さらば鬼軍曹 | B級パラダイス

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昨日書きそびれたこと。

鬼軍曹急死!! の報には驚いた。
まだまだ元気なイメージのあった元プロレスラーで新日本プロレス顧問の山本小鉄さんが
28日低酸素脳症のため他界してしまった。68歳だったとのこと。

本当に「現場たたき上げ」を体現している方だった。
何度か星野勘太郎とのタッグを観た覚えはあるがやはり現役引退後のTV解説が印象深い。
古舘伊知郎のやり過ぎ名調子の横で「プロ」の目で毅然とした解説をしていた小鉄さん。
外人レスラーが無茶なことやりだしたり、乱入などでリングが荒れだすと
解説途中でも「ちょっと待ってください」と古館に言い置いて
さっさとインカム外して怒りの形相でリングに向かっていく姿がカッコ良かったなあ。

先日亡くなったラッシャー木村とアニマル浜口、寺西勇の「国際軍団」と
アントニオ猪木との1対3のハンディキャップマッチのレフリングも彼だった。
(猪木の噛ませ犬に甘んじたラッシャーの辛い立場はこの際ひとまず置いておいて)
国際軍団は一回でもフォール、KO、リングアウトをとれば勝ち、
逆に猪木は3人に個別に勝たねばならないという、後から思えば国際軍団を馬鹿にしたルールだったが
当時は「なんて卑怯なルールを押し付けてくるんだ!」だったのだ(笑)
で、三人が同時に襲い掛かれば、試合にならないのは一目瞭然。
隙あらば突っかかるヒールの国際軍団相手に、「リング内は1対1だ!」とばかりに
体を張って侵入を拒みながら、公平なレフリングしていたのが小鉄さんだった。
試合そのものより、リングを、試合を守る小鉄さんのレフリングが一番カッコ良かった記憶がある。

引退後もトレーニングを欠かさず、道場のコーチとして恐れられた小鉄さん。
レスラーにとって一番大切なのはタフな肉体である。
肉体を見せ、肉体を使って観客を魅了するのがプロレスだ。
その土台が無くてはお話しにならない。だから鍛える。とことん肉体を酷使して体を創るのだ。
その単純かつ基本的なことを、新日のみならず請われれば女子プロレスにも伝授していた方だ。

そんな彼をモデルにしているのが、夢枕獏の格闘小説「餓狼伝」の中の登場人物「川辺」だ。
東洋プロレスの元選手であり鬼コーチ。
主人公丹波文七が道場破りに来た時に、道場で前座レスラー梶原と文七との試合を取りもつ。
素人の道場破りにプロレスラーが負けてはいけない。
更にレスラーの凄みを見せつけなければならない。
負けた丹波の腕を折れなかった梶原に「なんで折っちまわなかったんだ!」とぶん殴るコーチだった。
・・・なんて本当に小鉄さんだったらやりかねないと思いません?

その後小説内でも、川辺は現役を引退し外国人レスラー担当としてオフィス勤務になり、
時にレフェリーや試合の解説者にもやってる・・・なんてもうそのまんま。
梶原へのリベンジに燃える文七を止めようとして、逆に彼に指を折られるが
指を折られても尚、そんなにまでして戦いたいという文七に親しみを覚えるなんて「大人の男」。
川辺の男気が最高に光るシーンがある。
道場で血の小便が出るまで体をいじめ抜き、決して素人に真似できない「本物の技」を覚え
来る日も来る日も汗まみれで絡みつく蛇のように延々と関節を取り合い、強さを追及する男たち。
しかしTVで、興行で披露されるのは、習い覚えた技ではない。
本当に「強い男」がトップになれない「プロレス」の世界のジレンマ。
そんな中で、ガチンコの勝負をしてしまうレスラー、梶原と長田。
その試合に観客は戸惑い、やがて静かな熱狂を生み出していく。
「さあ、ここからだ!」という時に、試合は関係ない外人の乱入という結末で止められてしまう。
「どうして最後まで思いっきりやらせてくれなかったんだ!」と泣きながら訴える長田。
若い彼らの気持ちが痛いほど解りながら、試合を止めざるを得なかった川辺。
泣きながら殴りかかる長田のその拳を全て受けながら、小鉄いや、川辺もまた泣いているのだった・・・。
脇役が魅力的な「餓狼伝」の中でも最高に胸を打つ大好きなシーン。
本当に川辺=小鉄のイメージそのまんま。きっと似たような事が何度もあったんだろうと思う。
そう納得できるくらい実際の小鉄さんの器は大きく、人間味が溢れていたのだ。

プロレスの表も裏も知り尽くし、そしてそれでも尚プロレスを愛し続けた男。
本当に惜しい方を亡くしてしまった・・・。

鬼軍曹山本小鉄に、最後の、最敬礼!(涙)