外皮を覆う文学 | 佐原敏剛文学塾

佐原敏剛文学塾

日本文学、海外文学を多角的に分析、批評する。名作といえど問題点は容赦なく批判する。

人間が生きていく上での基本とは何か。敗戦を機に焼け野原からの復興努力に明け暮れた世代のモラルはものの見事に基本から外れた。金はあるところにはあり、楽をしようと思えば可能であった。アメリカに依存し、何もかも人任せで消極的であり、長いものには巻かれろというのが戦後日本の卑屈極まる国民生活だった。高度成長が軌道に乗ると国民は揃ってレジャーに金を使い、ますます基本を忘れていく。古典は忘れ去られ、外皮を覆う薄っぺらな風俗のみが巷に溢れ始める。風俗小説はそうした外皮を扱っただけの小説であり、文学本来の仕事をなし得ていない。戦後文学の表面的な華々しさは結局そうした風俗の恩恵に浴しただけと見做して差し支えがない。1970年代初頭まではそれでも良かった。70年代中盤から文学は急速に衰えた。基本が顧みられなくなったからである。現代の若手作家達は最早小説を書く資格すら持ち合わせていない。私利私欲の追求が当たり前の世の中で何が欠落したのか。飢えた子供達の前で文学は有効かと論争したサルトルとカミュは何を見ていたか。人間存在にとって戦争と平和は何を意味するか。多数決が政治倫理を萎えさせ、人間は欲
しか頭にない。