昨年の12月に『隠蔽捜査』を読んでから幾星霜。
続編の『果断 -隠蔽捜査2-』
を読みたい、読みたいと思いながらも、
思いかなわぬままに、早、幾年(いくとせ)・・・。
・・・って、実際は何年も経ってないです。
「十年一日」の思いを籠めた「言葉の綾」にすぎません。
にしても、家の近所の○○書店!
大型書店のくせに、おれの欲しい本が置いてある確率、
最近低いぞッ!
たしかに、その裏返しで思いがけない本に出会うことも多いんだけど、
今野敏の名作(に違いない)『果断』が置いてないとは、
どういうこっちゃ!
文句を(心の中で)言いながらも、
素直に取寄せることにした。
(そのとき、1冊だけじゃなんだと思って、
一緒に取寄せたのが『記憶喪失になったぼくが見た世界』だ。
これも書店の棚には置いてなかったんだよな)
数日で届いた。
さっそく読んだ。
んんもおおおおおお!
開巻早々、めちゃくちゃおもしろい!!!
いいのか、こんなにおもしろくて!
「お堅い」役所(警察庁)のなかでさえ
「変人」扱いされていた竜崎伸也の「正論ぶり」が、
いざ所轄の署長として発揮されたとき、
むしろ革命的にすら発動する。
有象無象のしがらみ、圧力、悪弊を、
まさに一刀両断していく痛快さ。
しかも、さほどの気負いもなく、
あたかも当然のことであるかのように。
たとえば、
隣接する警察署の管内で発生した強盗事件の報を受け、
竜崎率いる大森署は緊急配備(キンパイ)を敷く。
しかし、竜崎の指示が徹底されず、
強盗犯は大森署の検問をすり抜けたのち、
その先で敷かれていた警視庁の検問で検挙される。
縄張り意識の高い警察としては、
大いに面子をつぶされたことになるのだが・・・。
そのときの、竜崎と管理官と署員たちの思惑の違いが可笑しく、
また、それが感動につながる。
と、力説しながらも、ふと思う。
この『果断』という傑作については、
感心するツボ、感動するツボが、
どの読者も同じ場所なんじゃないか、と。
ふつう、そういったツボは読み手によってそれぞれ異なるものだろうが、
この『果断』という小説に限っては、
(ある程度小説を読み慣れている読者ならば)、
みんな同じ箇所で感心し、
みんな同じ箇所で溜飲を下げ、
みんな同じ箇所で感動しているのではないかと
思ってしまう。
それは、ストーリーが「誤読」の余地のないほど
シンプル(というより明晰)なものであるから、
という理由だけに留まらず、
・・・なんというか、
この竜崎伸也というキャラクターが、
どの読者にとっても未体験の「(小説の)世界観」を
差し示しているからではないだろうか。
それだけ竜崎伸也のキャラが
エポックメイキング
(あるいはコロンブスの卵的)なものだということであり、
そういう「画期的」な存在に対しては、
誰もが同じ「反応」をするしかない。
いまから30年近く前、
のちにひとつのマイルストーンとなる
『北斗の拳』というマンガを初めて眼にした際、
格闘マンガ好きの誰もが同じ反応を以って
興奮に打ち震えたであろうのと同様に・・・。
ところで、竜崎伸也は、
警察庁時代から、情報収集のため朝食時に、
スポーツ紙を含む5紙の新聞に眼を通す習慣を続けている。
こういう習慣は頑なに変えない。
(そうする理由もあるからなのだが)
一方(?)、おれの場合、朝の通勤時に乗る電車には「幅」がある。
乗る時間帯も、その日によってちがう。
早いときと、遅いときでは30分ほどの開きがある。
けっして「判を押した」ような生活ではないのだ。
ただし「遅い」といっても、
いわゆる「ラッシュのピーク」の時間帯よりは、かなり早い。
でも、だいたいこの時間の電車に乗ることが多い、
という「コア」な時間帯と車両の位置がある。
おれはたいていその「ポイント」に立っていることが多いのだが、
最近そこに乗り込むと、
すぐあとから小柄な女子高生がおれのすぐ隣に来る。
というより、その少女がすでに自分の立つ位置を決めていて、
たまたまおれが、そのそばに、先に立っているだけなのだ。
今も言ったように、
おれは乗る電車の時間帯に日ごとに幅があるため、
毎日必ずその電車の、
その車両の、
そのポイントにいるわけではないのだが、
「その電車のその車両のそのポイント」に乗ったときは、
必ず、その少女が隣に来る。
その子こそ、毎日「判で押した」ように、
同じ電車の同じ位置に乗るのだろう。
その子も、実は、毎回文庫本を喰い入るように読んでいて、
毎回同じ位置に、同じ身体のむきで、
たぶん毎日1ミリたりともポジションを変えずに立って、
一心不乱に「小説」を読んでいる。
しかも、パーソナルスペースの観点から言うと、
微妙におれに近づきすぎで、
おれから見ると、もう数センチおれから離れた位置に立っても、
なにも不都合がないように思える。
でも、まるで少女には他の人には見えない
「境界線」が見えているかのように、
1ミリたりとも立ち位置を変えようとしないのだ。
あ。補足すると、おれは車両の端っこに立っているため、
おれのほうからそれ以上少女から離れることはできない。
さらに補足すると、
女子高生に近づかれて実は嬉しいんじゃない?
という想像は、はっきり言って邪推だ。
高校生くらいの年代の少女というのは、
ホントに「子ども」にしか見えないから・・・。
んんんんん、とにかく。
こういう頑な「習慣」を持つ少女が、
将来「大物」になるのか、
たんなる「偏狭」なオバサンになるのか、
おれには判断する術はない。
・・・・・・。
最後に補足すると、
その少女、わりと早い段階で降りていくのよ。
乗ってきてから、ほんの四つ目くらいの駅で降りて行く。
おれからすると、
「短時間」「短い区間」しか乗らないのに、
立ち位置を頑なに「死守」してるひとって、
この少女に限らず「なんだかな~」と思ってしまう。
果断―隠蔽捜査〈2〉 (新潮文庫)
今野 敏 著