大規模比較ゲノム解析から推測される麹菌の家畜化前後の進化
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DNA Research, 26巻, 6号, 2019年12月, 465-472ページ, https://doi.org/10.1093/dnares/dsz024 

2019年11月22日

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要旨

 Aspergillus oryzaeは工業的に有用な種であり、様々な菌株が同定されているが、それらの遺伝的関係は不明なままである。

従来、A. oryzaeは無性生殖であり、交配はできないと考えられていた。

しかし最近の研究で、A. oryzaeに近縁なAspergillus flavusの有性生殖が明らかになった。

本研究では、A. oryzaeの有性生殖の可能性と

A. oryzaeとA. flavusの進化史について検討するため、実際に使用されているA. oryzae 82株の

ドラフトゲノムを作成した。

遺伝子を連結した系統樹の結果、

A. oryzaeは単系統であり、A. flavusの

1つのクレードに入れ子になっているが、

ゲノム構造の異なる複数のクレードを形成していることが確認された。

この結果から、A. oryzae株はA. oryzaeの

祖先の間で複数回のゲノム間組換えを受けた

ことが示唆されるが、家畜化された種間の

性的組換えは、少なくとも過去数十年の家畜化の過程では起こらなかったようである。

また、家畜化の過程で、少なくとも

過去数十年間は、家畜化種間の性組換えは

起こっていないようである。

我々は、家畜化種間および家畜化種内の

比較解析を通して、A. oryzaeの家畜化によって引き起こされた進化的圧力は、発酵特性に

関与する遺伝子の非同義変異やギャップ変異を選択的に引き起こし、ゲノム内の再配列を

引き起こすようであり、工業的に有用な触媒

酵素コード遺伝子は保存されていることを見いだした。



《麹菌は日本人が家畜化した微生物》 


 日本では古くから、日本酒、醤油、味噌などの製造に使用されてきた麹菌。
その祖先は「アスペルギルス フラバス」
最強のカビ毒アフラトキシンを産生することで知られますが、古の人々の根気強い努力により無毒化に成功。
「アスペルギルス・オリゼー」麹菌です


「和食 千年の味のミステリー」(国際共同制作)
より

ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」
その味を決める「みそ」「しょうゆ」「みりん」…
こうした和食特有の「うまみ」がつまった調味料は、麹菌によってもたらされています。


今から千年ほど前、日本人は、自然界に漂う何億種類のカビの中から、A・オリゼを抽出する方法を世界で初めて編み出しました。
鎌倉時代には、蒸し米の上でカビを育て、どこにでも運べる「カビの種」を作る種麹屋が現れました。種麹屋はいわば、「世界最古のバイオビジネス」


この登場で、A・オリゼは全国に広まり今に至ります。 日本酒も、このA・オリゼの力から。カビをこれほど巧みに扱う民族は世界に他にありません。


あらゆる「うまみ」のベースには、このカビとその仲間がいるからこそ、和食は統一感のある味と香りのハーモニーを奏でることができるともいえるのです。