ミステリーの醍醐味は、大概犯人が誰で、それを自分なりに推理する楽しさも
あって、文章の先を予想しながら読みふける。
もっとも大層、面白い読み物でも、さてそれを映像化した場合、自分のイメージ
したものと合致する作品となると、これがなかなかないもので、この「証明シリーズ」
も、小説のイメージと映画のイメージが合致することない映画だった。
特に「人間の証明」は・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=Da6moRsXOhw
「人間の証明」 七十七年公開作
角川という本屋が映画に乗り出して、この映画が第二弾として製作されたように
思う。
大量のテレビ広告で、イメージを固定させまるで誘導するかのように映画館に
足を運ばせるという戦法は功を奏し、かなりヒットしたのではないのだろうか。
こちらは原作の小説を読んでいたから、映画化されるのにとても喜んだものだ。
公開されれば早速足を運び・・・。
主題歌をジョー・山中に歌わせ、それをバックにしたコマーシャルと、宣伝は良か
ったのだが、如何せん母親役が完全なミス・キャストで、あれでは西条八十のイ
メージはとても想像出来ない。
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かあさん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。
母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。
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西条八十詩集より引用
と、この小説自体も、西条八十の詩の良さが物語を引っ張って、読者にとって
は、捜査の展開により、霧積温泉にたどり着くまでがハイライトで、後はミスタリー
的な展開の妙と、詩のイメージから想像出来る「母親」のあり方が、映像化でぶち
壊しになってしまった。
だから「見なきゃ良かった」の感想が漏れたものだ。
ミスタリーに西条八十のアイデアは買いであるが、先に小説を読んでいると、やはり
自分で出来上がる印象と違ってしまうと、流石にいけない。
もっともジョー・山中の歌はいい。収穫はこれだけかも・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=ehBBrZUx6Yk
「野生の証明」主題歌 戦士の休息 町田義人
「人間の証明」の翌年に公開されたこちらは、自衛隊特殊部隊の一人が巻き起こす
地方の権力者との対立構図が軸になる弱いものと強欲な権力者の醜悪な面を描い
て社会正義をたった一人で立ち回る味沢の格好よさを高倉健に演じさせ・・・。
こちらもやはり、小説を読んでいて・・・。
ラスト・シーンに笑いが起こってしまった。
ただ東北の田舎の村が何者かによって惨殺される辺りからの流れはいいし、自衛隊の
動きもそれなりに見ていて・・・。
このラストを派手にしようというのは、勿論角川の思惑だろうが、完全にコケてしまって
映画館に笑いが起こった・・・。
まぁ、原作者も「見えない敵」がお好きで、この後には「悪魔の飽食」なるトンデモ本を出
版して、旧日本軍の中国においての残虐な行為を喧伝していたが、それらに使われた写
真がすべて捏造となれば、「一体全体どしてなの?」という一読者としては、あきれ返って
しまった。それ以後、この原作者の小説は読んでいない。
それが極最近テレビに映し出された時も、あのイタリアだかの絵画のパクリ画家の擁護を
しているという、これまたトンデモさんとなってしまって、少し小説が売れたからと浮れてし
まうと公募にせっせと応募していたホテルマン時代は忘れている・・・。
作家は作家で、自分の想像・妄想の素晴らしさを競うという創作の楽しみが、過去の捏造に
心動かされていては、もう駄目ね・・・。と、書棚にある原作者の小説群は埃を被っている。
http://www.youtube.com/watch?v=c5FfqKfR9IY&feature=related
「青春の証明」 七十八年テレビ放映作
古老の刑事の、青春時代の自戒と汚名に対する執念が捜査を丹念に行わせる
原動力となって・・・。
緒方拳が主人公を演じているが、この小説もその過去に固執しすぎで、さてそんな
人間は、商売として過去を晒し禄を食む自称被害者という者達だけで、ぴんと来ない
し、作者のこだわりが変な方向に向いていて、小説自体の展開はは面白いのだが、
如何せん出だしの青年が、そこまで贖罪を背負って執念をもっていたら、警官になる
より政治家になって、自分の考える社会正義の実現を目指した方が・・・。
まぁ、作者としては刑事者に入れ込んでいるから、ドラマとしてそんな疑問を抱かず
見ている分には、主人公の演技力で見ていられる・・・。
小説を書く、だが最初からプロはいないで、プロになって行く・・・。
西村京太郎みたいに、あるいは赤川次郎みたいに、小説家なのだ。
を、肝に銘じて面白い作品を創作している分には、良かったものを・・・。
- 人間の証明
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- Amazon.co.jp といったところで、またのお越しを・・・。