なんさんの指揮は鋭かった
「じゃ、まずはゼータさん ふーちゃんに来てもらえるよう電話してくれる?」
「何分くらいで来てもらえそう?」
「アーカムのヘリで約15分です」
「うん、じゃあお願いね」
「アヤさん、眩しくなるやつもってるでしょ?」
「一個ちょうだい」
なんさんはアヤさんのスカートから、黒い色の缶のようなものを受け取った
「あと、アヤさん、いけそうなら一人だけ捕まえておいてね」
アヤさんがうなずく
「部長はタイミングとって合図して、そのあとドクロッチの手当てしてあげて」
「うん、わかったよ、なんさん」
「たまちゃんは、ミコシさんのフォローしてね」
「にゃ!」
「ドクロッチ、部長が合図したらドアをグウッ!ってあけて、すぐ離れてね」
え・・え?なにすんの?
「よ~し」
「それじゃあ、ミコシさん、どーーん!といきましょうか!」
「はい!!では、いきますよお~~~!」
そう言うとミコシさんは、今だ揺れ続けるバー「なんと」の中心まで歩くと
さっと衣服をただし、目をつむる
そして、すうっと右手をかかげ、ふりおろす
「臨!
兵!
闘!
者!
皆!
陳!
烈!
在!
前!」
ミコシさんが九字をきった!?
まさか、マジで陰陽師なの!?
バー「なんと」内は依然として大きく揺れ続け、グラスや酒瓶がガチャガチャと鳴り続けていたが
その瞬間、ミコシさんの周りだけピーーーン!と空気の振動が止まった
ミコシさんはカッ!と目を見開くと、すごい勢いで虚空に向かって
指で何かを描き始めた
その固めた指の先から、黒い軌跡が流れた
残像・・・ではない
なにか、空間に黒いスミのような線が残り続けていた
ミコシさんは止まらない、描き続けながら、呪文を放った
「我が血に眠りし、カミよ!始祖の白きオオカミよ!」
「その天、照らす無尽の光により、暗き闇の深淵より
光を受け継ぎし御子のもとへ、その友を呼び起こしたまへ!!」
その瞬間、黒い軌跡が光ったかと思うと
めちゃくちゃに書きつづったかと思われていた残像から
バー「なんと」の中央に巨大な姿を浮かび上がった
ワニのような獰猛なアギトに、強大な牙
黄金に輝く虎のように鋭い目
樹齢、何千年のご神木にも勝るとも劣らずな威厳漂う
二本の角
龍だ!
巨大な龍の頭が顕現した!!
か、かかかかか、かあっこい~~~~い!!
すかさず部長が叫ぶ
「ドクロさん!今だ!!」
ボクチンは、ズキズキと痛む体に最後の力を振り絞って
外からドアを押し壊そうとしている「なにか」を吹き飛ばすように、押しこんだ
「うおおおおおおおおおっっっ!!」
バアンッ!
「なんと」のドアが開いた瞬間
なんさんの声が聞こえた
「ピッチャー、なん!背番号13!!」
なんでさっきと背番号がちがうのか分からないが
なん選手は大きく振りかぶって、第一球を投げた
部長とたまねぎさんの声も聞こえる
「なんさん、野球好きだったっけ?」
「ううん、最近WBCの応援番組をTVで観て、影響されたみたいよ?」
なんさんは、かまわず叫んだ
「へのツッパリはいらんですよ!!」
言葉の意味は分からないが、すごい自信だ
なんさんの腕から放たれた黒い塊は、ボクチンのすぐ横をかすめ
バー「なんと」の外で炸裂し
耳をつんざく轟音と目がくらむほどの光を放出した
これは閃光音響手榴弾:スタン・グレネードだ!
外で「なんと」の壁にとりついていた者、周りを取り囲んでいた者すべてが
両手で耳を覆い
「ウウウウウウウウウっ!」と
一斉にうめきだした
部長が叫ぶ
「ミコシさん今だ!!」
スウッとドアの外を指さし
ミコシさんは、澄んだ声で叫んだ
「冥諧画術!筆しらべ!!」
「すべてを呑み込め!呑龍!!」
その瞬間、首だけだった龍の目が輝き
すさまじいスピードでドアの外へ飛び出した
ミコシさんの指先から、龍の体が産まれ続ける
ボクチンの目の前を、まるで発進しだした銀河鉄道999のように
いつまでも龍の体は流れ続ける
龍は一度上空に急上昇すると
「バオオオオオオオオオッッッ!!」
という雄たけびを上げながら「災厄」たちに急降下を始め
バクンッ!!
巨大なアギトを大きく開くと
地面に沿ってものすごい速さで飛びながら、みるみる
「なんと」を取り囲んだ奇怪な人影を呑み込み始めた!!
逃げだした者、向かってくるもの、構わず
「バクン!!ゴクン!!ズオオオオオオ!!」
呑龍は容赦せず呑み込んでいく
その間
呑龍の襲撃を逃れ、もしくは龍を操るミコシさん狙って
「なんと」に入り込んだ者もいたが
一人は、たまねぎさんが最小限の動作で、龍めがけて投げ飛ばし
バクリと呑み込まれた
もう一人は、なんさんから魔法のフライパンを借りたアヤさんが
「パッカーーン!」と一撃で沈めたあと、後ろ手に強化ビニールの簡易手錠をされ
床に抑え込まれた
約1分後
50人以上いた人影の、最後の一人を呑み込んだ呑龍は
満足したように、バー「なんと」の前に巨大なとぐろをまいて動きを止めた
こうして
バー「なんと」を急襲した、「パンドラの箱から噴き出した災厄」は
チーム「妖怪語り部」の手によって崩壊したのであった
つづく
これにて小説「機械」 転の章は終章
ニジさんと『彼』が追い求めたものは、何なのか?
噴出した災厄の正体とは?
ごりっぺとドクロの最終決戦の行方は?
そして「天使を呼ぶ機械」とは一体何なのか?
作者の予想を超えに超え、長くなってしまった物語は
いよいよ最終章 「結」を迎え、走り出す
妖怪語り部は絶望の淵から、世界を救いだすことができるのか!?
待て!次章!!
乞う!ご期待!!




