【自分の畑は自分で診断する】
これなら分かる「土と肥料」の実践講座-世界から見た日本の土

土の持っているさまざまな性質のうち、土壌改良によって私たちが変えられるのは、ごく一部分に限られています。

 前回、この地球上のどこに、どんな土が分布しているかを簡単に紹介しましたが、その中で欠点のない土といえるのはチェルノーゼムだけなのです。これ以外の土は、皆何らかの欠点を持っています。そして、それらの上の欠点はほとんどの場合、簡単には変えられません。

 この上の欠点は、人間にとっての「持病」のようなものだと言えるかも知れません。私たちはこの持病といかに上手に付き合うか、この付き合い方の知恵を見出せるか否か、付き合う方法を知っているか否かが、明暗の別れ道といってもいいと思います。

 さて、世界の気候分布とその気象条件のもとで、同一パターンの土が生成し、それが世界地図の上で帯状をなすものが多いことは前回で理解できたと思います。例えば、ポドゾル、褐色森林上、ラテライト、チェルノーゼムなどがその典型で、土壌生成因子のうち、気候や植物の影響が特に大きいこれらの土壌を、成帯性土壌といいます。

 また、局所的分布をしており、その生成因子が、気候や植物の影響を受けながらも、他の因子、つまり岩石、地形、地下水等による影響を強く受けてできた土壌を成帯内成土壌と呼びます。例えば、火山灰土、泥炭土などがそれです。 


農業生産力としての分類


 では、このような自然科学的分類から離れて、農業生産力から世界の土をみるとどうでしょうか。

 まず、世界全土のうち、わずか24%しか耕作可能地はありません。約31億5000haです。この中で肥沃な土は33%です。チェルノーゼムが15%、沖積土が10%です。そして不良土であるラテライト(ラトソル)や砂漠土は、現在その面積を急速に拡大しつつあります。

 南米やアフリカでは適性規模の焼畑農業が理にかなっているのかもしれません。この地での大規模農業開発は、ごくわずかな表層腐植層を削り取り、丸裸の土を露出させ、そこに高温多雨が浸食と養分の流亡をおこさせます。熱帯雨林は、高速回転の自転車操業で成り立っている生態系です。この原理原則をよく考えた農業の手法で、なおかつ近代的方法をもって開発していかなくてはいけないので、極めて難しい課題といえます。

 日本の海外食糧依存体系は、このような厳しい状況下の中にこれから晒されていくということです。農業に関連する人々は、この現実に大きなビジネスチャンスと感じると同時に、大きな責任を感じることと思います。筆者も今年、中国揚子江流域の土壌調査にいってきましたが、脱米作りのテンポは早く、畜産や野菜作りなどに移行したいという話しが多く出ました。アジアの食糧はいつ奪い合いになってもおかしくないと実感したしだいです。

 では、このような中で、日本農業を支える日本の土はどうでしょうか。日本の土壌型について大陸のそれと比べて考えていきます。

 まず生成因子の一つ、気候に特徴があり、温暖多雨ということです。年間を通じて雨が多いので、大陸に分布するような草原系の乾燥地土壌はありません。また雨量が多いことに追い討ちをかけるように、母岩がカルシウム、マグネシウムをあまり多く含まず、ケイ酸分の比率の高い酸性岩が多く、このため雨による養分流亡と合わせて、生産力の低い酸性土壌が生成する条件となっています。

また山地が多く、地形が急峻、複雑で土地の浸食が激しく、大陸のように上の熟成が進みません。それに日本は、世界の活火山の平均の40倍も火山があるという火山列島であることから、その噴出物、火山灰が広く分布して、特有の土壌をつくっています。また、急な地形が吐き出した沖積土が、水田形成をしているのも特色の一つです。日本列島の土壌分布を図に示してみました。世界の土壌分布と違い、さまざまな種類の土が細かく分布しているという印象を受けると思います。世界の土壌図の中では、北海道はポドゾル、中部から東日本は褐色森林土、西日本は赤黄色土となっていましたが、それはごく大まかな分け方で、実際はもっと複雑です。 


褐色森林土


 では主な土壌の種類とその特徴について世界の土と比較してみていくと、まず褐色森林土の分布が広くみられます。これは、広葉樹林帯に生成する土壌ですがブナ林が主です。北海道ではミズナラが主となるでしょう。欧米大陸に分布する褐色森林上と違う点はpHです。欧米のこの土は、日本ほど雨量が多くないので中性域ですが、日本の褐色森林土のpHは4~5を示し、強酸性土壌です。また雨量だけでなく、欧米のこの土の母岩は石炭質岩石であることもその原因の一つです。このように、欧米の褐色森林土は農業生産力のある優秀な土壌ですが、日本のそれは、前述の理由から、少し区別して扱い、酸性褐色森林土と呼んでいます。 

 この上の生成する場所は、おおむね排水良好であり、耕地として取り組む場合も、酸性改良をきちんとすれば生産性の望める土です。 


赤黄色土


 土はその色がその性質を示すことが多いわけですが、土の色の源泉は鉄と腐植にあると考えてよいです。この赤黄色上は名前が示すように、酸化鉄に起因する目のさめるような赤色、あるいは黄褐色が特長です。分布は主に東海から山陽道にかけて顕著ですが、全国的に存在しています。私たちの目につくのは耕地よりも、工事現場や鉄道や道路の斜而のみごとな色合いかもしれません。 

 この土は今から2~200万年も前の洪積世の時代、氷河期の中の間氷期と呼ばれる高温多雨の時期があり、このとき強い風化作用と容脱作用をうけて、熱帯土壌のようなラテライト化が進んだものと考えられています。つまり、ケイ酸分や塩基分は失われており、粘土鉱物は1:1型の農業生産力の弱いものとなっています。そして、強い酸性を示し、腐植をほとんど含まない痩せた土です。ですから酸性改良と有機物施用が大事ですが、ほかに注意点として、下層に重粘土層や硬い喋層がある場合が多く、機械力による土層改良が必要です。この土の分布は、台地状のところや段丘に多く、地形的には利用率の高い圃場がつくられています。 

黒ボク土


 黒くて、ホクホクした土ということで付けられた名前ですが、一般に腐植質火山灰土のことを示します。非火山性の黒ボク土は、日本国土の1/6また農耕地の1/3を占めている実にクセの強い土です。外観は、世界一の肥沃土、チェルノーゼムとそっくりですが、性質は全く違います。チェルノーゼム同様に腐植を含むことで黒い色を呈しているのです。腐植含良が40%を超えるものもあります。ではなぜ、赤黄色土では腐植をほとんど含まないのに、火山性黒ボク土が同じ日本国土に存在していながら腐植を多く含むのでしょうか。これは粘土鉱物の違いにその原因があります。火山灰土は含まれる粘土鉱物がアルミニウムの比率の高いアロフェンというもので、これは腐植とたいへん強く結び付きます。このため、腐植が含まれているといっても、分解しにくく、作物の栄養に供することは少ないのです。この火山性黒ボク土、またその下層に存在する淡黄色の心土は、昔から作物がとれない土として農家から特別視されてきました。地方によりノバイ、ノフイ、ボク、ノッペ、ノッポ、ノップイ、ボンコなどと呼び、肥料ばかり食って手に追えない土として一般の土とは分けてきました。 

 その原因は腐植が分解しにくいだけでなく火山灰土のアルミニウム活性という現象によるものです。これは、石炭の施用による酸性矯正や、リン酸肥料が手に入らない時代には顕著でした。この種の土は、pHが中性域より少しでも下がるとアルミニウムの活性化がたいへん強まります。そしてリン酸アルミニウムという作物にとって肥効のないものにしてしまいます。戦後の開拓事業はこの土のメカニズムを解明して、解決することが大きな課題でした。 

 また軽くて、非常にもろいのもその特徴です。土の固相率というものがあって、個体の割合がどのくらいかという数字ですが、火山灰土以外ではだいたい40%ぐらいありますが、この火山灰性黒ボク上は15~18%程度、仮比重は0・7以下です。このため、同じ作土を確保しても、一般の土より生産力が劣ってしまいます。また風の強い時期には、大切な表層土を風食により奪い取られてしまうことになり、農家泣かせの土です。 

 しかし、反面ふわふわしていて、耕しやすく、土の粒径も壌土という範囲のため適当によく、水はけ、水もちが適当に確保されやすいのも長所です。また、この黒ボク土が存在する土層は深く均一であることから、根菜類をはじめ、多くの産地形式をしています。今後の黒ボク土の課題は、母材が火山灰であり、それが極度に風化作用を受けてしまっていることから、微量要素の補給をどうするか、この点が作物の食味向上に確実に関連しているので研究の余地があります。 


褐色低地土・灰色低地土・グライ土


 この3種類の上は沖積低地に存在する土で、河川より運ばれた粘土、砂、蝶が母材となっています。褐色低地上は地下水が低いため、年間を通じて地下水の影響を受けることがなく、畑地としての利用が多い土地です。物理性のよい、作物がつくりやすい土です。灰色低地上は、雨の多い時期や濯漑水の影響を受けるときは地下水位は高いですが、それ以外のときは低くなります。水田利用されることが多いのですが、作土そのものは浅く、すぐ下に陛層を含むことが多いのです。たいへんサラサラした感じで、畑作、また水田裏作にたいへん優利な土です。 

 グライ土は、年間地下水位が高く、強還元状態におかれ、鉄は還元鉄として存在するため土の色は暗灰色から緑灰色を呈するのが特徴です。このような排水不良状態ですから、水田としての利用しかできませんが、水田としても酸素供給不足をおこしてしまうという生産力の低いものです。このため、暗渠排水による改善を徹底して行なうより他に改善策はありません。我が国の水田の30%程がこのグライ土壌であることは大変な問題といえます。 

以上、日本の土壌を簡単にみてきましたが、北は北海道の寒冷な針葉樹林帯下に生成するポドゾル土壌から、南は南西諸島のまっ赤なラテライト化した土まで、実にさまざまな上が分布しています。これに山岳地帯の垂直分布が加わりますので、明瞭な分布図の作成作業というものは難しいわけですが、皆さんも自分の住む地域の土壌分布図を近くの農業研究機関で見せてもらうとよいでしょう。

 また、この土壌分布の観点に立って、自分の圃場の土壌区分を試みてください。そして、その生成から現在までの生い立ちを知り、特徴をよく理解してください。その上の欠点、最初に述べた「圃場の持病」といかに上手に付き合うか、この付き合い方の名人になることが、どうやら収益上昇のカギのようです。残念ですが、日本には土の王様チェルノーゼムはないのですから。