暑い夏熱い客痛い奴~その5~
フリンジを縫いつけているとリミットの8時は確実に過ぎる。
もうダメかも………不眠の動かない頭に一瞬の迷いが生じる。
いやしかし待て、悪あがきかもしれないが、私のリミットセッティングは、かなり時間に余裕を持たせている。
方向音痴の私のこと、現地到着時間も道に迷うことや電車のトラブル等を計算に入れ、開場時間よりかなり早く上野に着く予定にしている。
移動中、駅出口から会場までのルートをナビ等で確認しておけば短縮できる類のものだ。
身支度の時間も急げば短縮できる。
30分………30分あれば何とかなる。
多少忙しくなるが、一晩かけた努力を水の泡にするよりは結果につながる。
……ていうか、悩んでる間にとっとと縫いつけてしまえ!
思い直すが早いか取りかかる。
今日1日のものだ、今日使って取れなければいい。
大分妥協点が幅を持たせてきたが、四の五の言ってられない。
フリンジのレースをざっと縫い付ける。
慌てて糸を引っ張るので、かなり布がよれる。よれを戻しながら縫い進めるが、長さがあるので途中で糸が足りなくなり、一旦玉止めして追加する。
このときによれが戻し足りず、最終的にちょいよれになってしまった。
………よれてんじゃん(´Д`)
いやしかし、旗なんだ、はためいてればバレるまい。(^_^;)
最後の最後にものすごい妥協をしている。
そしてマジックテープ。
マジックテープも縫い付けるつもりでいたが、よく考えると粘着テープタイプのものを買っていた。
貼り付けるタイプだ。
棒につける方は好都合だが、布に貼れるのか?
重みではがれそうだけど。
しかし、裏がかなりの粘着性をもち、縫いつけようにも針に糊が絡んで刺さらない。
押しても引いても動かせなくなり、これにもかなりタイムロスしてしまった。
ああもう、ここまで縫えないってことは、やれんだな?はがれんなよ?!
マジックテープにプレッシャーをかけ始める全く意味のない責任転嫁をしつつ、旗を棒に装着してみる。
マジックテープの粘着側は取れない。
それはいいが、重みで棒につけても旗の上端がめくれてくる。
やっぱり、上にはひもをつけよう。
ひも?
何のひも?
ひもなんて家にあったっけ?
見栄えがするようなひも……荷造りひもってわけにいかないし………
最終段階にきて材料難に悩んだその時、ふと金色のものが目に入った。
フリンジ用のレースの残り。
それぞれ3mずつ買っていた。
使用したのは2m50cmほどなので、50cm位ずつ余っている。
天の助け!
丈夫そうな、内側に使ったレーステープを、旗の端に縫い付ける。
午前8時20分、なんとか完成。

早速友達にメールで報告。
…するが早いか、シャワーに飛び込む。
身支度を整え出発。
何だか大荷物になり、大きな紙袋から飛び出す突っ張り棒が人目を引き気恥ずかしい。
これだけのことが不安を呼び覚ます。
人一倍内向的な、どうということのないことで何もできなくなる私が、旗なんか出して振れるのか?
旗なんか作ってどうしようというのか。
思いついたテンションで調子に乗って作ってしまったが、人前で人並みはずれた行動をとれるのか?
ものすごい原点回帰をしてしまい、逡巡する。
友達に不安でしょうがない旨のメールを送り、応援してもらったり結果の予想を立てたりしながら勇気を奮い立てる。
そうこうする間に上野に到着。
水上音楽堂まで少し距離はあったが、さほど迷わず、無事開場時間前に到着。
開場まで、会場の周囲をうろうろと下見しつつ、どうしようかと逡巡。
すると、会場そばの自販機で飲み物を買うげんしじん事務所の面々に遭遇した。
声をかけつつ、手元の大荷物に気付かれないよう注意を逸らしつつ、勇気を振り絞り、オープニングの流れを確認。
やはり、旗振りをするとのこと。
「私も旗持ってきたから!頑張って!」
そう声をかけたかったが、出来るだけ本番まで黙っておきたいのと、本当に本番で旗を振れる自信もなく、言葉を飲んだ。
やがて開場時間となり、躊躇いながらも、少しお客さんが入ったのを見計らって自分も入場した。
客の入り具合と、客席のバランスを見るためだ。
本当に旗を振るとしたら、最前列では邪魔になるし、満席になるようでは近辺のお客さんに迷惑になる。
空いているところでかつ、ステージから見えやすいところはどこか。
後ろが通路くらいのところが、後方のお客さんには迷惑がかかりにくい。
ステージからは、下手側よりは上手側の方が視線を送りやすいはず。
想像しながら会場に入ると、お誂え向きな席があった。
いいじゃない!
そそくさと席につき、周囲を確認する。
最前列センターには、いつもライブ会場で見かける常連ファンの姿。
スカスカの会場で、わざわざ中央通路付近に座った私に気づき、「ここ座ったら?」と最前列を勧められる。
うん、座りたいです。
せっかくだから、一番近くで観たいです。
でも、足元の大荷物が恥ずかしくて。
旗振るかもだし。
「えっと、ちょっと仕込みがあって(^_^;)」
困惑しつつ誘いを断ると、ものすごい怪訝な顔をされてしまった。
そりゃそうだ。(^_^;)
しかし、ガラガラの会場内、客層も特に熱心そうな感じもなく、旗など持ち出したら完璧に浮きまくることは明らか。
私そういう思い切ったことするキャラだったかぁ?
心臓が口から飛び出しそうな緊張感に包まれ、旗などなかったことにしてしまいたい衝動に駆られつつ、「仕込み」はしていた。

付近には人がおらず、気にかけている人はいない。
スタッフにもさして気にとめられていない。
ホントに私は旗を振るんだろうか。
吐き気を催すほどの心臓のバクバク具合、こんなストレスかけてマゾか私ゃ。
……などと、余計な考えばかりが去来しながら、いよいよ開演が近付く。
その時、主催者である見覚えの芸人さんが出てきて説明を始めた。
「オープニング、音楽に合わせて旗を振りますから……皆さんも旗とかハンカチとかタオルとか、持ってきてるでしょう?振って下さいね」
この一言が決定的だった。
旗など持ってきてるのは私くらいだろうが、やはりイベント趣旨には則っている。
主催者的には完璧なはずだ。
よし、旗を振ろう。
決意し、手元の突っ張り棒を握りしめた。
………さぁ、まだまだ続くよ!
頑張れ!
暑い夏熱い客痛い奴~その4~
夕飯は手っ取り早くとマックにし、ポテトをむさぼりながら買ってきた材料を紐解き、作業構想を練る。
とりあえずは旗のベースとなる布地。
失敗することを計算に入れ、2m買ってきたので、適当な大きさになるよう裁つ。
裁ちばさみがないのが痛いが、何とかゆがまずにまっすぐに裁てた。
何しろ、ミシンがないので裁ち目のあらを処理するのが手間になる。
時間もないので手間は極力避けたい。
次は、黒のフェルトでメインの「G」に取り掛かる。
GSJのうち、Gを大きくするように考えていたし、頭文字のGにはなぜか「”」がついている。
この「”」ってなんだ?
「G”」
「げんしじん」の「げ」ってことで「G”」なのか?
とにかく、この文字だけはきちんと作らなくては。
拡大プリントした事務所ロゴを型紙に、フェルトに固定して型取りし切り抜く。
これが思ったより時間がかかる。
何しろ、暑さで汗ばんで、型紙が湿気を吸ってふにゃふにゃになるのだ。
なかなかおとなしくフェルトになじんでくれない。
ようやく黒のGができたが、手間取りようを考えると、青緑で黒のGをくり抜くとばらばらになりそうで、いっそくり抜くのをやめて貼り付けてしまおうかとひよる。
が、Gが一番大きいのでここでひよっていてはすべての文字で妥協して重たい旗になりそうなので、ぐっとこらえて青緑のGをくり抜く。
案の定、ばらつきが出る。仕方がないので裏返し、隙間を木工ボンドでふさぐ。

隙間が大きすぎて木工ボンドでもつながらないところは、上からフェルトの端切れをかぶせたり、隙間にフェルトのくずを練りこんでつぶすなどし、しばし乾燥させる。

この時点で0時を回っており、Gが完成するまでにどのくらいの時間を要するのか見当がつかず不安が増す。
何とかGが完成したころには午前1時半になろうとしていた。
乾燥させている間にSとJの文字も切っておいたので、後は組み立てるばかりにはなっているが、これほど手間取っていては朝までに出来上がるかもわからない。
何時までに作業を済ませるか、リミットセッティングをしておく。
午前8時。
9時半には家を出たい。
何しろ、オープニングセレモニー(?)に間に合わなくては、旗自体が意味を成さない。
完成しなければ行くのをよそうとさえ考えた。
午前6時までにはフリンジに取り掛かる必要があるだろう。
この時点で徹夜は免れないペースであることを確認し、作業再開。
そして、妥協点の出現。
Jは、フォントのおかげもあり、凹凸が少ないので作業はスムーズに進みあっという間にできたが、問題はS。
何このクランクは。
こんなのくり抜いてらんないよ。
裁ちばさみがないのがここで痛手となった。
実は、Gの内側のカーブを切る時点で普通のはさみでの作業に限界を感じていた。
フェルトの厚みと毛のばらつきを考えると、これ以上の細かい作業は困難。
っていうか、S何これ。
・・・・・・・・・・・・・貼ろ。
妥協したくないと言い切っていたわりに、妥協するときはあっさりとしたもので(何しろ時間に追われている)、黒のSの裏にたっぷりと木工ボンドを塗りつけ、青緑のSの真ん中に載せる。
Gだけは軽量化したから、何とかなるだろう。
青緑の外の黄色や赤や白はSも縁だけにするし。
深夜3時を回り、ようやく縫い付ける段階になった。
布の中心を取り、メインの「G”」を配置。
残りのSとJでしばし悩む。
Gよりも小さくしたので横並びはおかしい。
「”」で妙に間隔も開いてしまう。
英文の大文字と小文字のバランスのように「”」の下に一段下げて並べてみるが、縁取りの分のスペースをとるのでなんだかバランスが悪い。
字がくっつくことを想定してなかったからな。
いや、想定はしたけど、縁の調整をどうするか、計算がめんどくさくて想定しなかったことにしたからな。
何しろ時間に追われて焦りまくっていたし。
んー、そうなると、3文字が独立してバランスをとるには、斜めとか?
G”
s
J
いや、右下がりって縁起でもない。
事務所の発展を願うなら右上がりじゃないと。
J
s
G”
いや、明らかにおかしいだろ。
それに、旗からはみ出しそうでこんなバランスの悪さはない。
んー、右下がりも右上がりもなし。
・・・・・となると、V字か?
G” J
s
なんでこの配置になったのかという疑問がわかないよう、あえてSとJはそれぞれに少し傾けて小躍りさせる。
この時点でG”だけはすでに縫い付けてしまっていたのでそのまま鎮座させておくことに。
明け方を迎え、布を縫い合わせ袋状にする作業に入る。
裏の縫い目はこれで隠れる。
しかし、本来の布の端は形がゆがむことを恐れて落とさなかったので、ものすごく硬い。
針が入らない。
針を持つ指も痛む。
旗の強度を増すために細かくかがり縫いをしたかったが、一針一針に時間がかかり、ぜんぜん進まない。
思わぬざく縫いとなった。
縫い目が見えたらかっこ悪いなー。
いや、フリンジで隠せるか。
ていうかもう、見切り発車で、フリンジ縫い付けちゃえ!
旗はおよそ縦50cm×横1m。
棒に固定する一辺を残し、ぐるりと縫い付ける。
まず、内側の縁取りテープ。
金色のレーステープにピンク色のビニールリボンが入っていて、ラインストーンが並んでいるかのよう。
ということは、ピンクのマスは崩してはならない。
金色のマス目に沿って糸をかけ縫いつける。
しかし、一周何マスあるんだこれ。
先を見て気が遠くなり、ふたマスごとに糸をかけるよう短縮化を図る。
内側のテープを縫い終えたときには7時半になろうとしていた。
思ったより時間がかかる。
外側のフリンジをつけるには時間が足りない。
・・・・・・タイムアップか!?
ここまできて!?
・・・・・・・・・長くなったのでそろそろ次の頁へ。
この日記も長ぇし!!
暑い夏熱い客痛い奴~その3~
仕事に向かう足取りも軽く、仕事の合間も休憩中にデザインや素材の構成を考えたり、仕事が終わったらバスの時間まで本格的に字の大きさやバランスを組み立てる。
たった三文字だが、ホームページのデザインだと黒字に青緑、黄、赤(ショッキングピンク?)、白の縁取りがあり、バックはショッキングピンク。
つまり、文字に五色の色がある。
ショッキングピンクの地に黒一色なんてそんなつまんないことしませんよ。
そのへん、無駄にストイックだからね。
かといって、単純にフエルト重ねると、重たくなってはためかなくなる。
てことは、見えてる部分だけ、文字の通りに、隙間ができないようにくり抜かなくてはならない。
………うん、時間ないんだ。
知ってるよね。
くり抜いてキレイにはめ込んで縫い付けて、ってそんなのやってたら朝になるよね。
くり抜かずにそのまま文字を型どおり切り貼りしてけば、別に徹夜しなくても日付変わる前にできんじゃないの?
色んな心の声がささやき葛藤する。
そうだよ、布に縫いつけるのが出来ても、今度は布を旗にしないとなんだから!
旗って、校長室とかに飾ってあるようなヤツって、端が金色のフリンジみたいなのついてるよね。
ふさふさしてるよね。
あれほしいよね。
立てかけてあっても重厚感やゴージャスさはほしいよね。
金のフリンジってどこに売ってんだ?
カーテン屋か?(゚Д゚;)
さすがに店をめぐる時間はないので、手芸屋でできる限りの材料を探す。
布:良い色が見つかった。ピンクの布地を全て並べて一番派手なピンクを選んだ。地の厚さも旗におあつらえむきでなかなか。
フエルト:黒と白は迷うことはない。問題はそのほかの色。ホームページを開いても、見る媒体の設定でかなり色味が違ってくる。青なのか青緑なのか蛍光グリーンなのかそれすらも迷うし、私がただ一つの答えを出したところで、見る人によってとらえ方は違っているはずだから、この迷走自体意味をなさない。
第一、私が色覚異常を持たないという100%の保証はない。
いまんとこないけど。
だったら、この色だと思う色で良いはずだ。
そこまで考えて、ようやく青緑と赤に近いピンクを選んだ。
そして縫い糸。
それぞれのフエルトの色で縫い付けたい。
これもまた、フエルトの色と布地の色に近い色の糸を探すのに一手間。
しかし品ぞろえの良い手芸屋だ。
品ぞろえがなければあきらめもつくのに。
………店のせいにするな~ヽ(゚Д゚)ノ
さて、問題のフリンジ。
ふさふさはさすがになかった。orz
いや、構想通りの材料がそんなに簡単に揃ったら、そんな簡単に誰でも考えついて揃えられる材料で作るって、オリジナリティがあると言えるのか。
オリジナリティ、そうか、フリンジというものの捉え方にもオリジナリティを持たせればいいんじゃないか?
フリンジ。
似てるもの……額縁。
肖像画とかが入ってる、金の額縁。
額縁自体に細かな彫刻が入って、あまり立派だと中身の絵画よりも額縁に見入ってしまう。
額縁は、絵画に近い内側は囲んで、外側に行くほど遊びが出るような。
内側と外側……そうか、フリンジは一本と固定する必要はない。
組み合わせの妙、というのもある。
違う種類のフリンジを組み合わせれば、額縁のような厚みを感じるものができるかもしれない。
フリンジと言っているが、手芸屋に並んでいたのは縁取り用のレースから発展した飾りテープみたいな紐だ。
金色のテープの中から、布地のピンクとも合いそうな内側用と、派手さの演出のための外側用を組み合わせる。
なかなか面白いかもしれない。
後は、突っ張り棒への固定方法。
棒に縛り付けるだけでは、縛る用の紐がほどけたらマズいし、それよりもずり落ちて来てしまうのではないか。
ずり落ちないで固定するには。
摩擦を大きく。
摩擦……摩擦。
!
摩擦の代名詞みたいな奴があるじゃないか。
マジックテープ。
棒にマジックテープをつけ、旗の裏につけた相方で固定。
重みで外れないか?
そしたら、一番上だけ縛れるようにもしておこう。
校旗とかだって、上にはヒモが縛れるようになってたはず。
よし、構成はできた、後は作るだけだ。
百均でもくろみ通り突っ張り棒と、おそらく大量に必要となる木工ボンドを買い帰宅。
さぁ、製作作業に入る!
……前に夕食。
まだ続く……