3・11後に初めて「原発運転差し止め」判決を出した元福井地裁裁判長・樋口英明氏「日本には強い地震に耐えられる原発はひとつもない」
週プレNews
2021年04月20日(火)06:00

3・11後に初めて「原発運転差し止め」判決を出した元福井地裁裁判長・樋口英明氏が、退官後も原発の危険性を訴え続けるわけとは――?
裁判官は退官後、自身の関わった事件について論評することはしない――。この裁判所の伝統を、かつて原発の「運転差し止め」判決を出した樋口英明元裁判長は「そんなことを言っている場合ではない」と破り、退官後も全国各地で原発の危険性を訴える講演を行なっている。

そして、3・11から10年を迎えた今年3月に、『私が原発を止めた理由』(旬報社)を上梓(じょうし)した。ここには、なぜ自身が運転差し止めを命じたのか、そしてなぜ多くの裁判官が差し止めを認めないかの理由が書かれている。

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――樋口さんは、福井県などの住民166人が関西電力を相手取り、2012年11月30日に提訴した「大飯(おおい)原発3号機・4号機の運転差し止め請求訴訟」を担当しました。この裁判で驚くのは、そのスピードです。提訴からわずか1年半後の14年5月21日に、福井地裁で「運転差し止め」の判決を出しています。

樋口理由は簡単です。

あの原発裁判は難しい事案ではなかった。むしろ簡単な事案だったからです。
――簡単ですか?

樋口  はい。こう考えたんです。まず「原発には高い安全性が求められる」。これは誰も反論できない。

そして「地震大国の日本で、その安全性を担保するのは原発に高度の耐震性があること」。これも誰も反論できない。

そこで私は、日本で起きた地震の強さを示すガル(揺れの強さを示す加速度の単位)と原発の基準地震動(原発の施設に大きな影響を及ぼす恐れがある揺れ)を調べました。すると、誰が見ても原発に高い耐震性はないということがわかったのです。


――具体的には?
樋口  ほとんどの原発は基準地震動が700ガル程度だったのです。

私が裁判を担当した大飯原発は、3号機と4号機の運転開始時(それぞれ1991年と93年)には405ガルで設計・建造されていましたが、2009年に、関電によれば「コンピューターシミュレーションで700ガルまで大丈夫と確認できた」ということで引き上げられました。

――実際の地震のガルはどれくらいなのでしょう?

樋口  調べて驚きました。2008年の岩手・宮城内陸地震は4022ガル。11年の東日本大震災は2933ガルなど、日本では1000ガル以上の地震が、この20年間で17回起きています。


大飯原発の差し止め判決は取り消された。これを機に、退官後は原発の危険性を訴える講演活動に勤しんでいる

■『私が原発を止めた理由』
(旬報社1430円)
2014年5月に、福島第一原発事故後初となる原発運転差し止め判決を出した樋口英明元裁判長が、裁判所の伝統を破って自身が担当した裁判に触れながら「原発を止めなければならない理由」を明かし、裁判でも争われた「原発推進派の弁明」についてひとつひとつ丁寧に反論する。また3.11を経験したわれわれと司法の責任の重さを訴える