殺人の追憶 | B級パラダイス

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殺人の追憶 (2003) MEMORIES OF MURDER

監督:ポン・ジュノ プロデューサー:チャ・スンジェ,ノ・ジョンユン
脚本:ポン・ジュノ、シム・ソンボ 撮影:キム・ヒョング 音楽:岩代太郎
出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、キム・レハ、 ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク、チョン・ミソン、イ・ジェウン

80年代後半から6年間で10人の犠牲者を出した韓国の「華城連続殺人事件」を題材にしている
「戯曲」の映画化作品だそうだ。連続婦女暴行殺人という題材ではあるが映画はあくまでフィクション。
現実の事件とは状況や人物背景にもアレンジが施されているようだ。
しかし、それでも尚、凄まじいまでの緊迫感、そしてやるせなさが全編を支配している。
最近の日本映画では味わえない雰囲気のある一本だ。以下ネタバレあり。ご注意を

空前の捜査態勢にもかかわらず迷宮入りしてしまったソウル南部の農村での未解決連続殺人事件。
牧歌的ともいえるバッタを捕まえる子供の描写。それを追い散らす地元刑事パク(ソン・ガンホ)。
子供のいるすぐ足元で、手足を縛られた若い女性の無惨な死体が発見される冒頭から引きこまれる。

事件現場に子供は走り回っているわ、現場保存は疎かだわ、マスコミは平気で死体を写すわで
当時の韓国って実際こうだったのか・・・と見ているこっちが肝を冷やす。

描かれている舞台=ソウル郊外は、80年代後半のはずが日本でいえばまるで昭和30年代の雰囲気。
4半世紀前は一昔であるが、それにしても時代錯誤的なのだ。田舎くさいのだ。
加えて偏見や差別が大らかと言うより不快なまでに前面に出てくる描写。

今から考えるとピンとこないが1980年代後半って、韓国はまだ軍事政権下だったんだよなあ。
ただ逆に比較的治安は良かったそうで、それ故にこの事件の特異性が際立っていたのだろう。

パク刑事と相棒の必死の捜査(とは言え違法捜査にヒヤヒヤする)を余所に、
一向に有力な手掛かりが掴めず、次々と犯行は重ねられ、捜査陣は苛立ちを募らせていく。
観ているこっちにもちっとも犯人が分からないミステリー仕立て。
横暴な捜査に、犯人に仕立て上げられる知的障害者の存在。観ているこちらのジリジリ感も増していく。

やがてソウル市警から派遣されたソ・テユン刑事(キム・サンギョン)が捜査に加わるが
直感と足での捜査に加え、犯人でっち上げも厭わないパクと、
綿密な証拠固め&頭脳主義のソの2人はことあるごとに衝突する。
緊迫感溢れるストーリーに挟み込まれる、いきなり炸裂する暴力と乾いたユーモア(飛び蹴り!)。
まるで北野たけしの映画のような雰囲気を織り込みつつ、ストーリーはグイグイ進む。

捜査は行き詰まり、悲惨な犠牲者だけが増えていく中、
少ない糸を手繰ってようやく有力な容疑者に行き当たるが・・・肝心の証拠がない。
暴力による自白強要もマスコミの目もあり、できなくなっている中、
猟奇殺人への激しい怒りと、思うように進まない捜査への苛立ちだけが増していく。
今こそ追いつめるチャンス!って時にも機動隊の要請を断られるなど、閉塞感だけが増していく。
(当時の韓国警察は反政府勢力の抑止などの公安業務を重視(映画の中でもチラリ描かれる)、
本来の刑事事件捜査などの任務を軽視していたらしい・・・というのも凄い話だ・・・)

対立しながらも苛立ちと怒りと無力感が、二人にある種の連帯を呼んでいくのがやるせない。
犯人に・・・というより「事件」そのものに翻弄される刑事たちの方が
心理的に袋小路に追い詰められていく様がなんとも凄まじいのだ。

実は容疑者ではなく目撃者だったことが判明した矢先、その知的障害者を失い、
さらに窮地に立つ捜査陣。それでも容疑者をマークしながらアメリカからのDNA鑑定を待つ二人。
しかしちょっと目を離した隙に、また若い犠牲者を増やしてしまう虚無感と怒りの中、
・・・パクとソの立場が入れ替わってしまうようなクライマックス。
それは・・・ミステリーとしては何も解決しない(2010年現在も未解決だ)だけに
カタルシスを覚えることもできず、こちらも宙ぶらりんの居心地の悪さだけが残る幕切れ。
そして数年後の2003年。未解決であるという事実を受けてのラスト。
警察を辞したパクの、全てが始まったあの現場での、同じく子供との会話。
犯人がまだどこかで生きていることへの渦巻く感情が集約されたカメラ目線のパクの顔のアップ。

ソン・ガンホの面構えがいい。最近の顎の細い日本の俳優が束になってかかっても敵わん昭和顔だ。
癖のある俳優はいっぱいいるが、いい面をした「普通の演技」をする俳優、今いるのか?

たまらん1本だった。もっと早く観ておけばよかった。
「羊たちの沈黙」や「セブン」に対するアジアからの回答みたいじゃないか。
日本映画でこんなのないのか?俺が不勉強で知らないだけか?

監督のポン・ジュノの次作「グエムル」も変な怪獣映画で好きだったなあ。
食わず嫌いしないで力のある韓国映画、もう少し掘り返してみよう。
お勧めあったら教えてください(単純恋愛映画はいいです。観ないから(笑))。