瀕死の重症から昏睡を経て、五年後に目覚めた男が身につける「能力」によって、
折角目覚めたのにも拘わらず、平凡という安寧と違った生活に悩みながらも、予知出来る
将来に、一人立ち上がり、民衆の知らぬ間に自己のことでなく皆の将来の危惧を取り除こうと
奮闘するホラーの名を借りた究極の自己犠牲を描いて見せたのが、このスティーブン・キング
原作の「デッド・ゾーン」である。
http://jp.youtube.com/watch?v=eo7hL1M8Qqw
「デッド・ゾーン」 八十三年公開作
監督はデビット・クローネンバーグ、主演はクリフトファ・ウォーケンで、テンポ良く進行し、
徐々に最大の危険と主人公の結論の素晴らしさが、たった一人だけに痛々しいものであ
るが、突き進む資質はやはり教師という職業を抜きにしては語れない。
ここらはキングのホラーを描きながら、最低限の人間らしさをいつも滲ませる原作と相通
じて、原作をもっとも良く映像化したもであろう。
交通事故で死の淵から甦った男の、予知する能力によって、火事を、人身事故を、少女
惨殺の犯人をと、能力によって解決していくが、それに伴って男の異能は、自分の精神
を追い詰めていってしまう。
ここらの苦悩を、「ディアー・ハンター」の怪演技が真に迫っていたウォーケンが演じれば、
もろに臨場感もあり、何よりその神経質な顔立ちが、見ている人々に、その苦悩を理解さ
せる表現力を持っていた。
そしてこちらも少しばかり異質な性格を演じさせれば、光りを放つマーティン・シーンが
対する敵となれば、緊迫感が盛り上がる。
そして予知の阻止に突き進むウォーケンが、志を遂げられず垣間見た予知は、狂気に陥る
シーンの失脚と、すんでのところで人類が救われるという壮大な終止符になって、ウォーケン
は息を引き取ることになる、といった自身の余命と自己犠牲を計りにかけた行動として、キング
はホラーの小説に人間的苦悩と人類の将来というものに対した時の個人の行動指針を、さら
りと描いて見せた。
それを見事に映像化したクローネンバーグの力量も流石だ。
これを見たのは、暇を持て余し適当に借りたレンタル・ビデオだったと記憶しているが、見てい
るうちに、この展開の良さと個人の選択、そして能力を得た平凡な教師の引き裂かれるような
思いと、単にホラー映画の範疇から飛び出し、自己犠牲に対する時の男はこうあるべきといっ
たとても示唆に富んだものとなっているのに、驚いた。
キングの作品の映像化では「スタンド・バイ・ミー」が、一番記憶に残っているが、この「デッド・
ゾーン」も、それに劣らない優れた作品だ。
教師の設定は、この男の心情と共に、正義感が前面にでればと理想像、然るに「殺せない」
という非暴力と、キングの妄想には、理想的教師像がこういうものなのに、なんとなく微笑んで
しまう。
- クリストファー・ウォーケン/デッドゾーン デラックス版
- といったところで、またのお越しを・・・。
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