吉田拓郎という歌い手がいる。
思ったままを詩に書き、それを歌うシンガー・ソングライター
この類いまれな男の歌をモチーフにした映画が、三十六年
の時を経て、再びスクリーンから流れるというのは、なんとも
時代の流れの鮮やかな、そして愛しい過去になった思い出を
甦らせてくれる。
http://www.youtube.com/watch?v=5ROOowtIKSA&feature=related
「旅の重さ」 七十二年公開作
この少女が四国巡礼の旅をする物語は、日本的情緒に全くそぐわない
新しい考え方の女性の自立とはという難題を、風光明媚な田舎と対照させて
描いたロード・ムービーである。
主演の高橋洋子もいいのだが、やはりここでの主題は「今日まで明日からは」
の拓郎の唄がかぶるから、印象も強くなった。
で、この女性の悩みと自分の価値を見出す旅に、さまざまな人々がかかわり
生きる意味を学習していく道程は、一見目新しい価値観のように思うのだが、
過ぎてみれば、人間個々に年齢を重ねて振り向けば、そこに置き忘れた幼い
自分がいることに気付くものである。
ただ当時の風潮が、この映画には色濃く反映していて、反戦運動の高まりから
共産主義的生き方で、母親ないし母というものの存在否定が若者に広がった
時代である。
ここに何からの自立かと問えば、やはり中国での「文革」というまやかしの運動
の影響が見て取れる。あれは毛沢東の権力維持のための姑息なものであった
が、過ぎて検証されれば分かってくるのだが、その当時は文化の破壊という、な
んとも魅惑的語句に、酔っていた若者にとって「格好いい」行動としてこの少女を
捉えていた。勿論当時、見ていてこちらも当然、そう感じていた。
しかし映画でこの少女は行商の男と結婚し、満足げにラストを迎えるのだが、映
画はその後を映すことがない・・・。
この後を描くとなれば、「卒業」と「愛の狩人」となるのではないだろうか・・・。
人生の意義を見つけ出し、その後、生活に疲れ欺瞞の生き方をしたくないと一人に
なってしまう退廃へと突き進む。
と、映画の後を想像すると、良い映画も少しだけ違った見方も出来る・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=PbCxa-WYRSE&feature=related
「結婚しようよ」 八年公開作
団塊の世代の応援歌みたいになった吉田拓郎の唄をモチーフに、昭和三十
年代から面々と続く家族としての一家とは、という日本の普遍の家族像を描
いている作品で、正に頷ける作品である。
ただ自分の夢を諦めて、というプロットは分かるのだが、そこにノスタルジィー
的重きをおいてしまうと、平面的作品で広がりが今一になってしまう。
もっとも見ているこちらは、共感出来るしバックからは馴染みの曲がかかると
なると、全部が肯定出来るのだが・・・。
日本の普遍的家族のあり方、こういう映画が出来るということは、一方でこうで
なくなった日本の現状もあるってな、捻くれた感想も抱いてしまう・・・。
にしても三宅裕司の「結婚しようよ」は沁みるなぁ・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=B5LrN5IIHRY&feature=related
中の森バンド「風になりたい」
ノスタルジィーにどっぷり浸る。
浸かりぱっなしってのも、一時の癒しだ。
「今日までそして明日から」・・・。
監督の思い入れに付き合うのも、なかなかいいものだ・・・。