刺激を得る | 佐原敏剛文学塾

佐原敏剛文学塾

日本文学、海外文学を多角的に分析、批評する。名作といえど問題点は容赦なく批判する。

 何をやっても満たされない。働いて小説を読んだり書いたりしていた頃は十分満ち足りていた。一体何が原因なのだろう。食べるものもインスタントかレトルトで、本格的に自炊する気力が出ない。これは食後の後片付けの時に症状が出るからでもある。終日部屋でごろごろしている。何もやる気になれない。辛うじて読書ぐらいなら出来る。

 六年近く前に退院してから約五十冊の小説を読んだ。それも大半は純文学だ。一年に九冊近く読んできたことになる。小説の創作は最近していない。小説を書くためには十分な栄養が必要だと思う。体力が勝負だ。レトルトやインスタントだけではどうしようもない。それに刺激が必要だ。

 今私は缶コーラを飲みながら書いているが、コーラでも飲まないと文章が書けない。当面の生活目標は自炊をしっかりすることだ。五十八歳、病気が再発して八年、退院後六年が経つ。レイモンド・チャンドラーは五十八歳の時、『長いお別れ』を執筆していた。あのチャンドラーが。いや、確かめてみると『長いお別れ』が出版されたのは1954年のことでチャンドラーが生まれたのは1888年だから『長いお別れ』はチャンドラーが六十六歳の時の作品である。執筆に確か五年を要しているから書き始めたのは六十一歳の時だったろう。五十八歳の時は『かわいい女』を執筆中だったと思われる。

 何か新しい趣味でも始めるといい。金がかかるのは駄目だが。食生活は重要だ。美味しいものを安く作る。栄養のバランスも考えて。そろそろ書くことも尽きてきた。この間、昔飲み仲間だった蒼井上鷹さんの『4ページミステリー「震える黒」』を読んだ。彼は今、新作を書いていない。4年ほどブランクが空いている。プロとして二十年近くショートショートを主に書いて来たが、私が彼の作品を本で読んだのは新人賞を受賞した『キリング・タイム』が載った『小説推理』と今度読んだ『4ページミステリー』だけである。

 彼は今追い詰められているのではないか。心配である。流石はプロで作品の完成度には文句のつけようがない。次に読むのも蒼井さんの本にしようかと思う。そして一通り読んだらファンレターを出して、編集部にお願いして電話で話させてくれないか頼もうかと思う。今の所突破口はそこにしかない気がする。『4ページミステリー「震える黒」』は累計二十万部を突破している。純文学なら三万部売れればいい方である。大体、売れる小説を書くことは当たり前だが非常に難しい。私もそろそろ動き出すか。