民話(人物) 三人兄弟と泥棒
むかし、根子のがけ山に一軒の炭焼があって、息子三人で一しょに炭を焼いているから、大そう金持であった。ところである日のこと、一番末の弟がつくづく考えた。
「こんな山奥で、金ばかりあったってつまらねぇ、山を下りて念仏習ってくるべぇ」と炭一俵を背負って行った。
買ってきたお経はかなで書かれたやさしいもので、
「たどりたどりてくるわいな、なむあみだぶつ」と三回くり返すのである。末の弟は毎日ひまさえあればお経をとなえて喜びにひたっていた。
それを聞いた中の弟は、おれは炭二俵分のお経を買ってくる。町へ下りて求めてきたのは、
「あしをとどめてきくわいな、なむあみだぶつ」とやはり三回繰り返しとなえるものであった。
さて上の兄はなかなか気性の激しい負けずきらいで、だまって町へ下ると炭三俵分のお経を買ってきたものだ。それはまた兄の気性にあったような、
「てっぽう、はやなわ、ぶってただげ、なむあみだぶつ」というものすごい文句で、あった。
さて、この三人兄弟は暇さえあれば自分自分のお経を楽しんでいた。
根っ子の炭焼は金持だということがきこえていて、泥棒のよいかもとねらわれていた。ある晩、根っ子に入りこんだ泥棒は、炭焼の家をさがし求めて前に立つと、
「たどりたどりてくるわいな、なむあみだぶつ」泥棒は、まさか、おれの来るのを知ってるはずがないと、ようすをさぐりに、きき耳を立てていると、
「あしをとどめてきくわいな、なむあみだぶつ」
泥棒は全くたまげてしまって立ちすくんだが、すごすご帰るのも泥棒の名がすたると、今度は最後の切り札、おどして金を巻き揚げようと、戸口に手をかけるや、
「てっぽう、はやなわ、ぶってただげ、なむあみだぶつ。」
それも荒々しい声でどなりつけられた泥棒は、これはただの家ではない、きっと山の神さまか鬼の住み家にちがいない。まごまごしていると命にかかるとばかりに山道をころげころげ逃げだしたとさ。どっとはらい。
【私なりの解説】
阿仁町伝承民話第一集にある根子地区に伝わる民話です。三人兄弟にテキトーなお経を教えて炭六俵を手に入れた者(坊さん?)が、泥棒よりも悪人のような気がします。

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