政府行動計画改定案 予定より前倒し? 大量パブコメへの対応は? 新藤大臣の答えは

楊井人文 によるストーリー
1 日
 

政府は、コロナ禍の課題を踏まえ、今後の感染症危機への政府方針を定めた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の全面的な改定作業を進めています。4月24日に公表された改定案に対するパブリックコメントの募集が行われたところ、14日間で約19万件という過去に類例を見ない意見提出がなされました。ただ、政府は6月中の閣議決定を行う方針を示し、現時点で粛々と進める姿勢を崩していません。

この政府行動計画改定案については、政府主導の「偽・誤情報」対策が盛り込まれた上、「封じ込め」ありきで、行動制限措置の歯止めが入っていないといった問題点があることを、すでに指摘してきました。

 

さらに、この改定案の経緯を調べると、次のような疑問点も浮かびあがってきました。

① 当初の想定スケジュールより早く改定案が提示されたとみられ、全体として前倒しで動いているのではないか② 19万件ものパブコメを丁寧に確認するなら1ヶ月では不可能ではないか③ 意見を聴くことになっている有識者会議が、法律上の定員の半数以下しか任命されていないのはなぜか

こうした疑問点を踏まえ、担当閣僚である新藤義孝・内閣府特命担当大臣に政府の改定方針をただすことにしました。

今回は、こうした疑問点をめぐるファクトと、新藤大臣の答弁内容について詳しくお伝えします。

当初「1年かけて」「夏に改定」と説明

まず、政府行動計画の閣議決定が、当初予定より前倒しで行われてようとしているのではないか、という点について解説します。

政府行動計画は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、有識者からなる「新型インフルエンザ等対策推進会議」の意見を聴いて政府が作成するもので、内閣の閣議決定が正式な決定手続きになります(国会に対しては事後報告のみ)。

これまでの改定作業は、次のように進められてきました。

【2023年】

5月8日 新型コロナの感染症法上の位置付けを「5類感染症」に移行

9月1日 「内閣感染症危機管理統括庁」発足

9月4日 新体制のもとで「新型インフルエンザ等対策推進会議」を初開催

9月13日 岸田内閣改造で、感染症危機管理担当大臣に新藤義孝氏を任命

10月〜 同推進会議で、有識者ヒアリングを始める

12月19日 同推進会議が「改定案に向けた意見書」をとりまとめ

【2024年】

4月24日 第11回会議で改定案が初めて示され、パブリックコメントの募集開始(〜5月7日)

新たな司令塔として官邸直轄の内閣感染症危機管理統括庁が発足してすぐに、新型インフルエンザ等対策推進会議の1回目が開催されました。前身の有識者会議を含め尾身茂が退任した後、最初の会議です。

そこで示された改定スケジュールの資料には、「6月頃 政府行動計画改定(案)」と記されていました(後掲の図参照)。

 

統括庁の事務局は「1年かけて」議論し、改定案をまとめるのが「6月」、改定の手続きを行うのが「夏」と説明していたのです。

(以下引用)

月1~2回程度、基本的な考え方、あるいは、これは1年かけて議論いたしますので、特に感染症危機の初動におきましてどういった行動を行うかということで、なるべく早くまとめさせていただきたいと考えてございます。 ・・・

御議論いただきまして、令和6年6月頃に行動計画の改定案をまずまとめていただきまして、その後、事務的な手続を取らせていただいて、夏には行動計画を改めさせていただきたいというスケジュールでございます。

(以上引用)

第1回新型インフルエンザ等対策推進会議(2023年9月4日)議事録より

昨年9月からスタートしたため、今年7〜8月の正式な閣議決定を想定していたとみられます。

ところが、今年3月の会合で示された改定スケジュールでは、改定案をまとめるのが「5月」、最終的な改定手続きを意味する閣議決定が「6月」となっていました。

私は、当初より1〜2ヶ月前倒しになっているのではないか、対策の実施方法を誤れば国民生活に重大な影響を与える極めて重要な政策なのになぜそこまで急ぐ必要があるのか、という疑問をもち、新藤大臣に質問することにしたのです。

 

 

新型インフルエンザ等対策推進会議の第1回会議資料、第11回会議資料よりそれぞれ抜粋

新藤大臣「前倒しと考えていない」

5月10日の記者会見に初参加し、新藤大臣に大量のパブコメが提出されたことへの受け止めについて尋ねました。大臣は「政府の見解については、6月をめどに政府行動計画の改定とあわせて、結果公示の段階でお示しをしたい」と述べ、6月に正式な改定を行う方針を示していました。ただ、初回の参加ということもあって、それ以上深くは尋ねませんでした。

5月14日の会見では、改めて改定案が6月、その後の夏に改定という当初予定より早くなっているのではないかと尋ねました。

大臣は「私は前倒しとは考えていない」と述べた後、次のように説明しました。

(以下引用)

いまご指摘された4月末に出しましたのは素案です。ですから、推進会議に対して素案を出して、それをパブリックコメントをかけながら、また最終調整をして、6月ぐらいにはこの改定案を取りまとめるということで動いているわけです。

 

ですから、今までのお示しした枠の中だとかスケジュールの中で動いているというふうにご理解いただきたいんですね。

その上で、この改定案が取りまとめられましたならば、また有識者会議で最終的な議論をして取りまとめられましたらですよ、その上で、今度は与党の政策調整プロセスや事務的な手続きに入ってまいります

それが終了すれば、速やかに閣議決定という運びになるので、ですから、恐らく今の形でいくと、6月ぐらいにはこの改定案の取りまとめができるかなと考えております。

(以上引用)

新藤義孝・内閣府特命担当大臣の発言(5月14日記者会見、動画

大臣の説明はやや混乱しているようにも思えますが、「素案」(4月24日提示)→「パブコメ」→「改定案とりまとめ」→「与党の政策調整プロセスや事務的な手続き」→「閣議決定」という流れを前提に説明しているようです。

「改定案とりまとめが6月」というラインは、繰り返し強調していました。

これは、確かに第1回会議で示された「6月頃 政府行動計画改定(案)」というスケジュールと一致します。そこから最終的な手続きを急いで「6月中に閣議決定」に間に合わせる考えなのかもしれませんが、閣議決定の時期は明言されませんでした。

私は、大臣の説明をひとまず受け入れた上で、「改定案とりまとめが6月」で進めて本当にいいのか、と質問を重ねることにしました。

パブコメ19万件 ひと月で精査可能か?

今回の改定案へのパブリックコメントは、14日間で約19万件に達しました。

過去に、約12万件(30日間、2011年の動物愛護管理法改正関連)、約9万件(15日間、2013年の特定秘密保護法)という事案が知られていますが、今回がおそらく過去最多ではないかとみられます。

大手メディアは政府行動計画についてほとんど報じていませんでしたが、私が記事を出した後CBCテレビが詳報したこともあり、SNS上などでパブコメ提出の呼びかけが広がったようです。

1人で何回も出せるため、実際の提出人数は結果公示での発表を待たなければなりませんが、提出期間が短かったことも考えると、極めて異例の件数でしょう。

どれくらいの量か単純計算をしてみましょう。確認作業時間を意見1件あたり1分と仮定し、8時間まるまるパブコメ確認作業に当てたとすると、1日あたり480本。1人で19万件をこなすのに400日間かかる計算です。専任5人が分担しても80日間です。

パブコメは形式的に募集しているだけで、まともに精査されることはない、という見方もあります。

一方で、新藤大臣は私の質問で、こう発言しました。

(以下引用)

今回の政府の行動計画案のパブリックコメント、意見募集期間5月7日で終了いたしまして、約19万件ご意見を頂戴いたしました。国民の皆様の関心を背景にして多くのご意見いただいたと、このように受け止めています。

その上で、中身につきましては事務局においてこの意見の一つ一つを確認し、整理をしているというふうに報告を受けています内容を精査した上で、この新型インフルエンザ等対策推進会議の委員のご意見も伺いながら、必要なものをですね、適切に政府行動計画に反映したいと考えています。

(以上引用)

新藤義孝・内閣府特命担当大臣の発言(5月10日記者会見、動画

5月14日の会見でも新藤大臣は「きちんと精査する必要があると思っています」と述べた上で、「中には同じ文章で同じ趣旨のものが含まれていると(聞いている)。同じ内容であればすぐにカテゴリーが分けられるわけですから、その内訳というものをきちんと精査した上で丁寧に対応していきたいと考えています」と答えました。

政治家の言葉は重いですから、この発言を聞いた役人もパブコメをぞんざいに扱うことはできないはずです。

 

「スケジュールありきではないか」の問いに新藤大臣が語ったことは

新藤大臣は「先に閣議決定の時期を決めて、そこから逆算して作業しているわけではありません」とも述べました。その真意を再確認するために、私は踏み込んで再質問しました。

「コロナ禍の3年間、国民は大変な思いをしました。何でここまで大変な思いをさせられたんだという方々も少なくない … 本当に(6月に最終案をまとめるという)そういう流れでいいのかということは、今日はここですぐにお答えはできないかもしれませんけれども、スケジュールありきではないとお聞きしてよろしいでしょうか」と。

それに対し、新藤大臣は「もちろんです」と即答した上で、少し長めの答弁をされました。

(以下引用)

私もですね、このコロナ、私だけじゃなくて全国民がもうコロナで本当に苦しい目に遭ったわけです。そして、まさかここまでだと思うほどの社会的な縮小まで経験しました。それから、コロナによってたくさんの方も命を落としてしまったし、本当に残念な思いがございます。

私も、自由にいろんな意見を出してくださいという中で、本当にこの濃密な議論をしてまいりました。私自身も幾つかの項目を提案させていただきました。…(略)…

… 可能な限りのことを想定しながら、そして、いろんな懸念があるのも踏まえた上で、この計画を定めていく、そして常にそれはブラッシュアップし、ローリング(修正)していくことだと思っています。ですから、今回のことがですね、初めにいつまでに決めるではなくって、やっぱり作業の結果なんです。…(略)…

… 皆さんはいつ決めるんだとか言われると、それに役所のほうがこのぐらいにというので、それが何か前提となって作業しているかのように聞こえてしまうんですけども、作業は逆です。(以下、略)

(以上引用)

新藤義孝・内閣府特命担当大臣の発言(5月14日記者会見、動画

新藤大臣の想いがそれなりに伝わる答弁でした(引用は省略していますので、全体の発言は動画でご確認ください)。

有識者会議は定員の半分未満 大臣の説明には矛盾点

ここで終わろうかと迷いましたが、大臣もこのあと予定が詰まっているわけではなさそうでしたので、もう一つ疑問をぶつけることにしました。

政府行動計画を検討する「新型インフルエンザ等対策推進会議」が現在15人しか任命されておらず、法律上の定員35人を大きく下回っているのはなぜかという点です(委員名簿)。

現在の委員の内訳は、医療系専門家6人、自治体の長2人、経済団体2人、労組1人、経済学者1人、行政学者1人、リスクコミュニケーション専門家1人、弁護士1人。法律上は、あと20人の任命が可能なのに空席となっています。

 

 

内閣官房・新型インフルエンザ等推進会議のページより

のちに説明するように、定員の半数以下というのは、異例のことです。

(以下引用)

第七十条の二の二 新型インフルエンザ等対策の推進を図るため、内閣に、新型インフルエンザ等対策推進会議(以下「会議」という。)を置く。

第七十条の四 会議は、委員三十五人以内をもって組織する

第七十条の五 委員は、感染症に関して高い識見を有する者その他の学識経験者のうちから、内閣総理大臣が任命する。

(以上引用)

新型インフルエンザ等対策特別措置法

甚大な社会的影響があったコロナ禍の記憶が新しく、委員数が多いと様々な意見が出て長期化することも考えられるところです。そうならないよう、滞りなく取りまとめるをしようと考え、委員を減らしたのかもしれないという疑念がありました。

そこで私は、定員の半分以下しか任命されていないという事実を指摘した上で、改定案の中身について「もっと行動制限をかける可能性も十分残った内容になってしまっている。いろんな専門家の方にもっと意見を聞いて、慎重に議論を進めたほうがいいのではないか」と尋ねました。

委員の数が少ないという私の指摘を聞いた役人の方が急いでメモを差し入れる場面があった後、新藤大臣は、コロナの位置付けが5類に移行し、有事から平時に変わったので、それまでの35人から15人に減らした、という趣旨の説明をしました。

これは明らかに矛盾のある答弁でした。

いわゆる「平時」から、この有識者会議は分科会を常設し、30人体制で維持されてきたという事実があるからです。

【特措法に基づく有識者会議の委員数の変化】

・2011年 2009年新型インフルエンザ(A/H1N1)5類移行

・2012年 政府行動計画策定時、分科会も設置 30名任命(定員30)

・2013年 政府行動計画策定時、分科会はも設置 30名任命(定員30)

・2020年3月 コロナ禍の発生後、有識者会議を増員 40名任命(定員40)

・2021年4月 特措法改正により「推進会議」に改称 35名任命(定員35)

・2023年5月 新型コロナウイルス感染症5類移行

・2023年9月 分科会廃止、15名任命(定員35)

私はこの事実を指摘して、もっと色々な分野の専門家にも意見を聞き、じっくりスケジュールありきでない議論をしていただきたいとの意見を述べると、新藤大臣から「意見として受け止める」と答えが返ってきました。

最終案とりまとめは予断を許さず

本来、記者会見は、意見を述べる場ではなく、質問をする場であることは百も承知の上です。

ただ、新藤大臣は今週訪米の予定があり、この日の答弁からは「6月最終案決定」の可能性が拭えず、事務方が示したスケジュール案に従えば、早ければ来週にも新型インフルエンザ等対策推進会議の会合が開かれ、最終案が事実上固まる可能性も残されていました。

コロナ禍の検証活動を4年近く続けてきた人間として、この改定案の内容で拙速に決めるのは大きな禍根を残すとの思いから、ついつい私見も織り交ぜながら、結果的に5回も質問を重ねてしまいました。少しやりすぎたかなと思う反面、新藤大臣には(おそらく)嫌な顔一つせず、答弁していただいたと思っています。

ただ、今後の改定案スケジュールは、予断を許さない状況です。今回は、改定プロセスに焦点を当てましたが、内容面も含めて引き続き機会をとらえて閣僚記者会見で質問しつつ、解説していきたいと考えています。