米保険アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は米政府による救済・管理下からの脱却に向け詳細な計画を打ち出したが、正念場はこれからだ。
イメージ
Bloomberg News

 

 AIG株式への491億ドル(約4兆1020億円)規模の公的資金投入の回収は、米政府がいかに大口投資家をひきつけて16億5500万株のAIG株式を買ってもらえるかにかかっている。これはAIGの発行済み全株式の92%に相当し、米財務省が取得に合意した株数だ。投資家は話に乗ってくるだろうか。

 AIGのロバート・スティーブ・ミラー会長は30日、ダウ・ジョーンズ経済通信とのインタビューで、「米政府が膨大な株式を保有しているものの、われわれはごく間近に迫った(AIG株式と社債の売却で)需要があると考えている」と述べた。

 資本市場の専門家の一部は、脆弱な財務状況を抱える巨大ながら縮小しつつある企業のこれほど膨大な株式の売却には、政府側に並外れた辛抱強さと自制が必要になるだろうと警告している。

  歴史的事例をみても、政府に分があるとは思われない。米政府は2008年11月に、保有比率が27%に達していた米銀行シティグループの株式の売却を開始 し、現在、保有比率は18%に縮小している。米財務省によるAIG株式の保有がほぼ全株保有の状況に近いことから、AIG株式の段階的売却には一層時間が かかることはほぼ確実だ。

 インスティテューショナル・リスク・アナリティックスの銀行アナリスト、クリストファー・ウォーレン氏は、シティの少数株の場合でも米政府による売却に「シティ株価は不必要に圧迫されていた」と指摘。「政府は待つべきだったと言いたい」と続けた。

  シティの株価は過去1年間に18%超下落したが、米政府が保有するシティ株式の2回目の売却を行った過去6カ月間では3.6%の下げにとどまっている。 AIGのハンク・グリーンバーグ元最高経営責任者(CEO)はこの日のインタビューで、シティの株価がじり高となり始めるときには、「政府が同行株式を段階的に売却していることを誰もが知っていることから、値を下げる」と語った。

 投資家の需要を測る最初の試練は非常に近い時期にやってきそうだ。AIGのロバート・ベンモシェCEOは、同社が来年3月までに25億ドル規模の株式と小規模な社債の売却を計画していると明らかにした。ベンモシェ CEOはウォール・ストリート・ジャーナルとダウ・ジョーンズ経済通信とのインタビューで、この売却される株式のうちの一部は、米財務省の保有分が充てられる見通しだと語った。

 ウォーレン氏ならびに、財務助言会社サウスビーチ・キャピタル・マーケッツの資本市場専門家、ブルース・ フォースター氏はともに、米政府はAIG株式の売却に際し、株式の一連の「大口」売却を通して需要をまとめたり管理することが可能な米金融市場の引受業者 を介して実施すべきだ、と指摘している。

 ウォーレン氏はさらに、「支配株式の売却では、IPO(新規株式公開)のような取り組みが必要 だ」との見方を示した。同氏はまた、こうした性質の株式の売却で最も成功を収める場合には、売却される株式数の3-4倍の買い手が集まり、申し込みが募集 額を上回ることが頻繁にあると指摘した。

 これこそまさに、米政府が過半数株式を保有する自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の株式の売却で期待していることだ。米政府は救済したGMについて、今秋、IPOを計画している。ただ、米政府が売却する見通しのGM株式数は減少していると報じられている。

 その理由はというと、米政府は辛抱強く、株価の上昇を待ちたい意向だからだ。これはAIGの株式売却についても使える役に立つ方法となる可能性がある。

[ディー ル・ジャーナル(Deal Journal)では大型M&A、資金調達、プライベート・エクイティ、倒産など、ウォール街のメインイベントをリアルタイムにリポート。市場が開いてい る間は毎日更新され、独自の分析やコメント、データ、ニュースフラッシュを盛り込み「資産の所有者が代わる」現場を鋭く追う]

(10月1日 WSJ)

さてさて、丁と出るか半と出るか試金石に挑む米政府であるが、恐らくは最初はシティと同じ結果になるであろう。じっくりと追っていきたい。