新東宝と言う映画会社があった。
東宝の労働争議をきっかけに、分裂して出来た会社であったが、
撮影スタッフと俳優達だけでは、良質な作品を作っていても配給
及び上映館の関係で、収益が見込めなくなってくる。
そこに登場するのが、大蔵貢である。
社長に就任するや「安く、早く、」の徹底したローコスト意識で、映
画を量産していく。
元々は弁士から上映館オーナーからの視点は、興行の才覚だけ
であり、扇情的題名とか、少しばかりハマー的、あるいはロジャー
コーマン、エド、ウッド、トロマ的要素が多分に入り込んだ作品群
になっていく。
http://www.youtube.com/watch?v=nkxOCW6OMc8
「女吸血鬼」五十九年公開
橘外男という作家の「地底の美肉」が原作であるが、それと題名が
全く結びつかない扇情的題名による煽りで客を呼ぶ方式。
あの縁日の呼び込みにも似たやり方は、この大蔵貢の得意とする
ところで、ロジャー・コーマン辺りと似通っている。
ここでの主役「天地茂」が吸血鬼となり女ばかりを襲う。
だから「吸血鬼に狙われた女」あるいは「吸血鬼、襲う」なんてタイトル
だと猟奇的でいいと思うが、「女」という語句に当時は「よろめき」とか
「いかがわしさ」を想起させてくれたものなのだろう。
http://www.youtube.com/watch?v=jHrUDz0acpk
「ピンクの超特急」六十一年公開
こちらもただの旅行記が、なんともな題名になっている。
題名だけだと、なんかお色気がふんだんな列車内を想像するが・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=PrTs_YEyhSQ
東海道四谷怪談パート一
http://www.youtube.com/watch?v=JLIPZm7-GwE
同 パート二
監督は中川信夫、主演 天地茂
この「四谷怪談」は幼い頃、誰かに連れられて見た
記憶がある。何しろ怖かった。
髪の毛が抜ける場面では、卒倒しそうであったし、あまどいに
括り付けられたお岩と按摩が釣り糸に引っかかり、浮き上がってくる
ところなど、夢に出てきそうだったし天井を向いて寝れず、といってうつ伏せに
寝ても下から「恨めしや・・・、伊江門殿」と聞こえてきそう・・・。
で、改めてみても日本の湿っ気のある映像が、ホラーにない怖さを漂わせ、
「怨念」を画面から訴えているかのようで、また天地の演技がどうしても、いか
がわしい感じで、よりお岩の「怨念・情念」が際立つから、「裏切る」と怖いとなる。
にしても、今にしてみると、画面全体からチープな雰囲気や、作り物のいかがわ
しさが見えてくるのは、年月の長さが「懐かしさ」を包み込むからか・・・。
新東宝という会社は、今でも存続してピンク映画を製作しているが、当時の経営
とは違っていて、ピンク専門である。
六年間で五百本近く公開されたらしく、こちらも全く知らない作品は多かったが、
年代を追うごとに文芸から戦争もの、そして怪談、もろにエロ・グロという題名へと
少しづつ換わっていくのが分かる。
新東宝が敢無く倒産すると大蔵映画として再出発するのだが、ここらではもうピンク
映画専門ってな具合で、一般映画からは忘れられた名前になっていく。
外国映画を買い付けて公開もしているのだが、大蔵貢の発想は何より扇情的題名
と映画の内容が、全く合わなくてもへっちゃらってなところがあり、それを長年続ける
のは無理があるってもんだ・・・。
たとえば魔術師が対面で技を競うだけのストーリーが「忍者と悪女」、原爆後の
世界をシリアスに描いた作品が「性本能と原爆戦」である。
邦題だけで見ていた客は、妄想とのギャップに苦しむってな・・・。
忍者と悪女はロジャー・・コーマンの四日間での映画、それをまた大蔵貢が、大層な
邦題に・・・。
しかし製作費を低く抑えて捻出する経営は、それなりに映画技術を向上させる。
一番の特徴に「パート・カラー」という奇手があった。
フィルムの値段から、モノクロ・カラーを一本の映画の中で使い分けるのだが、過去と
現在を回想するストーリーの時には、これが相当な効果を上げていた。
もっともピンク映画で、これをやると微笑みたくなる・・・。
一度だけこの種の映画を見たことがある。学校をサボり制服のまま映画を見ていたの
だが、当時三本立てなんてのがあって、勿論学生服のまま、って補導員に問われれば
大学生って言えば大概お目こぼしがあった、まぁ平和な時代だったもんだ・・・。
でモノクロのやり取りが飽きて寝入って、目を開けたらカラー映像になっていて、あれっ
違う映画になったのかと思ったら、出演者は同じでとても色っぽい場面になっていただけ
ってのが、それが過ぎると再びモノクロに変わるって、はぁっ?てなるものだが、それの繰り
返しになると、笑いがでてきた。
もっとも魅力は感じないで、リピーターにはならなかったが、酒の席での思い出話しには
もってこいだった・・・。
てなところで、またのお越しを・・・。