「会いたい」がメッチャ良く聞こえた原因の一つは、「会いたい」と言う音源そのものが持っている、再生環境への敏感性と、そして、もう一つがどうも、TAIS Adapterに施したパルシャットの貼付にある様です。
non-Data Disturbanceモデルでは、5つの要素を音楽再生を妨害する要素として規定しました。
この要素が、それぞれに影響しながら各機器間を音楽データとともに、もしくは別々に伝わっていき最終的に再生する場所でのDisturbanceがどの程度あるのか、が音質を決定する要因では、と言う仮説です。
TAISアダプターは、取り付けた機器内のVpower:電源電圧変動を能動的に抑制することが主な作用です。では、この電源の電圧変動はどのように生じるのでしょうか。
Vpowerを変動させる大きな要因は2つあります。最も大きな要因は機器そのものの動作に伴う電力の需要変動です。例えば、デジタル回路では矩形波を発生させるのですが、矩形波を作るには非常に急峻な電圧変動を発生させているのですから当然ながら電磁波が発生してしまいます。電磁波は回路の導体内だけではなく、空間にも放たれます。そして、その発生源は、ICチップや各種クロック生成機、基板パターンの急カーブしているところなど、様々な場所に無数に存在しています。それらが微妙にずれたタイミングでバラバラに電磁波を空間や回路内に解き放つのです。すると、それらの電磁波は互いに干渉し合い、強め合ったり弱め合ったりして干渉縞を作り、モアレとなって、回路内の電位を揺らし、空間に様々な周波数の電磁波を満たします。そして、それらの空間の電磁波はまた、基板内の回路そのものに影響を与えていきます。基板パターンはそれらの電磁波が最小化されるように設計されていますし、それはTAIS Adaterでも同様ですが、完全にそれらを0にする事は原理上不可能です。こう言ったノイズの多くを総称して、EMIと呼びます。
もう一つのVpowerを変動させる要因は、電源そのものの品質です。私はその影響は低周波の変動に限定され、必要な回路安定性のごく一部を担っているに過ぎないのではないかと考えています。リニア電源はそれ自体非常が低ノイズ、低インピーダンスであったとしても、リニア電源自体から機器までの間が離れていることがほとんどで、電源線は数十センチ以上ある事が多いと思います。例えば、12Vで、1Aの電流需要の急な増減が合った場合には、電源線が50cmならそれだけで約250mVの電圧低下をもたらします。この電圧低下にはリニア電源であろうと、スイッチング電源であろうと何の関係もないのです。50cmの電源線で接続する限りこの電圧低下は不可避です。しかも、リニア電源の中には、電源線が取り外せる物が多く、その場合、そこでの接触抵抗も大きな問題です。つまり、これらの電源は外部からのノイズをいかに下げるか、と言う事には注力しているのですが、機器内の回路の静かさを保証すると言う意味では片手落ちと言わざるを得ません。
さて、話をVpowerから、全体像にもどします。
Vpower変動の存在をNDDによせて、整理すると、妨害の要素としては、デジタル機器が動作するだけで、コモンモード電圧、コモンモード電流、電源電圧変動、グランド電位変動、クロック揺らぎ、全ての要素が発生しうるのです。それをNDDでは、発生妨害、Nと呼びます。このNはEMIそのものと、それによって生じる障害との両者を含んでいます
このNの大きさをできるだけ小さくすること、は音質向上に取っては非常に重要なファクターです。
一般的なEMI対策は、このNを小さくする上で重要な対策の一つです。
EMI対策としては幾つかの物が知られています。
まずは、外からの外乱を防ぐための対策です。例えば、Wifiの電波や、となりの機器の発するノイズを遮断する、などがこれに当たります。
例えば、銅箔で機器全体を覆ってしまう、とか、アルミホイルで包む、などがこれに当たります。パルシャットも使い方次第では似たような作用になりますが、一方のアルミ箔や、銅箔などは、電波を跳ね返すというのが主な作用で、減弱させる作用は強くありません。ですから、回路を下手に銅箔で覆ってしまうと、場合によっては外からのノイズは遮断できるが、器機内からのノイズは反射し、閉じ込めてしまい、共振して増幅してしまう、と言う事になりかねません。
もう一つは、今回の様に回路そのものにパルシャットを貼った場合に相当するのですが、発生したノイズを熱エネルギーなど別の形に変えて発散させてしまうと言う方法です。パルシャットは、導通性の細線維の不織布を絶縁性のテープで挟んだ構造をしています。この導通性の細線維に電磁波が当たると、そこで局所の電流が発生し、抵抗で熱変換され、電磁波が弱まるという仕組みです。つまり、電磁波を吸収して、減衰するのが主な役割です。
そして、回路そのもの内部の状態に対するのが、TAIS Adapterの様に積極的に能動的に回路内の電圧変動を抑え込む、と言う仕組みです。
機器から見て、TAIS Adapterを取り付けた電源がどう見えるかというと、機器が電流を欲しいときに、電流をすぐに欲しいだけくれる、極めて気前の良い電源に見えているはずです。これを、低インピーダンスの電源と言います。直流電源でも、電流の需要は変動するので、周波数を持っています。TAISアダプターは0Hzから数100MHz程度までの周波数の電流変動を瞬時に補うように電流供給を調整しています。
みなさんがジュースを飲むときに使うストローを考えて見てください。例えば、ゴンチャについていくる様な極太ストロー。これならちょっと吸い込むだけで大量の液体が口の中に溢れますから、強く吸わなくても欲しいだけ幾らでも飲めます。しかし、オシャレな店でて来る、これ、蝶の口吻ですか、という様な極細ストローだと、いくら吸ってもちょびっとしか飲めないと思います。このときの口にかかる陰圧が、電圧低下と考えれば大きくは異なりません。TAIS Adapterの動作は、細いストローを極太ゴンチャストローに変えているのです。
もう少し、内部のノイズ発生源と、外部ノイズ、TAISアダプター、各種シールドの仕組みを現実世界に当てはめて説明してみます。
例えば、今流行のノイキャンイヤホン。あのノイキャンイヤホンが何をしているのかというと、音楽データとは別に入ってくる外部の音をその音と全く逆位相の音で打ち消しているのです。その意味ではTAIS Adapterの動作に極めてよく似ています。
例えば、非常に密閉性が良いカナル型のイヤホンにスポンジタイプのイヤピースをつけると、ノイキャンが無くても、ほとんど外部の音が聞こえなくなると思います。これはまさしく、銅箔で回路全体を覆ってしまう、つまり外部のノイズが入ってこなくした状態と同じ状況です。
一方でその状態で走ってみると、自分の足音が頭の中に響いてしまって音楽が聞き取れない、と言う事も良く有ると思います。これは、走ったことで生じた振動が外耳道を閉鎖したことで増幅してしまう、と言う現象なのですが、これと同じような現象が電磁シールドでも起こり得ます。
電磁シールドは、外からのノイズを遮断することはできても、中で発生したノイズまで消えるわけではありません。それどころか、内部のノイズが別の場所へ伝わりやすくなり、かえって悪影響が強まることさえあるのです。
実はTAIS Adapterは外部のノイズだけで無く、内部で発生した、イヤホンの例で言うと自分の足音も能動的に制御しているのです。
パルシャットは、外部ノイズ、内部ノイズともに受動的に吸収しています。一方で、ある程度の電磁シールドとしても働くので、両方の特性があると考えて良いです。ですから、今回、基板に貼り付けて効果があったのは、シールドの効果と副作用、そして電磁吸収効果を全て総合してプラスに作用した、と言う事で、必ずしも毎回うまく行くわけでは無い、と思います。
TAIS Adapterの筐体をあえてプラスチックにしたのには意味があります。それは、外部から飛び込んでくる電磁ノイズよりも、回路内部で発生するノイズや、そのノイズが他の回路に与える影響の方が大きい場合もあるのではないか、と考えたからです。それは、これまでの様々な取り組みでも示唆されています。
例えば、私が自作した分離LANケーブルです。
このケーブルには全くシールドが施されていません。それどころか、4組のツイステッドペアを離すことで、外来ノイズの影響を受けやすくなった可能性さえあります。それにもかかわらず、音質は明確に良くなりました。
このことが私に示唆したのは、室内を飛び交う電磁ノイズの影響よりも、近接する4組のツイステッドペア同士の干渉の方が、音質に大きな影響を与えている場合があるのではないか、ということでした。
さらに興味深いことに、4組の信号線を分離するという基本構造では共通しているものの、各ペアがきちんとシールドされたアコースティックリバイブの高額なLAN Quadrantよりも、1000円未満のLANケーブルの被覆を剥がして分離したものの方が、私の環境では明らかに良い音がしたのです。
もちろん、この違いがシールドだけによるものとは断定できません。しかし、この経験は、シールドが外来ノイズを防ぐという利点を持つ一方で、内部のノイズの伝わり方や、シールドと信号線の間に生じる電気容量などによって、信号の伝送にも影響を与えるのではないか、と考えるきっかけとなりました。
つまり、金属でしっかり覆って外来ノイズを遮断することが、必ずしも最良の結果をもたらすとは限らないのです。
TAIS Adapterの筐体をプラスチックにしたのも、こうした経験から、外来ノイズを防ぐことだけでなく、内部で発生するノイズへの影響も重視したかったからなのです。
少なくともEMI対策がTAIS Adapterの音質向上に寄与した、それも主にGHz帯のノイズを抑制するパルシャット貼付がかなりの効果をもたらした、と言う事から、一度、全体を金属で覆ってみるという試みは行っていも良いのかもしれません。
今度アルミ箔で全体を覆ってみて、またご報告します。




