バー「なんと」に現れた、新たな人影
一人はがっちりとした体形をした男で、燃えるような瞳をもっていた
一人は男と比べると、その小ささが際立つ 髪を後ろでお団子にした女だった
共に見たことのない顔だった
「え・・・えっと あの・・・それはどういう?」
アンタという言葉が指すのは、どうやらボクチンのことに思えたので聞いてみた
男はプイッと
「失礼・・・さきに用件を済まさせてもらいます」
ええ~自分で言っといて
「君は・・・たしか・・・」
「ええ、雨露先生おひさしぶりです」
「君は虹村教授の研究所で・・・」
「はい、雨露さんとは入れ違いになったようですが、同じ研究所でお世話になった」
「後輩にあたりますね」
「ですね・・・で、今の話は?」
部長もさっきの話が気になるようだ
「部長、ちょっとまって どうぞよかったら座ってください」
「ここ、バーですし」
なんさんが男に促す
「いえ・・・用件を済ませたら、すぐおいとましますので、恐れ入りますが」
男は部長のほうを向く
隣の女はつまらなそうな表情で立っている
男がポツリと言った
「お嬢さんが悲しんでいます、とても深く」
「雨露先生、なぜ協力してもらえなかったのでしょうか?」
「私達の研究の目的はご存じでしょう」
「先生のご協力をいただければ、お嬢さんの苦しみを和らげることもできると・・・ご存じでしょう」
「なぜ来てくれなかったのですか?」
部長は・・・
「きみはやはり『彼』のもとで?」
「ええ、そうです 研究の力になれたらと・・・今はお嬢さんをお守りする役目をいただいています」
「その、お嬢さんが深い悲しみと怒りから、あのお優しい方が」
「心ならず、不本意な、こんな手段をとってしまったのですよ」
男が指さした先に、あのバスケットがあった
部長は
「ニジさんがどういう状況にあるのか 僕も分かっているつもりだけど」
「それでも・・・『彼』のやりかたを支持するわけにはいかない」
「わかってください」
「わかりませんね・・・まあ、いいです」
男の目の中に黒いものが広がった
「伝言は伝えました」
「次の用件に入らせていただきます」
「交渉が決裂に終わったときは・・・」
「お嬢さんがとった手段、おどし・・・を実行するという指示を受けてきました」
「雨露さんを手にかけるわけには、いきませんので」
「ここは、お嬢さんを悲しめ、傷つけた言葉をはいた人物に、その痛みのひとかけらでも感じてもらいましょう」
「あの・・・お優しい・・・お嬢さんを・・・」
男は言い終わると すうっと目を閉じた
次の瞬間、このバーで本日、何度目かの信じられないことが起こった
男の体が一瞬「ビクン!」とはじけたあと
一気にその体の肉という肉が盛り上がりだした
ビリビリビリィイイイイ!!
服がはじけ飛び
屈強な筋肉はとどまることを知らないように膨れ上がり
鈍い色に変色し
真っ黒な体毛が、体中に噴出した
口には巨大な牙が生え
目は真っ赤な殺気を帯び輝いた
隣に立っていた女も、男が発する暴力的な気配に呼応するように
変身を始めた
女の髪は硬質化し、逆立ち
指先の爪は切れ味するどい刃物のように煌めき
その切っ先をズウアッと伸ばした
「いくぞっ!!」
男が雄たけびを上げたと同時に
二人の獣は飛びかかったのである
・・・
飛びかかった先は・・・・・・よりにもよって
ちょっ
まっ・・・
オレェ~~!?
続く