実際に起こった惨事をヒントにして、貧困からの脱出目的の強盗殺人を犯し
惨事を利用してのし上がっていく悪党と、捜査に執念を見せる刑事、そして
何より作者が描く、思慮深くそして古風な女の存在が際立つ社会的批判も
込めた映画が、この「飢餓海峡」である。
http://jp.youtube.com/watch?v=ukcWWsa77jM
「飢餓海峡」 六十五年公開作
水上勉原作のこの物語は、今で言う格差社会の底辺からのし上がり、社会的地位を
獲得した悪党と、惨事を利用して犯罪の隠蔽を許さぬ刑事の執念の捜査と、男に翻
弄されながら一途な思いだけで生きる女の哀しい性を描いて秀逸な作品になっている。
もっとも、原作に忠実にストーリーを追うと、この女の情念の色濃さは演じている女優の
キャラクターもあってか、原作のイメージとは、いささか違っていた。
主演の悪党を三国連太郎が、そして連絡船の転覆惨事から身元不明の死体に不審を
抱き、犯人を追い詰めていく刑事に伴淳三郎、そして悲劇のヒロイン、というかこの物語
の鍵を握る女を演じているのが左幸子・・・。
非常に皮肉な結末を持つこの物語は、原作者にすれば女の流転と健気な日本の女の
美しさを描きたかったのではと思えるもので、その古風で「いつまでも待つわ」の心情が
男を最終的に追い詰めてしまった皮肉な結果に、やはり「因果応報」が滲む。
この青函連絡船転覆事故、「洞爺丸」の予期しない天候悪化から起こった惨事で、千名
近い犠牲者を出したもの。
特撮もなかなかで、犯罪隠避の場面などなかなか迫力があり、また刑事の追い詰める
執念には、あの「砂の器」の刑事に似た職業魂を感じる。
で、ここでも別人になるという犯人が登場しなのだが、砂の器でも戦後のどさくさにまぎれ
て全くの赤の他人の戸籍を乗っ取って、別人格を手に入れる・・・。
ここでもやはり同じように別人に成りすまし・・・。
作家はこれを妄想でこういうことがあったらというより、戦後のドサクサでは実際に行われ
ていた実際のことを小説に利用したとみる。
そこに戦後のどさくさの悲哀があり、善良な人々は餓えに苦しみ、そうでない人は闇市で
大儲けをとげ、あるいは全く違った人格を手にいれ、「成りすまし」が良心を抜きにして出来
てしまう混乱が、今の今になって相当に影響する出来事となってしまった。
土地の権利も同じように、不法行為が昨日のエントリーでもわかるように起こり・・・。
教科書に載らないこういった事実を、「伝えていく」のもある程度、必要なことではある。
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- Amazon.co.jp といったところで、またのお越しを・・・。