東京マラソンで初めての死者

3月3日に行われた東京マラソン。およそ3万8000人が参加しました。

しかし、69歳の男性ランナーが21キロ付近で転倒。頭を打ったとみられ、意識不明となり病院に運ばれましたが、その後、死亡しました。

2007年から始まった東京マラソンで、ランナーが死亡するのは初めてだということです。

愛媛マラソンではゴール直前で心停止

ことし2月の愛媛マラソンでも、あわやという事態がありました。

6回目のフルマラソンに挑んだ山内直樹さん(65)。
今回を最後のレースと考え、完走を目標に臨みました。


制限時間は6時間。


レース序盤は好調に走っていましたが、後半になると急にしんどいと感じるようになりました。


コースには10か所チェックポイントが設けられていて、最後の関門は40.5キロメートル地点。山内さんは突破を目指して力を振り絞ってダッシュしました。


そして、あと少しでゴールという残り100メートル地点の橋のところで…。




山内さんは倒れてしまいました。


山内さん

「橋まで来て橋を越えた覚えもあるのですが、『なかなかゴールに着かんなぁ』と思っていたら、病院でした。目の前が真っ暗になった記憶はあります。橋を越えたと思っていたのに、映像を見返したら橋を越えていなかった。夢を見ていたのかもうろうとしていたのか記憶がごっちゃになっているようです。気付いたら病院にいました」


山内さんがフラフラと倒れる様子を見ていたのが、たまたまマラソンを走り終えたばかりの3人の消防職員です。


3人は連携して気道確保と心臓マッサージを施し、心肺蘇生を行うとともにAEDを持ってくるよう周囲に指示を出します。


そして、届いたAEDを使って処置。素早い処置のおかげで無事に救急車の中で心拍が再開しました。




「助かりました。もしどこかほかのところで倒れていたら処置には時間がかかっただろうし、数分の差で運命が変わると聞きました。幸運やったね」

意識が戻った後で、スマートウォッチの記録を確認してみたところ、当時の心拍数は195まで上がっていました。



「ふだんは心拍数が160を超えるとしんどくて走れないところですが、大会だからと知らず知らず無理をしたのか、190を超えるような心拍数になっていました」

マラソンのほかにもトライアスロンやラグビーなどさまざまなスポーツに取り組んできた山内さん。

大会の1週間前から少しかぜ気味だったといいます。

山内さんは同年代のランナーに自分のようなことが起きる可能性があることを意識してほしいと話します。

「自分が倒れるなんて『まさか』という思いやった。しんどいとは思ったけれど、胸が痛いとか苦しいとかいうのはなかったのでね。同じ年代のランナーに伝えたいのは、体調が悪かったらやめないかんのと、若い人はいいんだろうけどこのくらいの年になると突然、心停止するようなことがあると知っておいたほうがいいということ。練習のときも気にしながら仲間と走るとか、意識しておいたほうがいいと思います」
中高年に人気のマラソン

マラソン大会の参加者ですが、年齢別に見ると、中高年の参加が目立ちます。

ことしの東京マラソンの場合、エントリーが最も多かったのは50代で、次が40代、合わせて6割を超えました。

また、最高齢は男性が89歳、女性が82歳と、年齢を重ねても走り続ける人も多くいます。

ランニングへの関心も高まっています。

スポーツに関する調査を行っている笹川スポーツ財団によると、年1回以上のジョギング・ランニングを実施した人は2022年は全体の8.5%にあたる877万人と推計されています。

コロナ禍で活動が制限される中、走り始めた人もいて、ピークの2020年には1055万人にのぼりました。

その後、走るのをやめてしまう人もいる中で、60代と70代以上の男性は前回よりも増え、70代以上は過去最多の7.1%にのぼりました。

男性で最も走っているのは40代でした。

一方、女性は男性と傾向が異なり、最も多いのは20代でした。

 危ないのは初心者よりもサブ4ランナー

幅広い年齢層が参加するマラソン。安心して楽しむためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか。

マラソン大会での救護活動を続ける国士舘大学の喜熨斗智也准教授に聞きました。



喜熨斗准教授は、これまで20年以上マラソンやロードレースの大会の救護に関わり、44人のランナーの心停止に対応してきました。

マラソン中に心停止を起こした人は高齢者に限らず、幅広い年齢で注意が必要だといいます。

喜熨斗准教授
「マラソンは年齢にかかわらず、一定の確率で心停止を起こす可能性のあるスポーツです。心停止が最も多かったのは、マラソン初心者ではなく、タイムが4時間前後の人でした。誰にでも起きうることだと思ってほしいです」

また、レースの後半は特に注意してほしいといいます。

「フルマラソンでもハーフマラソンでもレースの後半になればなるほど心停止が発生する確率が高いです。『最後のひとふんばり』とタイムを競うなかで頑張りたいところだと思いますが、『最後に無理な走り』をするのはやめたほうがいいです。水分をしっかり補給して脱水症状にならないようにしながら走るのが重要です」



「マラソンで疲れて転倒したときは、ふだんの生活と違って疲れや筋肉の痛みで手が出せず、頭や顔の大けがや死亡の危険性もあります。疲れないように走るのは無理でも、そういう危険があることを知って気を付けてほしい。ゴール直後もすぐに立ち止まらずに歩いてペースを落として体を慣らすことも必要だと思います」

健康のためのマラソンで悲しい事故が起きないように。ランナーの皆さん、無理しすぎずに自分のペースで楽しみましょう。