辞書かがみ論 | 佐原敏剛文学塾

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日本文学、海外文学を多角的に分析、批評する。名作といえど問題点は容赦なく批判する。

私が書いたネット小説『風の描く虎狼』を読んでいただければお分かりになることと思うが、私は今の若者たちが好んで使う言葉を容赦なく否定して書いた。江戸川乱歩やレイモンド・チャンドラーを模範として先達の用いた語法のみを採った。言うまでもなく、小説の「文体」にはその解釈によって二通りの意味が存在している。第一にその時代の風俗や習慣を反映し、その時代の相を忠実に写したものがあり第二は作者自らの個性が文章に形をとって現れたものである。今の時代の若者言葉は完全に崩壊した。最早彼らの言葉に歩調を合わせていては文学は書けない。そう判断したのだ。言葉だけではなくモラルに関しても大時代な古いモラルを作品の中で扱った。そうしない限り本格的なハードボイルドは書けなかった。広辞苑の最新版は見られたものではない。辞書かがみ論というのがあるそうだ。時代の風俗をそのまま「鏡」のように写したものと厳格な模範を示す「鑑」のようなものと二つある。今の広辞苑は鏡の方だ。 現代作家達が鑑となる文章を書けなくなったのは何故か。孤高の姿勢はどこへ消え失せたか。若い諸君、古典の小説をもっと読んで欲しい。そして作家
の真剣な眼差しを感じ取って欲しい。