出血もなく、傷口そのものは乾いているのだが
なぜかぽっかりと喉仏の横に穴が空いてしまった。
拳を入れようと思えば入るくらいの大きな穴だ。
自分で鏡を見れば喉の奥はもちろん、骨らしきものまで見える。
我ながらグロテスクだなと、鏡の中の俺が顔をしかめている。
なんとも恥ずかしいやら情けないやらで
俺はタートルネックのセーターを着て出かけようとするが
もうだいぶ暖かくなってきたからそれも変だと
かみさんが、申し訳なさそうに言う。
俺もそうだな、と思い断念するのだが
なんともグロテスクでやりきれないのだ。
家族もその部分を見ないようにしながら俺と会話するし。
普段それほど親しくない同僚が訪ねて来て
やたら俺に気遣った言葉をかけていった。
そんなに優しくしなくていいよ、と俺は思う。
家族も、優しい。
でも普段と何か違う。
今までの様な、はしゃぐような明るさが無い。
それが俺のせいかと思うと哀しく思う。
何より哀しいのは
今は痛みも何もないし、この穴が原因かどうかもわからないのだが
俺が近日中に死ぬことがわかっていることだ。
俺自身はそれを受け入れているんだが
家族や同僚もどうやら気づいているらしいのだ。
それ故になんか口ごもるような優しさなのか・・・
と、気づいたらちょっと寂しいような気分になった。
どうしてこうなったのかはよくわからない。
こんな穴が空いているのに一応暮らしているなんて
すでにゾンビみたいなものだとも思い一人苦笑いしているが
普段通りに接して欲しいのに・・・と思っている。
ただ、俺自身が、喉の穴から色んなものが零れ落ちそうで
静かに、慎重に暮らしているのも確かなのだ。
静かな日々だ。
少々哀しい気分は消えないが、思えば不満足なことはそれほどない。
ただ、この穴さえなければな・・・と思っている。
と、いう夢を今朝見た(笑)。
朝起きて、まず喉をさすってしまった。
穴が無くてちょっと安心した。
子どものころからよく夢は見る方だ。
起きた直後は、みた内容をかなり覚えている。
一時期は起きてすぐにメモをしていたことがあるくらいだ。
大抵荒唐無稽だったり、シュールだったりで
後からメモを読むと笑ってしまったものだったが
たまにこうした何とも哀しい気分に彩られた
静謐な夢を見ることがある。
こうした静かな夢は、何故かずっと覚えていたりするのだ。
色彩とともに、今でも思い出す夢がいくつかある。
ブルーがかった色に、俺の喉に空いた赤い穴が印象的だった今日の夢も
しばらく忘れられない気がする。
朝の食卓はいつものように大騒ぎだった(笑)。
穴が空いているからではなく
今朝は寒かったので、マフラーをして俺は元気に出かけたのだった(笑)。