私が大河ドラマに夢中になったのは、「国盗り物語」(1973年)から「徳川家康」(1983年)にかけてのこと。
それ以前の「太閤記」や「天と地と」は幼すぎて視聴していなかった。
再放送がされれば夢中になってみたに違いない。
ドラマや歌唱などの芸能またはスポーツという分野は難しいもので、いくら志ん生や沢村栄治が凄かった、と言われてもその凄い映像が残っていないと、その凄さがわからない。
どうも芸とはかないものだ。
大河ドラマにしても、
北大路欣也の竜馬はカッコ良かった!
緒形拳の弁慶には感動した!
石坂浩二の謙信は素晴らしかった!
と言われても、映像が残っていなければ、「残念」とうなだれるしかない。
のちに語り継げもしない。
まことにはかない。
フィルムが高価だった時代だ。
むかしの大河ドラマはそういう状況下にあった。
やむを得ないか。
しかし、である。
私が大河ドラマに目覚めるまえ、少年だったころ夢中になったのは、ウルトラマン(1966年)、ウルトラセブン(1967年)だ。
これは今でも観ることができる。
特撮
という新ジャンルがテレビに登場したのだ。
まあ、昭和のレガシーとしてのこして当然かもしれない。
しかし、そのことは、それらを制作した者たちがクリエイターであり、パイオニアであり、チャレンジャーだった証だろう。
彼らは金をかけてでも、沢村栄治の剛速球のような作品を、映像として残す意味を痛いほどわかっていたのだと思う。
当時のテレビは手塚治虫や藤子不二雄などのマンガもたくさんあったが、私がハマったのはやはり実写だった。
悪魔くん
河童の三平・妖怪大作戦
仮面の忍者赤影
ジャイアントロボ
の4作である。
これらは1966年から1968年の間に放映されている。
しばらくの間、さかんに再放送されていたはずだから、ほんとうに夢のような時代だったといまになって思う。
間違えていなければ、全て東映が製作していたはず。
これらには、
牧 冬吉
吉田義夫
潮 健児
室田日出男
安藤三男
汐路 章
など知る人ぞ知る東映の名脇役陣が出演している。
みな、顔力が強かった!
大河ドラマもそうだが、これら子供相手の30分番組だが、原作がすごい。
「悪魔くん」「河童の三平」は水木しげる、「仮面の忍者赤影」「ジャイアントロボ」は横山光輝の原作だ。
「悪魔くん」「河童の三平」は妖怪・怪奇モノだ。
子供向けだから残虐でも残酷でも冷酷でもない。
いまはまず無い題材だが、当時はたしか白黒番組だったはずで、音楽の相乗効果もあって、子供ごころにとても怖かった。
記憶にあるのは「河童の三平」。
河童の三平 妖怪大作戦 amazonホームページより
河童の世界で長老、河童のカン子、六兵衛らと知り合った三平は、河童の妖力を身につけて人間界にもどる。
家に帰ると母が記憶を失い消息を絶っていた。
それは、人間である三平が妖力を身につけたため、妖怪世界の掟を犯したことに憤ったもののけの祟りであるという。
災いは三平の代わりに母にふりかかる。
三平は単身母を捜す旅に出た。
母を乗せ消えていく馬車の後ろ姿が、いまでも脳裏に残っている。
小学校低学年には、これは怖かった。
世の中は、まだ大阪万博の前だ。
まあ、外へ出ても街中でもコンビニもない時代だし、街路灯は裸電球だったし、車もそれほど走ってないし、ひとの着ている服も地味なものだった。
つまり、夜のとばりはいまより早く、闇もいまより深かった。
50年前とはいえ、いまとはだいぶ違う。
子供番組につきものなのは、子役であろう。
河童の三平を演じたのは、金子吉延さん。1955年生まれ。
「仮面の忍者赤影」の青影といったほうがとおりがいいかもしれない。
鼻に親指をあてて
大丈夫!
という決めゼリフが懐かしい。
相棒の白影は俳優・牧冬吉さん。
「河童の三平」では六兵衛を演じていて、二人は両方のドラマで共演している。
自伝によると「河童〜」のロケの時は、イタチ男役の潮健児のマークⅡで現場へ。潮さんのダジャレに付き合わされていたとか。
大人になった青影(金子吉延)。
映画「二百三高地」に兵士役で出ていたのを覚えている。
「ジャイアントロボ」は、いまでも根強いファンが多いのではないか。
悪の組織BF団と世界的な防衛組織ユニコーンの戦いを通し、BF団の操る怪獣たちとユニコーンの一員となった少年・草間大作の命令のみで動く巨大ロボット・ジャイアントロボの戦いを描く。
草間少年を演じたのは、金子光伸さん。1957年生まれ。
彼は天才子役と言われた。
ユニコーンは、メンバーを互いにU3とかU7とコードネームで呼び合っていて、親にもその存在を秘密にしなければいけないと言われている。
赤〜い太陽〜、背に受〜けて〜
鉄の〜巨人の〜、さ〜け〜び声〜
という寂しげな歌い出しに、ジャイアントロボの出動シーンが重なる。
作曲は山下毅雄。
山下毅雄といえば、大岡越前、悪魔くん、クイズタイムショックなど、陰翳のある独特な曲調が印象深い。
ジャイアントロボ/(C)光プロ・東映 東映チャンネルホームページ
ジャイアントロボは人型の巨大ロボットだ。顔はどことなくスフィンクスを彷彿とさせる。
ジャイアントロボは最初に命令を受けた人間の命令にのみ従うようにできている。
最初に命令をしたのが草間大作少年だった。
宿敵・ギロチン帝王の繰り出す怪獣たちを倒して、最終回。
ついにギロチン帝王と闘うロボ。
わずかになるエネルギーのなかで、ロボは草間少年の命令に逆らい自らの意志で、ギロチン帝王を抱えて宇宙空間へ飛び立つ。
ロボ、帰ってこい!
ロボのバカ、なにをするんだ、死ぬぞ
ロボ、帰ってこい、ロボ!
ロボ、僕の命令をどうしてきけないんだ!!
ロボとギロチン帝王は、隕石に激突する。
すべてが終わり、無になった空間を見つめて静かに敬礼するユニコーンの面々。
大人でも涙が出そうなシーンだ。
ロボットがゆえに、優しき鉄の巨人に子供ごころながら惹かれていた。
金子光伸さんの主演は「ジャイアントロボ」(10歳)と「悪魔くん」(9歳)の2つだけ。
坊っちゃん刈りに端正な顔立ちはいまも鮮烈に記憶に残っている。
光伸少年はとにかく可愛く凛々しかった。
いまでも彼のファンサイトがあるという。
しかし、彼はもういない。
平成21年に39歳の若さで亡くなっている。
交通事故だそうだ。
悲しいことながら、彼が永遠になった分、いまなお光伸少年の輝きが増しているのかもしれない。
幸せなことに、この4作品。
すべて映像に残っている。
しかも、「仮面の忍者赤影」と「ジャイアントロボ」は東映チャンネルで、いま視聴することができる。
スイッチをつければ、私たちはいまもふたりの金子少年に会うことができる。
彼ら関係者が金をかけてでも、沢村栄治の剛速球のような作品を、映像として残してくれたおかげである。
ただ、気になることがある。
4作品と彼らは、私たちの懐かしさの中だけに輝く存在だったのか、それともいまの子供たちが見ても〝子供だまし〟ではない、普遍の存在なのか、その答えが知りたくもあるのだ。