チャンス | 佐原敏剛文学塾

佐原敏剛文学塾

日本文学、海外文学を多角的に分析、批評する。名作といえど問題点は容赦なく批判する。

合理的に考えて完全な人間は存在しない。ひとりひとりの人格は生きている以上、様々な制約に縛られる。人間社会全体も同様である。自然の脅威から自由でいられる人間社会はどんな国家でも共同体でもあり得ない。それだけならまだしも人が二人以上集まれば生存競争は避けられない。ここに二人の人間がいて、共に飢えており、食料が目の前のパン一切れしかない場合を想定してみれば現実問題は直ちに明らかになる。要するに人間は他者を犠牲にしなければ基本的に生きていけないのである。ただ犠牲者は犠牲者のままでとどまっていない。生死をかけた極限状況は今の日本には殆ど見られなくなった。犠牲者は絶望を克服する事が可能である。だが、こと死病であるとか難病であるとかいった深刻な状況になると問題は別である。無論、交通事故による死であるとか殺人事件の被害者であるとか病気よりも優先して解決しなければならない問題はある。しかしその場合は責任の所在が少なくともはっきりしているケースが多い。病気に苦しむ人々は孤独の中で戦うしかない。競争原理は全体を視野に入れて初めて存在理由を与えられる。合理的な努力を怠らなければチャンスは訪れ
る。