個人的にはとれもお気に入りの話
『十円玉』
十円玉を二枚用意して、それを指先で擦り合わせてください。金属音の中に水っぽい音が感じられるでしょう。これはテレフォンセックスが流行った時代に使われていた効果音で女性器に指を入れている音と、陰毛がジャリジャリとぶつかる感じを現すのにちょうどいい音なのだと、当時荒稼ぎしていた朝倉さんにそれを聞いた。実際の音は違うけどね、意地悪そうに笑った顔がなんともアバズレで私は少し引っ叩きたくなった。あの頃は童貞も必死だったからさ、なんとなくすえたような臭いのする女は饒舌に語ってくれた。想像させるの、相手の頭に美しい私の姿を。厚ぼったいアバズレの朝倉さんはお世辞にもキレイとは言い難いが、声が良かった。目をつぶれば骨格から整っている美人を想像してしまう。骨格上は均整がとれているのかもしれない、ドラえもんだって均整がとれているのだ。この錦糸町の悪夢とまで呼ばれる女がイヤに上機嫌だった。らしい。横にいる杉作J太郎をちょっと汚くした感じの男が教えてくれた。声がいい女はモテるのよ。近くで囁かれた事に驚いたのだが、ドキッとしたでしょと言われ、怒りからくる無表情になり、J太郎は苦笑いした。実演してみてくれませんか、酔いにまかせて私は頼んでみた、朝倉さんは恥ずかしそうに微笑んだ、虫歯なのか下膨れなのかの頬が横に伸びた、J太郎も笑ったので、2人にやらせてみた。なんで俺なんだよ、とJさんは強めに言ったが。J太郎に似てるから、エアセックスは得意だろうと言えないので。すいません、他人がしてる方が燃えるんですよと、ウソの性癖を露呈させて、とりあえず2人にやらせてみた。無駄に上手な喘ぎ声と、AVの近親相姦モノで男優が甘える時みたいな声が飛び交い、絶頂を迎えると共に私たちは店を追い出された。
J太郎と朝倉は夜の錦糸町へと溶けていった、人間なにがあるか分からないものだ。
時折り財布に十円玉が二枚あるのを見ると薄寒い気持ちになるのです。(804文字)
たぶん、一番書きたいリズムでかけたからお気にいりのお話
