おれは、いったん気に入った「作家」に出逢うと、
その著書を立てつづけに読む習性がある。
こういった種類の「ブログ」であるから、
できるだけ多種多様、
バラエティーに富んだ著書を俎上にあげるべきなのかもしれないが、
けっこう、同じ著者がつづきがちになると思う。
できるだけ、バラエティーは出すつもりだけど・・・。
でも、実際に、「今」興味のある著者が絞られているので、
どうしても、同じ著者が頻出することになるかもしれない。
その点、あらかじめご容赦願いたい。
さて。
今回取り上げる本は、
まさに、第3回で取り上げた「内田 樹」先生と、
第4回『顔面考』の著者「春日武彦」先生の対談集、
『健全な肉体に狂気は宿る』!!!
実を言うと、
おれは、春日武彦氏のほうを、なにかのきっかけで先に知った。
(きっかけは、なんだったかなあ?・・・新聞の書評欄だったかなあ)
で、前回紹介した『顔面考』の前にも何冊かその著作を読み、
そして、本書『健全な肉体に・・・』の対談相手として、
あとから内田 樹氏の存在を知った、という、
客観的にはどうでもいい経緯がある。
そして本書。
もうね。このふたりの対談が面白くないわけないのよ。
いまさら、「健全な肉体」に必ずしも「健全な精神」が宿る、
と思ってる人もいないだろうし、
それほど「奇をてらった」題名でもない。
しかし、この題名が示唆するとおり、
日本人(ひいては地球人)の「肉体」と「心」のあり方について、
けっこう虚を衝かれる「見解」が展開される。
「ひきこもり」や「負け犬」の問題とか、
AV女優志願の女の子たちの読んできた雑誌のなかで
圧倒的に多かったのが『JJ』であるとか・・・。
どれにも、「ああああああ」って叫びたくなるくらいの問題が
潜在してるんだよね。
とくに、結婚を(半ば)諦めた三十歳くらいの女性が、
たとえば三十五年ローンでマンションを購入するということに、
いったいどういう「深層心理」が伏在しているか、という問題。
おれは女性じゃないから「他人事」だけど。
でも、ああああああああ!!!! だよ。ホント。
涙が出そうになるよ(電車内なのに)。
そのなかでも、「映画」に触れている項は、
わりと気楽に読める。
両氏は、映画の好みがけっこう違っていて、
たとえば、春日氏は「宮崎駿」の映画が苦手。
逆に内田氏は、宮崎駿の映画のディテールは、
身体的/フィジカルに気持ちいいところが多いのでよい、
という感想を述べている。
そういった、映画=フィジカルな快感、という話を出発点に、
数々の「映画論」も著している内田氏によると、
世界の五大陸でヒットしたハリウッド映画は、
過去に1本しかないという。
イスラム圏でもアフリカ大陸でも北欧でも、
イスラム教徒でも仏教徒でもヒンズー教徒、キリスト教徒も、
みんな夢中になった映画は、
ブルース・リー主演 『燃えよドラゴン』!!!
だそうだ。へえええええええ。
ストーリーなんてどうでもよく、
とにかく、ブルース・リーが動いているのを観ているだけで快感!!!
という世界中の人々に、この映画は熱き支持を得ているわけだ。
「東映やくざ映画で高倉健を見たあと映画館出て五分くらいは侠客みたいに肩で風切って歩きますけど、そのままやくざの組員になる人はさすがにいないでしょう。でも『燃えよドラゴン』見たあとに空手始めた人って、たぶん全世界で百万人はいるんじゃないかな。やっぱりフィジカルに訴えかけてくるものというのは強いんですよ。」
ちょっと自慢すると・・・、
TVの映画放映(いわゆる○○ロードショー)とか、
ビデオとか、DVDも含めて、
おれが一番繰り返し観ているであろう映画が、
なにを隠そう『燃えよドラゴン』。
百回観たとはいわないけど、
数十回は確実に観ていると思う。
部分的にではなく、最初から最後まで。
いまでも、たまにTVで放送されることがあるけど、
その「吹き替え」について、もの申したいことがある。
世に、「ブルース・リーおたく」「ファン」を標榜している人は多いが、
なぜか、そういった人たちから「抗議」の投書が殺到した、
という事実を聞いたことがないので、
僭越ながら、おれから言う。
映画の初盤、リーが弟子に教えを授ける場面。
Kick me.(蹴ってみろ。)から始まり、
有名な、
Don’t think! Feeeeeeeel!!(考えるな、感じるんだ。)
を経ての以下のやりとり。
(リーが弟子の前で天を指差して、いわく)
It is like a finger pointing a way to the moon.
(月への道を差し示す指のようなものだ。)
Don’t concentrate on the finger, or you will miss all that heavenly glory.
(指に集中するな! でなければ天上の栄光を失することになる)
つまり、指にとらわれていては、
指の先にある月(栄光/成功/目的)には到達できない、
という教えだ。
だが、おれの持っているDVDの字幕/日本語吹き替え、
それに、TV放映の吹き替えでは、
「指に集中しなければ栄光を失することになる」
と訳されている。
つまり、「Don’t」が無視されているのだ。
「集中するな」が「集中しろ」と訳されてしまっている。
これでは意味が正反対になってしまう。
(有名な「姦淫聖書」とは逆パターンで)
そうじゃなくて、
「指(手段)にこだわるな。でないと月(目的)は達成できない」
というのが正しい。断固として正しい。
これは、月を見ろと言ってるのに、
月を指し示す指のほうを見るのは愚か者だ(という意味の)
支那のことわざに通じるものであり、
指(手段)にこだわるな、という教えだからこそ、
「型」にとらわれない「截拳道」の創始者である
ブルース・リーの「哲学」になり得るのだ。
実際映画のなかでも、「指ばかりを見詰めようとしている弟子」を
リーは叱責しているし。
昔は正しく吹き替えられてたと思うんだけど、
最近はことごとく間違ってる。
関係者の方、修正してください。
・・・ということで、
「満員電車」の不快さに過剰適応してしまってる
サラリーマンのみなさん。
あなたにとっての「月」はなんですか?
ぎゅうぎゅうの満員電車に揺られて会社にいくという「指」が、
生活の「すべて」になってるんじゃない?
「あれ(=超満員の通勤電車)を我慢できるというのはたいした能力だと思うんです。でも、諸刃の剣で、『ぎりぎりまで不快に耐えられる能力』というのは裏を返せば『底知れぬ鈍感さ』ということですからね。」
・・・・・・
・・・ああ、このあとも引用したい! でも、長くなるので割愛。
読みたい人は買って読んでね。
健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21)
内田 樹/春日武彦 著
ディレクターズ・カット 燃えよドラゴン 特別版 [DVD]
主演:ブルース・リー ジョン・サクソン
※Q:「姦淫聖書」って・・・?
しからばお答えしましょう、M田くん。
聖書にはかつて、誤植によって「Do not」の「not」が脱落したために、
「汝、姦淫するなかれ」が「汝、姦淫せよ」になってしまった「版」が在ったらしい。
しかも「Do」がついているから、「せよ」が強調されてしまっている。
M田くんがスーツの内ポケットに入れて常備しているのは、
この「版」にちがいない。
だから、スーツを脱がないんだね。
あ。
M田くんは、クリスチャンじゃないか。