で増税を試みる岸田首相に対して、こんな品のないあだ名がつけられるほど、税金という問題は国民の心に火をつける。

実際、世界史を振り返れば、租税問題によって政府転覆、さらには国家転覆=革命にまで至った事例は少なくない。極端に言えば、税金こそが歴史を動かしてきたとも言えるだろう。
 
 京都大学教授の諸富徹さんの著書『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』(新潮選書)には、税金問題が世界史においていかに重大な位置を占めてきたのかが解説されている。一部を再編集して紹介しよう。

国家にとっての「租税」とは

市民革命や独立戦争の導火線となった租税問題

あるいは、1775年に始まったアメリカ独立戦争。この戦争のきっかけとなったのは、その2年前のボストン茶会事件だった。そもそもこの茶会事件は、イギリス本国政府が植民地における茶の独占販売権を東インド会社に与えようとしたことに対するボストン市民の不満とともに、イギリスが北米大陸の植民地獲得をめぐってフランスと争った7年戦争の戦費を、アメリカ市民にも負担させるべく導入した茶税をはじめとする諸税への反発として始まったものである。

 租税問題は市民革命や独立戦争の導火線となり、近代国家を成立させる触媒の役割を果たしたのである。さらに革命の結果として、市民社会は国家に対して自分たちの同意なしに課税しないという「租税協賛権」を認めさせたばかりか、それまでは王が課税を行いたいと考えたときに一方的かつ臨時的に議会を招集していたのに対し、恒久的かつ定期的な議会開催をも認めさせた。近代的な議会制度が成立するきっかけを提供したのもまた、租税問題だったのである。

 このように、「租税」という視点から振り返ると、欧米の近代史のありようが従来とは違った姿で鮮明に浮かび上がってくる。それはまた、現代日本の社会のあり方にも直結しているとさえ言える。