グリーンリカバリー?はぁ? | donのブログ

     

     

    コロナ後に目指す「グリーンリカバリー」

    EU、経済復興で気候変動に重点

    堀尾 健太/電力中央研究所主任研究員
     
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     5月27日、欧州委員会は、新型コロナウイルスによる危機からの復興計画の草案を公表した。欧州連合(EU)の予算とは別に、資本市場から7500億ユーロ(約88兆円)を調達し、「次世代EU(Next Generation EU)」と呼ぶ復興基金を創設するという。

    政策動員で持続可能性に配慮

     草案では、「グリーントランジション(環境配慮や持続可能性のある社会への移行)」の促進が強調された。環境と経済の両立は伝統的な問いではあるが、なぜこの問いが、コロナ危機からの復興の文脈で頭をもたげたのだろうか。

     
    2019年12月11日、欧州グリーンディール政策を発表した欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長(写真:欧州委員会)

     コロナ危機の発生以前から、気候変動は、EUにおける中心的な課題の1つだった。昨年12月1日に発足した、ウルズラ・フォンデアライエン氏を委員長とする新たな欧州委員会は、気候変動対策を中核とした政策パッケージの「欧州グリーンディール」を最優先課題に据えた。

     欧州グリーンディールの全貌は発足直後の12月11日に明らかにされたが、2030年までの温室効果ガスの排出削減目標の引き上げや、50年までの気候中立目標の法制化、エネルギーや運輸などのセクター別の施策、生物多様性や環境汚染対策など多岐にわたる政策領域を包含している。

     欧州グリーンディールで注目されるのが、「全てのEU政策におけるサステナビリティの主流化」と題する一群の政策だ。金融(サステナブルファイナンス)や社会政策(公正な移行)、競争政策(国家補助ガイドラインの見直し)といった、これまで気候変動や持続可能性と結び付いていなかった政策が含まれた。

     また、「欧州委員会による新たな取り組みの全てをグリーンディールの目的と整合させる」とも記された。これにより、気候変動や持続可能性は、温室効果ガスの排出削減などの従来の射程を超えて、社会や経済に関わる様々な政策に波及するものと位置づけられた。

     このような方向性は、昨年6月に欧州理事会(EU加盟国の首脳会合)が採択した「新たな戦略課題2019-2024」でも確認できる。この文書は、EUが取り組むべき戦略課題の4つの柱の1つとして、「気候中立で環境に優しく、公正かつ社会的な欧州の建設」を挙げている。

     14年の同様の文書では、気候変動はエネルギー政策にのみ紐づけられていた。この5年で、EUにおける気候変動対策の捉え方が変わったことが分かる。

    復興を次世代の利益に

     EU加盟国の首脳は3月26日に共同声明を発出し、フォンデアライエン委員長と欧州理事会のシャルル・ミシェル議長に対し、新型コロナウイルスの感染拡大によって停滞した経済を復興させるためのロードマップや行動計画の策定を求めた。この時、復興政策にグリーントランジションを統合することを求めた。

     これを受けて策定されたのが、5月27日に提示された復興基金「次世代EU」である。フォンデアライエン委員長は、復興基金について「今日の危機を乗り越えるための連帯を示すだけでなく、将来に向けた、世代を超える協定」と表現した。そして、次の世代の人々が復興策の展開を通じた利益を享受できるように、欧州グリーンディールを復興の中核的な政策の1つに位置づけた。

     「次世代EU」は、「加盟国に対する支援」や「民間投資の促進」「危機からの教訓(保健プログラムの新設など)」の3つの柱からなる。資金の大部分は加盟国の支援に充てられるが、その際にグリーントランジションを促進することが強調された。

     具体的な要素として建物やインフラの改修、循環経済の推進、再生可能エネルギーや水素などへの投資、運輸やロジスティクスのクリーン化などが挙がった。また、復興のための公的な投資は環境配慮を妨げるべきではないと記された。

     現時点では、この復興計画案はあくまでも欧州委員会の提案であり、今後、EU加盟国による交渉(全会一致での合意)と、欧州議会の同意を要する。既に、市場から調達する資金の返済方法や、加盟国からEUへの返済義務の有無などの論点が顕在化しており、最終的な着地点を見通すことは難しい。

     グリーントランジションについても、制度設計の詳細はこれからの交渉の結果次第だ。しかし、復興計画案の公表前から、EU加盟国や欧州の産業界からは様々な意見が表明されている。

     例えば、フランスとドイツは、5000億ユーロ規模の復興基金を提唱するとともに、セクター(産業種)ごとの「グリーンリカバリー・ロードマップ」の策定を提案している。

     他にもバルト三国は、国ごとの取り組み以上に、国境を横断する取り組み、特にエネルギー分野の「共通利益プロジェクト」(PCI)への予算の分配を増強すべきと主張している。欧州電気事業連盟は欧州グリーンディールへの支持を再確認した上で再エネや省エネ、電化などへの投資促進を訴えている。

     こうしたグリーンリカバリーへの関心はEUだけにとどまらない。例えば、国際通貨基金(IMF)は、4月に「復興のグリーン化」と題するメモを公表し、取り得る政策措置の一般的なリストを示している。現時点では、コンセプトや理念に関する議論が多いものの、復興の計画や予算についての検討が加速するにつれ、グリーンリカバリーについても議論が具体化していくと予想される。

     「新しい生活様式」などの言葉にも表れているように、「コロナ後」の社会は、あらゆる面でこれまでとは様相が異なるだろう。5月26日に行われた、日本とEUの首脳らによるテレビ会議後の共同報道発表には、グリーントランジションや「環境と成長の好循環」が復興戦略の一部だと明記された。今後は、短期的な経済・社会の復興と、持続可能性などの長期的な視野をいかに統合するかが注目される。

     

    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00159/060800002/ 

    コロナ後に目指す「グリーンリカバリー」 EU、経済復興で気候変動に重点欧州連合は「コロナ後」の経済復興策の検討を進めている。欧州委員会は政策や資金を、持続可能性に重点的に振り向ける考えだ。リンク日経ビジネス電子版 

     

     

    アフター・コロナの世界を再生する「グリーンリカバリー」とは?

    東京大学未来ビジョン研究センター教授・高村ゆかり

     

    コロナ後の世界と「グリーン・リカバリー」

    2020年は、国際的な環境政策のちょうど区切りの年にあたり、重要な会議が予定されている。生物多様性条約の締約国会議(COP15)では、2010年に名古屋で開催されたCOP10で合意された、生物多様性の減少を止めるための2020年に向けた20の戦略目標(愛知ターゲット)に続く次の目標が議論される予定である。

    また、2020年は、パリ協定の下で、各国がその削減目標(NDC)の見直し、再提出する最初のタイミングで、世界で高まる気候変動への危機感に対して、いかに世界全体の排出削減水準を引き上げる機会としうるかが注目されている。

    しかし、世界的な感染症の拡大のため、11月に英国・グラスゴーで開催予定だった気候変動枠組条約とパリ協定の締約国会議(COP26)は2021年に延期することがすでに決まり、10月に開催予定の生物多様性条約のCOPも延期を念頭に日程を調整している。

    災害・感染症に強靭な脱炭素社会を構築

    そうした中、ドイツが主要国の閣僚級を招いて毎年開催しているペータースベルク気候対話が、COP26の議長国・英国とともに、4月27・28日にweb会議で開催された。この会合の議論の中心が「グリーン・リカバリー(Green Recovery)」であった。
     この感染症によってダメージをうけた経済と社会を、パリ協定とSDGsと整合した、脱炭素で、災害や感染症にレジリエント(強靱(きょうじん))な社会・経済に、そして生態系と生物多様性を保全するよう、グリーンに復興していこうというものである。この「グリーン・リカバリー」の重要性、必要性は、すでにグテーレス国連事務総長も繰り返し発言している。

    近年の感染症のほとんどが人間、動物の種を超えて感染するウイルスによるものである。「サイエンス」誌に2018年に掲載されたキャロルらの論文では、野生動物にはなお約170万の未発見のウイルスが存在し、そのうち約63万―82万のウイルスが人に感染するポテンシャルがあると推計する。近年、こうした病原体の出現の速度が増しており、それは人間活動や気候変動による生態系の破壊など環境の変化が拡大していることによると考えられている。

    他方、気候変動が近年の豪雨や熱波などの異常気象の一因となっていると考えられているが、こうした異常気象により大きな災害が生じるようなことがあれば、感染症の抑制も、そのために必要な医療体制や生活基盤の維持も困難になってしまう。

     

    「コロナ後の世界」が日本でも議論にあがるようになったが、感染症によりダメージをうけた経済と社会の復興のための対策が新たな感染症のリスクや感染症の拡大を生じさせるようなものであってはならない。医療や公衆衛生の体制強化、拡充はもちろんのこと、問題を生じさせた元の社会経済のありように戻るのではなく、脱炭素で、レジリエントな持続可能な社会と経済を新たに構築する「グリーン・リカバリー」の視点がきわめて重要だ。
     そして、気候変動対策もグローバル化した世界での感染症対策も、それが効果をあげ、危機を乗り越えるには、すべての国の、みなの連携、協力こそが必要である。

     

    「健康か、経済か」「環境か、経済か」という単純な二項対立で考えていては問題を適切に把握できないし、解決もできない。相互に、複合的に連関するこれらの問題の統合的解決を組み込んだ経済、社会のありようを探り、その実現を目指すほかない。SDGsは、私たちが目指したい社会のありよう、共通の価値を示すものであり、その実現を通じて、より持続可能な経済社会システムへと転換を促し、導くことにある。こうした状況の中で、あらためてSDGs本来の価値と意義が問われているように思う。

    東京大学未来ビジョン研究センター教授・高村ゆかり氏
    【略歴】

    たかむら・ゆかり 島根県生まれ。専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。名古屋大学大学院教授などを経て現職。日本学術会議会員、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員、中央環境審議会委員、東京都環境審議会会長なども務める。

    https://newswitch.jp/p/22212 

    アフター・コロナの世界を再生する「グリーンリカバリー」とは?|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社こちらは、アフター・コロナの世界を再生する「グリーンリカバリー」とは?のページです。日刊工業新聞社のニュースをはじめとするコンテンツを、もっと新鮮に、親しみやすくお届けするサイトです。リンクニュースイッチ Newswitch 

     

    東京大学未来ビジョン研究センターってこのおっさんがいるところだよな↓

     

    https://researchmap.jp/read0201959