家電ゴミのリサイクルは危険が伴い、健康被害を起す作業だから対応装置が整備されている作業場をもった業者が行うのが正しい。

無料で回収しますとアナウンスしながら家電ゴミの回収にあたっている業者は、不正に家電ゴミを海外に送る温床とも言える。

危険だという事を知らずに貴金属の取り出し作業に東南アジアの方々が従事し、健康被害を起している。

 

注目集める“都市鉱山” その光と影

私たちの生活に欠かせないスマートフォンやパソコン。古くなって廃棄された場合、中の電子基板から金や銀などの貴重な金属が取り出せるため、「都市鉱山」と呼ばれています。先月からは、廃棄されるはずだった携帯電話などを持ち寄り、東京オリンピック・パラリンピックのメダルを作ろうというプロジェクトが進められるなど、いま、注目を集めています。一方で、日本から海を渡った家電製品がアジア各国で思わぬ事態を引き起こしています。「都市鉱山」の光と影に迫りました。(社会部 松田伸子記者)

ゴミの山から金塊が


まず「都市鉱山」の「光」の部分を見てみようと、私は、秋田県小坂町にある金属のリサイクル工場に向かいました。ここには、日本国内や海外から送られてきた廃棄されたパソコンなどの電子基板が大量に運び込まれます。

専用の機械に次々と入れられ、粉々にされたあと、1300度を超える炉の中で溶かされます。こうして基板から金属だけを取り出し、水で冷やして固めると、純度99%以上の金塊に生まれ変わります。



私が目にした金塊は、23万枚の電子基板から取り出されたもので、6000万円相当。重さは13キロあり、両手でも持てませんでした。


しかし、この作業の過程で、有害物質が発生します。
工場では、大型のダクトとフィルターを設置し、有害物質が外に漏れださないよう対策を講じています。
工場を運営する小坂製錬の川口純社長は「二重三重に対策を取り、トラブルが起きないよう、安全確保のための対応をしている」と話していました。

宝の山が海外では健康被害に

一方、「都市鉱山」には「影」の部分も。
ジェトロ=日本貿易振興機構アジア経済研究所の研究員、小島道一さんは、「都市鉱山」が海外で健康被害を引き起こしていると指摘しています。


小島さんがフィリピンで撮影した映像には、電子機器の部品を洗面器のような容器に移し、ガスで温めている様子が映っていました。容器の中では、金属を取り出す際に使う有毒な「シアン系の化合物」の液体が沸騰していて、現地の人たちは手袋やマスクもせずに作業を進めていました。小島さんは、こうした危険な作業が、中国やベトナムなど、アジア各国で行われ、住民の健康被害につながっていると見ています。


愛媛大学沿岸環境科学研究センターの研究チームが、同じように危険な作業が行われているベトナムの村で行った調査では、住民の母乳から高い濃度の有害物質が検出され、首都ハノイの住民に比べて作業員の中には濃度が50倍以上に、作業員以外の住民の中には10倍以上に達した人もいました。母乳を飲んだ子どもの脳の発達に影響を及ぼす懸念があります。


この廃棄物はどこから来るのか。小島さんは、フィリピンやベトナムなどでひらがなが書かれたパソコンのキーボードや日本語で書かれたテレビのブラウン管などを数多く目にしていて、日本の家電ゴミが発展途上国に送られ、危険なリサイクル作業を通じて住民の健康被害につながっていると危機感を強めています。小島さんは「健康被害を生じさせてしまうような形で家電ゴミが輸出されるのは問題だ」と話していました

海外輸出の背景に不正ルート

こうした事態に対策を迫られているのが環境省です。
担当者は、一般家庭から家電ゴミを集め、海外に送る不正なルートがあると見ています。特に問題視しているのが、不正な回収業者と、ゴミが集められる「ヤード」と呼ばれる保管場所です。

家電ゴミを捨てる際、洗濯機や冷蔵庫などの大型家電については、リサイクル料を支払い、小売店に引き取ってもらうと法律で定められています。また、スマートフォンやパソコンなどの小型家電は、自治体のほか、国の認定を受けた業者が回収することになっています。そこからメーカーや指定されたリサイクル業者に送られ、工場などの施設で適正に処理されます。
一方、環境省が注意を呼びかけているのは、無料回収をうたう一部の業者です。

家電ゴミを一般家庭から引き取ることはできないため、多くの場合、中古品として再利用するという名目で回収。その後、「ヤード」に持ち込まれ、鉄くずなどと一緒に船で海外に運び出されていると見ています。

この輸出をめぐっては、国際的な取り決めがあり、不適切な処理で健康被害を引き起こすおそれがある家電ゴミなどを輸出する際には、あらかじめ、送り先の国で適切に処理がされるのか確認することなどが求められていますが、環境省は、こうした監視の目をかいくぐって、家電ゴミが次々に海外へ送られていると見ていて、このうち、国内で廃棄されるエアコンなどの大型家電のおよそ3分の1が不正に輸出されていると推計しています。

環境省廃棄物・リサイクル制度企画室の萱嶋富彦課長補佐は「家電ゴミのかなりの割合が外国に流出しているのではないかと推計しています。これから全国の状況をしっかりと把握していく必要があると思います」と話していました。

不正ルートの根絶目指す自治体

家電ゴミの不正な収集を根絶しようと、岐阜市は4年前からパトロールを行い、監視を強めています。私たちは今月上旬、このパトロールに同行取材しました。

きっかけとなったのは、市内の一部の地区に投かんされたチラシです。



「家電を無料で回収します」とか「指定の日時に自宅の前に出しておくだけ」など、住民の気を引くことばが並べられていました。

パトロールが始まると、このチラシを見て出されたと見られるコーヒーメーカーやホットプレート、電子レンジなどの家電ゴミが次々に見つかりました。



その後、市の職員は、こうした家電ゴミが多く運び込まれるヤードに立ち入り調査を行いました。そこには法律で小売店に引き渡されることになっている大型家電が大量に置かれていました。


ヤードを管理する業者は、再利用するための中古品だと主張しましたが、テレビが土をかぶった状態で乱雑に置かれていたり、冷蔵庫の電源コードが切られていたりしたため、市は廃棄物と判断。今後、家電ゴミの引き取りをやめるよう行政指導する方針です(5月24日現在)。

ただ、行政指導に従わなかったとしても罰金などは科せられないため、市は、不正な収集はなかなかなくならないとしています。岐阜市環境事業課の下川和彦係長は「立ち入りを行い、業者に指導していますが、改善されていないのが現状だと思います。家電ゴミを出す際にお金を出すということに抵抗を感じ、『無料』ということばに引きつけられる市民の方も多いと思いますが、ぜひ意識を変えてもらい、市の処理施設などで適正に処理できるようにしてもらうことが一番いいと思います」と話していました。

不正ルートをなくすには

携帯電話やパソコンを無料で回収している業者の中には適正に処理している業者もいます。 しかし、私は、今回の取材で、炊飯器や電子レンジなどがヤードに無造作に置かれている現場や、短時間にトラックが何台も出入りし、ストーブなどを次々に積み下ろす現場を目撃しました。


こうした一部の不正な業者が集めた家電ゴミが、途上国に運ばれているいまの状態を、一刻も早く食い止める必要があると感じました。

環境省は、今後、ヤード業者に都道府県などへの届け出を義務づけることや、輸出される鉄くずなどに家電ゴミが混ざっていないか港で検査するなど、監視体制を強化したいとしています。日本では、16年前の平成13年に「家電リサイクル法」が施行されるなど、世界に先駆けて家電ゴミのリサイクルを進めてきましたが、このルールがまだ徹底されていないと感じています。

いまは新しい家電が次々と発売されるので、買い替えて古いものを気軽に捨ててしまいがちですが、ゴミを出す際の手順などを改めて確認することが大切だと思いました。

https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_0525.html