重要なのは伝送に伴う電流需給の低減と電圧変動の抑制

これまで、電源環境の工夫、通常のEthernetでは100Base-Tの方が良いと感じる理由、SFPポートの使用による効果などについて、私なりの仮説を書いてきました。

 

電源環境の工夫については、電流変動に対して電圧をいかに頑健に保てるか、という観点で考えると非常に理解しやすくなります。


ネットワークオーディオでは、機器内部の「静かさ」が重要であり、頑健な電源や低ESRのコンデンサバンクは、電圧を安定させることで内部ノイズの発生を抑えていると考えられます。

 

同様に、100Base-Tは復調の仕組みが単純で処理負荷が小さく、結果として電流需要が減り、電圧変動が抑えられます。


SFPで使われるBase-Xも、物理的な伝送特性を高めることで複雑な計算処理を必要とせず、やはり電流需要と電圧変動を低く抑えています。


さらにDACケーブルは、電気-光変換を行わないことで処理量を減らし、同じ方向に作用していると考えられます。

 

これらは一見すると別々の工夫に見えますが、実際に機器や環境に与えている効果は共通しており、**「機器内部の電圧変動を最小化し、静かさを保つ」**という一点に集約されるのではないかと思います。

 

 

  RoonやDirettaは何をしているのか

これらの工夫は、他の方向からも様々に試みられています。その代表例が、Roonであり、Direttaであると思うのです。

 

RoonはRAATという仕組みをとおしてRoon Coreが再生器機側の負荷を常に監視して、最適なタイミングでデータを送り出すという事を行っています。つまり、Roon Coreは非常に高負荷で様々な事柄を行っているが、再生器機側は楽に仕事をしている、と言う状態です。

ただ、次に述べるDirettaと決定的に違うのは、Roonで使われるRAATはTCP/IPの仕組みを使っている、と言う点です。つまり、通信の所はそのまま元のOS,例えば、Z1CならLINUX、DMP-A10なら、androidなどの仕組みを使っているので、通信の割り込み制御やパケットの順序制御などは再生器機側で行っている、と言う点です。

Roonは、既存のTCP/IPと言う通信の仕組みはそのままに、処理をRoon Coreに多くを担わせて、分散することでRoon Brige側の負荷をできる限り減らしているのです。

 

一方のDirettaは、再生器機側はTCP/IPの処理を行いません。データは再生器機側(Diretta Target)側のクロックに従って必要量がDiretta Hostから供給されます。Diretta Target側は、自分のクロックに従ってデータが送られてくるので、いつデータが届くのかはかなり正確にわかりますから、順序処理や面倒な割り込み制御などからは完全に解放されています。

 

Direttaの通信自体は、Ethernetの仕組みを使っていますから、既存のネットワークは普通に利用出来ますが、Direttaは外乱に対する耐性が高くはありません。

例えば、LAN環境がマルチキャストだらけだったりすると、音質は途端に悪くなってしまうはずです。逆によく練られた静かなネットワーク環境であればRAATよりも再生側の負荷ははるかに小さくなりますから、音質としては非常に有利になります。

 

つまり、Roonの伝送プロトコルであるRAATはアプリケーションレベルでできる限りの高音質化を図った方式、一方のDirettaは、一歩踏み込んで、通信そのもののレベルで高音質化を図った方式と言えます。RAATはTCP/IPを使って居る分、ネットワーク環境の荒れには強い一方、一方のDirettaは通信環境そのものの良し悪しが直接音質に繋がってきます。Direttaの奏でる音はよく練られたネットワーク環境では原理的にRAATよりも優れている可能性が高いと思います。

 

Roon、Diretta共に目的は再生器機側の負荷の最小化を図る、と言う点では一致しており、これまで述べてきた、SFPポートを使った通信や、100Base-Tが音が良くなる事とほぼ同等の事をしていると言って良いのです。

 

 

  現時点での高音質化のまとめ

これまで述べてきたように、ネットワークオーディオではデータ自体の完全性は常に保たれています。では、何故音が変わってしまうのか、と言えば、負荷変動による機器内部に生じる電流需給変化からの電圧変動が機器の動作に影響を与え、音質を変えてしまう、と言うのが私の仮説です。

 

以下、私がネットワークオーディオを高音質で聴くために必要だと考えている事を列挙してみます。

 

1. ネットワークオーディオ用のLAN環境はDATA ISO BOXなどを用いて、家庭内LAN環境から分離する:これはマルチキャストなどを締め出し、静かなLAN環境を作るために必須です。特にDirettaを用いるのであればなおさら重要です。

 

2.SFPポートを用いたBase-Xでの通信をできる限り取り入れる。普通のBase-TのLANケーブルでつなげるところも、あえて、OPT LAN Bridge、Sonore Optical Moduleなどのよく練られたメディアコンバーターを挿入して、Base-X部分を作ることでBase-T側の出力信号が奇麗になり後段の機器負荷が減る可能性があります。

 

3.ネットワーク器機用の電源は大容量の良質なスイッチング電源+コンデンサバンク、もしくはバッテリー電源+コンデンサバンクが最適解である可能性が高い。小容量のリニア電源よりは大容量のスイッチング電源の方が音が良い可能性があるのです

 

4.RAATやDirettaなどのオーディオに特化した通信手段を導入することは直接的に高音質に繋がります。ただし、RAATにしてもDirettaにしてもただ導入すれば音質がよくなるという物ではありません。特にDirettaは平滑なサーキットならとんでも無い性能を発揮できるF1マシンのようなところがあります。RAATはどこでも走れるラリーカーという感じです。つまり最適な環境ではDirettaのほうが有利でしょうし、そういった環境を用意できないなら、RAATのほうが有利な場合もあると思います。

 

5.予算はネットワーク構成に多くを割くべきです。特にSFP化には積極的に取り組んだ方が確実に音は良くなります。その中核である、ネットワークスイッチ、オーディオ用ルーターには頑張って予算を割くべきです。ここをよくしなければ、100万円のネットワークプレーヤーも宝の持ち腐れです。

 

6. 本文には書きませんでしたが、デジタル領域で働く機器と、アナログ領域で働く機器を分けた方が音が良いのでは無いかと考えています。つまり、ネットワークプレーヤー単体でアナログ出力をする(デジタル領域とアナログ領域が混在)のではなく、ストリーマーとDACとを分ける方が良いと思うのです。デジタル領域で働く機器の高音質化を図るのは結構単純で、機器内部のノイズをとにかく減らすか、が鍵なので、ノイズ対策アクセサリーが極めて有効ですが、DACではそうは行きません。余りノイズ対策アクセサリーをつけすぎると音が死んでしまうのです

 

 

  今後の方向性の予想

私のこれまでの経験から、今後ネットワークオーディオがどのような方向に進みそうかを予想してみます。

 

高級機にはSFPポートは必須になる

まず、ハイエンドオーディオ用のネットワークはSFPポートを用いたBase-Xが主流になっていくと思います。今後発売される高級機にはほぼ確実にSFPポートがつくでしょう。それは原理的に音質にとって極めて有利だからです。現在のハイエンドオーディオ用スイッチのDELA S1は、SFPポート4個、RJ45ポートが8個ですが、次のバージョンではSFPポート8個、RJ45ポート4個になっているかも知れません。

 

光絶縁とDACケーブルは使い分けが必要になる

一方で、光絶縁は、電気的に完全に分離できる、と言うメリットと、動作負荷が重いというデメリットを天秤にかけることになると思います。今の所、私の経験ではDACケーブルの方が音は良いです。これは、電気的な分離によるノイズ遮断効果よりも電源負荷による電圧揺らぎの方が問題になりやすいことを示していると思います。

 

機器内部にバッテリーを積みバルクコンデンサを備えた機器が増える

これは予想ですが、リチウムイオン電池の低価格化によって機器内部に大容量のバッテリーを積みそれに低ESRのバルクコンデンサを備えた電流需要に対して内部電圧を一定に保つ工夫をした機器がハイエンド機器の中に多くなってくるのでは無いかと思います。これは、ネットワーク機器、と言うよりもデジタル領域のみで働く機器、と言った方が良いのですが、これをする事で負荷変動をネットワークの工夫で減らしても取り切れない変動にも対処し、究極の音質が達成できると思うのです。

 

ハイエンド機器の中にDiretta、もしくは似たようなプロトコルを採用する物が増える

Direttaはオーディオ用専用ネットワークで使うなら非常に優れた仕組みです。一方のRAATは、普通の家庭内LANでも高音質を達成しやすいと言う特徴があります。おそらく、普通のオーディオ器機ではRoonもしくはそれに準じたTCP/IPを使い、さらに後段の機器の負荷を送り出し側で分散する機器がでてくると思うのですが、オーディオ専用にネットワークを組んでしまうような私たちの様なオーディオオタク用にはDirettaやそれに似た仕組みを持った機器が今後主流になっていく可能性を否定できないと思います。

 

 

  最後に

ネットワークオーディオで音が変わると感じる理由は、データが変わるからではなく、再生機器がどれだけ静かに、安定して仕事ができているか、
その違いにあるのではないか――
現時点では、私はそう考えています。

もちろん、ここで述べた考え方が、
すべての環境、すべての機器に当てはまるとは限りません。

しかし、少なくとも私自身の経験では、
ここに書いた視点で機器や構成を見直すことで、
ネットワークオーディオの音質は大きく改善してきました。

今回のブログは、これまで様々な工夫をしてきた中で、
自分の考えを整理する意味も込めて書いてきました。
この文章が、みなさんのオーディオライフの
何かしらのヒントになれば幸いです。