再びハバナへ | どきんちゃんのぬいぐるみ

 もうバスのキャンセル待ちでドギマギするのはイヤので、昨日買っておいたバスのチケットで朝7時45分発のバスに乗ってハバナに戻った。ハバナの宿はトリニダーで泊まってた宿に紹介してもらったカサだ。できれば宿を見てから決めたかったけど、ハバナのバスターミナルにはトリニダーと違ってカサの客引きがいない。ハバナはいっぱいカサがあるから直接ドアをノックして探すのもアリだけど、でかいリュック背負ってハバナで歩き回りたくなかったから。ハバナ2日目のトラウマだ。
 

 地図で見た限り、バスターミナルからカサのあるHavana Viejaまでは結構な距離。一人でタクシーに乗るのは怖かったし、お金もかかりそうだなぁと思ってターミナルでボーっとしてたら隣で同じようにタクシー乗り場の前でボーっとしてるバックパックを背負った白人女性を発見。行く先が同じ方ならタクシーをシェアで乗れるなぁと思って話しかけてみた。見事に同じ方向で、泊まるカサも近かったから一緒にタクシーに乗ることに。
  彼女はHeidiっていう41才のスイス人。めちゃくちゃ気さくでよくしゃべる人だった。彼女はスイスの田舎町でブティックを一人で経営していて、毎年2月になると店を閉めて一ヶ月だけ旅に出るそうだ。今回はスイスでキューバ人の家庭教師からスペイン語を習ってることもあって、キューバに来たらしい。
 タクシーの中で意気投合した私たちは、今夜一緒に飲みに行く約束をしてお互いのカサの前で降りた。

 ハバナで4泊することになる宿は、あまり良くなかった。ハバナの見どころにはどこでも歩いていける距離だったからロケーションは最高だった。でもトリニダーの宿と違って、アットホームさがない。男の人一人でやってる宿だったから、家の中もなんとなく雑然としていて、ごはんもついてこない。やっぱり家の中に男の人と二人ってのは少し怖かった。向こうはただ泊めてるだけって感じでなんの干渉もしなかったから気楽だったけど。一泊20CUC(20ドル)っていうハバナではかなり安い値段だったからこんなもんか。


 昼過ぎに宿についてまずあたしがしなければいけなかったのは、お金を降ろすこと。宿代払ったら残り5CUC(5ドル)しかない。初日にメキシコから持ってきたドルを銀行で両替してたものが底をついた。しかたないので宿主のロベルトに銀行の場所を聞いて探しに行った。そのときちょうど3時。銀行の門が閉まった!がーん。他の銀行を警官に聞いて歩いてやっとATMを見つけてキャッシュカードを差し込むと、「あなたのカードは使えません」の文字。
 え・・・?!なんでなんで?だってこれしかキャッシュカードないよ?これからどうすんだー!
 いや、このATMが悪いんだ、と思って気を取り直して他のATMを探して、カードを差し込んでみる。やっぱりダメ。

動転して、とりあえずカサに戻って日本から持ってきてたキューバの資料を片っ端から読んでみる。

そうしたらあるホームページからプリントアウトしたものに、ある記述を見つけた。

「キューバではアメリカ決済のカードは不可。たとえ日本で発行されたものでも米国系の銀行(Citi Bank等)のカード、AMEX、Dinersの米国系カードは不可」


あたしが持ってカードは3枚で、ひとつはさっきATMで使えなかったCiti Bankのキャッシュカード。もうひとつもいつもメインで使ってるCiti Bank/Visaのクレジットカード。もうひとつは秘密兵器?として持ってきてた東京三菱銀行/Master cardのクレジットカードだ。


ということはあたしが持ってるカードは3枚中2枚は使えないってことだ。

 もしここがキューバじゃなければ、そんなに事は深刻じゃない。残った一枚である東京三菱銀行/Master cardのクレジットカードで買い物してなんとか切り抜けることができる。しかし残念ながら?ここはキューバなので、クレジットカードなんてほとんど使えない。使えるところは、リゾート客が行くようなところなので、あたしみたいな貧乏旅行者が行くようなところでは使えない。その上物価は東京以上で、それをすべて現金で払わなければいけない。現金is全てだ。

 そのときは5000円ほどの日本円を持ってたので、それをCADECAっていう大きい両替所のようなところに持っていってキューバペソに両替。とりあえずその日は乗り越えた。
で、このあとどうしよう?5000円じゃ残りの宿代すら足りない。

 結局東京三菱のクレジットカードによる「キャッシング」ってのを始めてやってみたのだ。借りた分はあとで請求が来るから、その口座に現金が入ってなくても大丈夫。それでやっどお金を降ろすことができた。やっぱりカードはいくつか持ってたほうが安心みたいだ。ふぅ。
 ちなみにあたしが命拾いしたCADECAはHabana Viejaにある観光客いっぱいのObispoっていうストリートにあるので、これからキューバに行ってあたしと同じような目に遭う可能性のある人は覚えておくと便利かも。


 そんなことしてたらすっかり日は暮れて(実際にはまだまだ日は落ちてないけど)、もう6時くらいだ。

お腹空いたし、あんまりお金も使えないから安くておいしいって評判の中華街に行ってみることにした。
中華街はカピトリオっていう国会議事堂の後ろ側にある。
  場所がわからなくてその付近を歩いてた。観光客の姿は全くなく、キューバ人の住むエリアだ。歩いてたらいつものように30才くらいの男の人に「チニータ、ボニート(かわいいね、中国人ちゃん)」って声かけられた。あたしはいつものように「Japonesa(日本人だよ)」って答えた。ここまではほんとによくあることだ。一日に50回くらいそんなことを言われ、無視したり、気が向いたらちょっと話したりする。別にこれはナンパでもなく、すれ違いざまにただ言ってるだけだ。アジア人が珍しいから、つい言ってみたくなるらしい。
 でも、このときは違った。急にヤツはあたしの手首を強くつかんで、離さなかった。ヤツはスペイン語でなんか言ってた。何が言いたいのかわからなかったし、なんで急にそんなことをされたのもわからず、あたしは英語で 手を離せ、って何回も言って何度も振り払おうとしたけど強くつかんだ手を離さなかった。相手が言ってることでわかったのは「Oiga!(話を聞け)」だけ。まだ明るかったし、殺されるような気配もなかったけど、周りには誰もいなくて、怖かった。手を振り払って逃げた。

 少し歩いたところにはいっぱい人が歩いてたけど、やっぱりそこには白人や、黒人のキューバ人の姿だけ。無性にアジアが恋しくなって中華街に急いだ。どこに旅行に行っても、中華街に行くと安心する。言葉は違っても、自分はアジア人であって、中国人には親近感を感じる。そして同じ姿かたちの人の中にいれば自分は目立たない。アジアを出ればどこにいても自分はマイノリティーで、どうしても目立つ。それでも中華街に行けば、そこではマジョリティーになれるのだ。

 どこから引っ張ってきたデータだか知らないが、キューバの人種比率を見ると、1パーセントはアジア人だそうだ(ちなみにキューバは人種比率は人種差別につながるとかで発表していないはずだ)。その多くはその昔、サトウキビ畑の労働力として移民してきた中国人らしい。1パーセントってのは結構多い数字だと思う。100人すれ違えば1人はアジア人だ。
 でもハバナとトリニダーに一週間いて、観光客以外のアジア人は中華街で3人見ただけだ。
ハバナのの中華街には中国人はほとんどいなかった。どこの中華街でも当然のように見る、中国人同士が中国語で話している風景はなかった。ウェートレスは白人や黒人のキューバ人がいかにもなチャイニーズ風の衣装を着て、両手を合わせて「ニーハオ」って言う。中華街なのにこの有り様・・・。2回入った中華料理のレストランで、中国人のスタッフは一人もいなかった。結局中華街に行ったものの、マジョリティーにはなれなかった。でもごはんは、他のレストランに比べれば断然ベター(あくまでもベター)で、量はものすごく多いし、値段はキューバにしてはめちゃくちゃ安かった。山盛りのチャーハンとジュースで2ドルくらいだ。味に期待しないなら、中華街はオススメだ。


 お腹いっぱいに食べた後は、タクシーで会ったHeidiとの待ち合わせ場所であるカピトリオに向かった。時間を間違えて30分早く来てしまったので、横の柱の影に隠れて日記を書いた。なんで隠れたのかというと、さっきの「手首掴み男」のことがあって、もう誰にも話しかけてほしくなかったからだ。
 あたりは徐々に暗くなってきた。
 すると今度はじーさんが寄ってきた。「アジア人、キミはかわいい」を連発する。お決まりの話の切り出し方だ。たぶんお金をせびりに来たんだろう。話したくなかったから、英語で「スペイン語は話せない。」って言った。じーさんはしつこく居座る。友達との待ち合わせ時間まであと5分だ。あたしの持ってた日記とペンを取り、何か書き出した。スペイン語らしき文字で何か書いてる。象形文字のようで、まったく読めない。あまり字を知らないんだろう。あとで解読したところ、「Amor(英語でいうとLove)」だけ読めた。そのうち、「自分は貧乏で汚い、あなたはリッチでキレイだ」といって髪の毛を触ってきた。それでもうガマンできなくなって怒って友達の待ってるはずのカピトリオの正面まで歩いていった。じーさんは最初着いてきたけど、あたしの友達の姿を見つけると、どこかに行ってしまった。


 Heidiはキューバ人の友達を連れてきた。泊まっていたカサの近所に住んでいる人らしい。彼はしっかりとした人で、私たちのボディーガードみたいだった。Heidiは、泊まるはずだったカサに空きがなかったそうで、今夜はあたしの部屋に一緒に泊まることになった。


 カフェでHeidiがキューバで友達になったスイス人の女の子2人を待ち、5人で出かけた。2人ともモデルばりにきれいな子たちだった。写真撮っとけばよかったな。彼女らは半年仕事を休んでキューバで2ヶ月語学学校に行っていて、スペイン語を勉強し、その後南下して南米を旅行するらしい。キューバにはスイス人が多いらしく、語学学校のクラスは半分スイス人で、残りはオーストリア人とドイツ人とイタリア人で、おもしろくないって言ってた。確かに、観光客はその辺のヨーロッパ人がほとんどで、英語を話す観光客はほとんどいなかった。
 片方の女の子はスイスで幼稚園の先生をやってるらしい。半年も仕事休めていいなぁって言ったら、有給を使ってるの、だって。スイスありえない・・・。普通の仕事はそんない有給長く使えないけど、スイスでは先生は長く有給が取れると言っていた。なんとも、スイス・・・


 飲みに言ったのはCafe' Parisっていうバー。Obispo通りにある観光客向けの小さい店で、生演奏もあった。窓やドアは開けっぱなしなので、店の外では中に入れないキューバ人が踊っていた。かろうじて歩けるくらいの小さな女の子が、音楽に合わせて腰を振っていたのには驚いた。キューバ人にとって踊ることは話すことと同じくらい自然なことなんだろう。


 帰りはHeidiと一緒に歩いて帰った。ひとりで歩いてるときはめちゃくちゃ話しかけられるのに(日本人2人でも同じだ)、白人のHeidiと一緒にいるときはそんなことは皆無だった。白人の観光客は珍しくないからだ。

キューバの印象は、私たち日本人と、彼女たちスイス人では全然違うように見えるんだろうか。