太陽の“地震”、プラズマ放出も原因？
2012.04.05
最新の研究によると、太陽表面で発生する地球の地震に似た強力な振動現象は、太陽大気から放出される荷電粒子（プラズマ）の巨大な塊によって引き起こされる可能性があるという。 太陽の振動現象は「日震」（sunquake）と呼ばれるが、これまで日震の原因は太陽フレアだと考えられてきた。太陽フレアは、X線、紫外線、物質を勢いよく宇宙空間に放出する太陽の爆発現象だ。
研究チームは、2011年2月15日に起こった2度の日震が、太陽フレアとほぼ同時に発生していたことを確認したが、このときのフレアの熱は震動波を引き起こすほどの高温ではなかった。
今回の研究を手がけたユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの宇宙科学者、セルゲイ・ジャルコフ（Sergei Zharkov）氏は次のように述べている。「稲妻が光ると雷鳴がとどろくように、太陽フレアの熱と放射線が太陽表面に圧力波をもたらすと考えられている。しかし、2月15日の現象は、そのように発生したものではない」。
代わりにこの日震の原因とみられているのは、コロナ質量放出（CME）だ。CMEとは、太陽の上層大気から荷電粒子の巨大な雲が噴き出される現象を指す。「これはCMEが原因とみられる日震の初の観測事例だ。（太陽フレア以外のものが日震を引き起こすことを裏付ける）初めての明確な証拠だ」とジャルコフ氏は述べている。
◆強力な日震の発生源
日震は、池に石を投げ込むと水面に広がる同心円状の波紋に似た現象で、その存在は1972年に予測されていた。巨大な波が広がってゆくことから「太陽津波（solar tsunami）」とも呼ばれる。
しかし、日震が初めて実際に観測されたと発表されるのは、1998年になってからのことだ。NASAの太陽観測衛星SOHO（太陽・太陽圏観測衛星：Solar and Heliospheric Observatory）が1996年に収集したデータの中から発見された。太陽フレアに続いて発生していたこの日震は、マグニチュード11.3に相当し、1906年に起きたサンフランシスコ地震の4万倍の強さを示した。
今回、ジャルコフ氏のチームが観測した2011年2月の2つの日震は、いずれも同年3月に東日本を襲った東北地方太平洋沖地震の1000倍の強さだったという。
ただし、今回の日震は太陽フレアが原因ではなく、らせん状をした“磁気ロープ”構造の、太陽表面とつながっている両端部から発生したとみられる。この磁気ロープを原因とするCMEも観測されている。
ジャルコフ氏らによる今回の観測結果は、太陽の振動現象が太陽フレアからの高温の圧力波だけでなく、他の複数の力によっても引き起こされている可能性を示唆している。「CMEが噴き出す粒子が太陽大気を押し下げることによって、日震が引き起こされているのかもしれない」。
もう1つ考えられるのは、積みあがった磁力線が太陽大気中に音波を発していることだ。これらの音波が太陽表面および表面下に衝突すると、反響によって日震が発生するとも考えられる。「現時点で（日震を引き起こす）メカニズムはわかっていない。物理的プロセスの正確なところは謎だ」とジャルコフ氏は述べている。
◆太陽が提供する「美しいデータ」
謎の部分を解明するためには、より多くの日震を観測してさらなるデータを集める必要がある。
ジャルコフ氏ら研究者にとって好都合なのは、太陽が2013年に極大期を迎えるとみられることだ。極大期とは、11年周期の太陽活動のピークをいう。
加えて、現在稼動中の太陽観測衛星は、数も性能もこれまでで最高のレベルに達している。
中でも「最も美しいデータ」を提供しているのが、2010年に打ち上げられたNASAのソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー（SDO）だ。SDOは、今後増加傾向をたどる日震現象に関して、これまでで最も質の高い観測データを提供してくれるとジャルコフ氏は期待を寄せている。
「これらの日震は、宇宙天気に最も直接的な影響を及ぼす太陽フレアやCMEの謎を解くカギの1つだ」とジャルコフ氏は述べている。太陽フレアやCMEは、人工衛星に混乱が生じたり、オーロラが出現したりする原因となっている。
ジャルコフ氏の究極の夢は、地震学者が地震を利用して地球内部の様子を探るように、日震を利用して太陽内部を「見る」ことだ。「日震は太陽内部に達するため、内部についての情報を含んでいる。われわれはその情報を入手して、太陽の表面下の様子を知りたい」とジャルコフ氏は述べている。
今回の研究成果はイギリス、マンチェスターで開催された英王立天文学会の会合において3月30日に発表された。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5876/?ST=m_news