低価格競争が激しい牛丼業界。創業111周年を迎えた老舗の吉野家が、業界最安値と並ぶ280円の新メニュー「牛鍋丼」を全国発売すると発表するなど戦いは激しくなるばかりだ。“牛丼安値戦争”が過熱する中、消費者からは300円を切る価格設定に、「なぜここまで値段を下げられるんだ」と単純な疑問の声も上がる。企業努力で骨身を削る体力勝負なのか。消耗戦が続く現場から牛丼業界の今後をみた。

■提供時間10秒のファストフード

 「いらっしゃいませ」

 「つゆだく一丁入りました」

 川崎市川崎区のすき家の郊外型店舗。一日で最も混雑するという正午30分前から、店舗内の客席が徐々に埋まり、店員の大きなかけ声が響き始める。シフトが変わり店舗内はフロアや厨房(ちゅうぼう)など計4人いた店員が一気に10人に増えた。

 「スピード提供することで回転率が上がり、それが売り上げに直結する。目標は商品提供時間10秒」

 次々に上がってくる注文を処理する男性店長(25)は答えた。

 同店では、牛丼のサイズごとに、注文前にご飯を盛っておく「予測盛り」であらかじめ準備をし、注文と同時に肉をのせる。至ってシンプルな調理工程で、理論上10秒は可能という。

 さらに、すき家では効率性をあげるため、食器の配置場所の選定や器の開発など細やかな工夫で、少しでも提供スピードや客の回転率を上昇させることに力をいれる。だが、企業努力は価格を抑えるための最低条件だ。

 「一番大きく価格に影響するのは、肉やタマネギの仕入れ価格」

 業界関係者はこう言い切った。

 現在の大手3社の牛丼の値段は、吉野家の並盛380円に対し、松屋が320円。さらに、すき家が300円を切る280円で業界最安値となっている。

 すき家の場合、同じグループ内にステーキ店や焼肉店など牛丼以外に牛肉を扱う店舗があるため、牛をほぼ一頭買いし、必要な部位を切り分けることができる。

 一方で、吉野家や松屋は、部位を直接購入するためどうしても割高。また、豪州産牛肉などを多く使用しているすき家や松屋に比べ、昔ながらの味にこだわる吉野家は割高な米国産牛肉の使用を重視しており、コスト面でどうしても遅れが出てしまうという。

 ■強気の姿勢崩さないすき家と松屋

 すき家は「市場価格で、米国産と豪州産の牛肉の値段は1・5倍ぐらい開いたときもあった。BSE(牛海綿状脳症)問題を機に、米国産から豪州産にうまく転換した結果」と低価格を実行できる理由を説明。

 それでも、280円という業界最安値は、場合によっては、立ち食いそばやうどんより安い価格。

 大量生産でまかなえる価格を超えているのではないかという質問には、「値段を下げても、客数が増加して売り上げが伸びればそれをカバーできる。うちは月十数店舗増やしているから問題ない」とし、店舗数増加の限度についても、「マクドナルドなどハンバーガーショップは牛丼店の倍以上ある。牛丼は日本のハン バーガー」と伸びしろに期待する。

 一方、独自の精米工場を持つ松屋はコスト削減に力を入れて価格を抑える。ただ、「赤字覚悟で設定しているわけではない。客数が伸びればその分もうけがでるし、価格を下げることでターゲット層も広がっている」と吉野家に比べ両者とも低価格競争に対し、強気の姿勢を崩さない。

 ■独り負けの吉野家は新商品で…

 2日午前11時。東京都北区の吉野家ホールディングス本社ビル地下一階の会場では、新メニューの記者発表で勢いをつけたい安部修仁社長に対し、集まった多くの報道陣の質問は新メニューより、価格競争が激しい牛丼の値下げに集中した。

 「値段を下げて客数が伸びても利益につながらない」

 安部社長は硬い表情のまま、今後も牛丼の値下げをしない理由を率直に説明した。

 7月から8月にかけて行われた値下げキャンペーンなどで何度も実験店の調査を繰り返した結果、客数の伸びによる売り上げ増と、単価を下げることによる減収を相殺できる限界が、牛丼並盛りでは現行の380円に近いという。すでに低価格の“臨界点”であることを示唆した格好だ。

 実際、低価格路線を消費者が支持する傾向は強く、各社が低価格のキャンペーン(吉野家270円、すき家・松屋250円)を行った7月の既存店売上高で は、吉野家は前年同月比10・8%減と17カ月連続で前年割れ。一方、すき家は同30・0%増、松屋も同5・4%増とライバル社との価格差を埋められない 吉野家の独り負けだった。

 会見場の重々しい空気の中、牛丼の老舗が置かれた苦しい経営状況を安部社長は「各社との低価格路線での競合の影響があるのは確か」と認めた上で、新商品発売は伸び悩む客数を取り戻すための「緊急的な取り組み。切り口は低価格」(安部社長)と説明する。

 新商品発表の場で垣間見えたのは、従来の牛丼の価格は維持しつつ、牛丼に近い低価格商品の販売で他社と競合する「二面作戦」をとり、価格差の折り合いに必死にもがく姿だった。

 ■「これ以上の競争望ましくない」

 川崎市内のすき家を利用した横浜市鶴見区のタクシー運転手、阿部恭久さん(66)は、「安くて早いのが一番。500円でおつりがくるのはうれしいが、どこまで安くできるんだ」と疑問を投げかけた。

 料理愛好家の平野レミさんによると、安価な外国産の牛肉が100グラム200円前後とし、ご飯やタマネギなどの具材、調味料、光熱費などを換算すると、家庭で調理した場合の牛丼の価格はおおよそ300円ぐらいという。

 平野さんは「大量生産が安い価格を可能にしていると思うが、店舗の家賃や光熱費などを削るのは限界がある。価格競争が進むと材料面で何を使い始めるか心配もある」と話す。

 また、「お財布にやさしいから消費者は安いものに飛びつく」(平野さん)と価格競争に消費者マインドが加わり、過熱する傾向があると分析する。

 吉野家の安部社長は2日の会見で、「体力勝負で限界までやって生き残った方が勝ちという哲学はない」と品質へのこだわりを捨てず、低価格路線に安易に方針転換しないことを強調した。

 経済エコノミストの森永卓郎氏は、「米国産牛肉を使用した吉野家の牛丼と他社の牛丼は別種類の食べ物。吉野家の牛丼は380円ですでに値下げの限界。他社も牛丼単体なら280円が限界だと思う」と分析。過熱する低価格競争については、「アメリカの航空会社の自由化後の値下げ競争で破綻(はたん)する企業 が相次いだことを考えると、これ以上の値下げ競争は望ましくない」と警鐘を鳴らした。

(9月5日 産経新聞)

そもそも、牛丼店が乱立する川崎区は、吉野家、すき屋、松屋などがしのぎを削っている。パチンコ屋乱立の激戦区である川崎区では、牛丼店がパチンコ帰りの客を集客出来るのに大きな特徴があると思われる。パチンコで負けた客は、自然に夕飯をコストダウンする傾向にあるので、どうしても単価の安い牛丼に飛びつくのではあるまいか?牛丼店の他、ガスト、蕎麦屋、定食屋とパチンコ店の周囲には、外食産業が取り囲んでいる構図が分かる。
また、牛丼店には、比較的20代の若者が集団で出入りする。パチンコで勝てば、その日一日は殿さまだが、負けた日はしょぼしょぼである。帰りにパチンコ仲間と牛丼店によって、あの台はこうだった、この台はああだった、と反省会をしている。話は変わるが、外食産業と言えば、サイゼリアというイタリアンのファミレスがあるが、かなり低価格なので、平日の夜もかなりの集客をしている店舗がある。牛丼までの低価格ではないが、育ち盛りのティーンエイジャー達がおなかいっぱい食べて1000円ちょっと、もしくは、1000円いかない位の値段であるのは、やはり、牛丼店に群がる若者と考え方は一緒である。

値下げ競争は、確かに消費者にとっては好ましいが、安いからと言って、外食しに行く、もしくは外食に頼りきりになり、栄養学的に偏り、健康を損ね安い体質となり、病気になり健康保険を使うと言う悪循環を生みやすい。当然のことながら、家でご飯を炊いてと言うことは、だんだんやらなくなるようになる。しかも、牛丼よりも安い250円のお弁当がどうどうと売られている今、外食産業に頼りすぎる日本人の食生活の破壊が進んでいると思われる。
カロリーの高いものを食べつつけていると、カロリーの高い物しか美味しく感じなくなる現象については、先にも書いたが、このままでは、「人が何を食べようろ勝手でしょ?あんた、俺の食うもの指図できる権利あるの?」とか、「手軽に、便利だから」とかの理由で、どんどんと健康を害して行く若者が増え続けて行くことであると思う。アメリカでは肥満の人間に対する問題を抱え込み、健康保険の規制まで検討されている。太るのは個人の自由ではなく、社会に対する害悪であるとの発想なのであろう。自由と言う意識を取り違え、履き違えている日本人には、そういうことが理解できないのであろう。このまま進めば、やがては、アメリカの二の舞を踏む結果となることは明白である。経済活動は自由であるが、やがてはアメリカのようにファストフ-ド業界にも色々な規制の網の目がかかることは間違いないと思う。また、安売りは、経済をさらにおかしくさせることも忘れてはならない。ひいては、企業倒産にもつながりかねない危険性を秘めている。

安い、安いと喜んでばかりいられないのである。こういう所にも、日本人の霊性が下がって来た側面が見受けられる。