米債務上限問題が片付かないからバイデンはG7に来るとか来ないとか言っていたが、バイデンが米国内に残っていたからといって何の役にも立たないだろうに。だから日本に来ることになったみたいだ。
しかし、この馬鹿げた米債務上限問題が話題になっていることにひと言。
「米債務上限問題」とは、米国の連邦政府が国債を発行して調達する債務の金額が、定められた上限に到達することで、国債を償還できない「デフォルト」(債務不履行)に陥る懸念が生ずることだ。
これは予算編成を巡って、バイデン大統領と共和党が対立しているためで、イエレン財務長官は6月1日までに財政資金が枯渇すると警告したとのこと。
イエレン財務長官
現在31兆4000億ドル(約4315兆円)が債務上限になっており、そんな高額にまでもう債務が膨らんでいる、つまり日本の4倍もの債務に達しているのだ。
この連邦政府の債務の上限(Debt-ceiling)が定められたのは、100年以上も前の1917年らしい。その後何度となく債務上限の引き上げを繰り返しており、もう100回近くやっている年中行事なのだ。それが政治的駆け引きに使われ、それでも最後には妥協して債務上限を引き上げるので、専門家の間では、またか、ということで余り問題にしなかった。
しかし、今回はそう呑気なことを言っていられないようだ。
というのも下院で共和党が過半数を取ったし、次の大統領選も間近なので、民主党に一泡吹かせようと共和党が強腰になっているので、すんなりと債務上限の引き上げが決まらないようなのだ。
その前に100年前の法律しかも間違った法律がいつまでも残っていることのほうが問題なのではないか。ドイツも憲法で財政規律の規定があるようだが、コロナパンデミックのときはさっさと条項の一時停止をしたとか。これが大人の対応だろう。アメリカもこれまではそうだったのだけど。
財政規律とかなんとかうるさいのは、放っておけば財政赤字つまり債務が膨らんでにっちもさっちもいかなくなるから、こういう債務上限という縛りが必要だということらしいが、そもそも債務を返せなくなることなどないし、また返す必要もないのだ。これがMMTの見解である。アメリカ議員らも多くはみんな債務上限という縛りが無意味なのだと知っているはずだが、有権者向けのパフォーマンスをしているだけだろう。
しかしこのパフォーマンスがいくつもあるようで、この債務上限を決めた法律だけでなく、借金が増えることを嫌う法律が他にもあるのだ。
ひとつは「ペイゴー原則」というもので、下院においては新たな支出が必要な施策については、その費用を賄うための増税や歳出削減策を提示しないといけない。
もう一つは上院の「バードルール」というもので、これは赤字を増やすことはできるが、10年という予算期限を超えて増加することは認められないというものだ。
こういう縛りを掛けないと、借金はどんどん膨らんでしまう。米国でも日本と同様借金はよくない、債務が拡大するのはよくないと思っている債務恐怖症がたくさんいるのである。
つまり「どうする財源?」と。
しかし、今回は様相が違うようだ。
私の勝手な想像だが、民主党も共和党も債務上限の引き上げをしないで本気でデフォルトさせるかもしれないという懸念だ。
本当は両者とも国債の債務不履行つまりデフォルトなどさせたくないのは当然だ。しかし、今やチキンゲームと化している。
「チキンゲーム」とは、ある交渉において、2人の当事者が共に強硬な態度をとり続けると、悲劇的な結末を迎えてしまうにも拘らず、プライドが邪魔をして双方共に譲歩できない状況の比喩として使われるわけだが、まさに政治的駆け引きで相手が先に折れると思っているに違いない。
どちらかといえば共和党のほうが強気だ。しかし、デフォルトに陥って国内を問わず世界的に混乱を引き起こしたとすると、本来は民主党に不利なのだが、その責任を共和党に転嫁できる。そうすれば、次期大統領選でも有利に戦えると考えたとしたらどうなるか。
まさに最悪の事態が生ずる。
最近の金融関係者がデフォルトを本気で心配しているのはそういうチキンレースでどちらも引き下がらないかもしれないという心配をしているのではないか。
債務上限の引き上げをしないとなれば、それは人災、自殺行為だ。避けようとすれば避けられたのに、事故死してしまったようなものだ。チキンゲームはバカな若者がするゲームを模しているが、もしデフォルトしたらまさにバカな若者以上にアホというしかない。責任ある政党のすることではない。
しかし、一般の受け止め方は、この膨大な債務がいつまでも続くと思っていたら大間違いだ、財政破綻が近々来るはずだから、本当に困ったこと、どうするのか、やはり国債の発行はほどほどにしないと大変なことになる、という受け止めが多いのではないか。
例えば、今回のようなデフォルト危機に陥ったのは2011年のことで、この時ぎりぎりで債務上限引き上げ法案が可決してデフォルトを回避したのであるが、その直後格付け機関のS&Pが米国債の格付けを一段落としたのである。
その理由は政府の財政赤字削減計画が米国の債務安定化には不十分だとみなしたからである。
つまり、人為的なデフォルトを回避したのだが、膨大な債務残高問題は解決されていない、緊縮財政も不十分だ、つまり債務が削減されないから米国債の信用は低いと判断したのである。
これは日本の国債の格付けを引き下げた行為と同じだ。つまり、この格付け機関は国債の仕組みを全く知らない、素人程度の認識しかないことを露呈したのである。
つまり変動相場制の下での自国通貨建て国債のデフォルトは考えられないということが分かっていないのである。
当時の日本の財務省は格付け機関に質問状を出して「自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」のに、なぜ格付けを下げるのか理由をちゃんと言えよ、と問い詰めたのだが、格付け機関ははっきりした理由を言うことが出来なかったのである。つまり格付け機関は国債の仕組みを知らないことがばれてしまったのだ。ただ、素人衆には「膨大な借金だ、大変だ!」と叫べばみんなびっくりすることだけは知っているのだ。
最近の保守派でMMTを知らない人は、この債務について素人的な認識しかない者が多くびっくりだ。
アメリカの国内政治状況を伝えてくれる優秀なユーチューバー・Harano Timesが、最新のYoutubeで債務上限問題について言及しているが、まさに日本の財務省と同じ健全財政の考え方で説明しており、ギリシャのデフォルトなどを引き合いに出すなど、残念ながら経済音痴を露呈してしまっている。
そして膨大な債務は福祉社会を作ったかもしれないが、有権者に対する賄賂みたいなものだと、頓珍漢な結論を導いている。
さて、まさかアメリカがいくら政治的駆け引きとはいえ、デフォルトなんかさせる訳ないという意見がネットでは多い。私もそう思う。しかし、もしものことがある。チキンゲームは下手をすれば衝突して悲惨な事故の可能性がある。
その悲惨な事故の可能性つまりデフォルトに突入すると大変なことになるのだが、日本の財務省はそんなデフォルトを望んでいるのではないかと勘繰るのだ。
なぜか。
財務省と御用学者(東大-当時-伊藤元重教授、吉川洋教授ら)の言い分はいまMMT派に追い詰められて理論的にもやられっぱなしで分が悪いのだが、それで言うことに事欠いて持ち出すのが、イソップの「オオカミ少年」諭だ。
オオカミ少年は「オオカミが来る」と言って来ないではないかと批判されるが、最後にはオオカミが来た、というのが結論だ。財政破綻というオオカミも最後には来る。だからオオカミ少年に耳を傾けよ、と。
つまり、財務省と御用学者は財政破綻を望んでいることになるのだ。財政破綻しないと自分たちの立つ瀬がなくなるのだ。だからもし米国で人災とはいえ、デフォルトに陥ったら、それ見ろ、やはりオオカミが来たじゃないかと言えるのである。
だから財務省は米国の混乱を見詰めながら「デフォルト!デフォルト!」と叫んでいるかもしれないと勝手に想像するのである。
この辺のことを中野剛志氏は最新の著書「どうする財源」(祥伝社新書)で次のように書く。
「もしかして、東京大学では「イソップ寓話」を教科書にして経済学を教えているのですか?」
おそらくそうかもしれませんね。
破滅を望む気持ちを書いた小説がある。菊池寛の「ゼラール中尉」という短編小説だ。青空文庫で読むことができる。
財務省や御用学者はそんな「ゼラール中尉」のような倒錯した考えに陥っているのではないかと思うのである。
因みに、債務上限問題で議会の決着がつかなくても、政府の権限で債務拡大は可能という考えもあるようです。それは憲法修正第14条の第4節の条項に基づいてなされるという解釈です。
憲法修正第14条の第4節
「法によって認められたアメリカ合衆国の公共負債の有効性について、暴動や反乱の鎮圧に従事した者に対する恩給や補助金の支払いに要する負債を含め、問題にされることはない。」
つまり、債務上限を設けることでそれ以上の負債の増加を無効にするのは違憲だ、と解釈できるという意見もあるとのこと。
しかし、イエレン財務長官は憲法の規定に基づいた債務拡大には今のところ反対しているようですが。
参考
「銀行は集めた民間預金を元手に国債を購入しているわけではなく、日銀が供給した日銀当座預金を通じて、国債を購入しているため、銀行の国債購入は、民間預金の制約を一切受けず、銀行が国債を購入して政府が支出する場合、銀行の日銀当座預金の総額は変わらない。
また、政府が国債を発行して、財政支出を行った結果、その支出額と同額の民間預金が新たに生まれる。つまり、政府の赤字財政支出は、民間預金を減らすのではなく、逆に増やすことになる。それゆえ、財政赤字の増大によって民間資金が不足し、金利が上昇するなどということは起き得ない」
中野剛志『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室』(KKベストセラーズ)より