【映画評】吸血鬼ノスフェラトゥ | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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ブレーメンの不動産業屋で働く青年フッターは、上司の命令でトランシルバニアのオルロック伯爵の城を訪れる。しかし、実はオルロック伯爵は恐ろしい吸血鬼だった。正体を知られたオルロック伯爵はフッターを城に幽閉し、棺と共に船に乗り込んでブレーメンへと向かう(映画.comより引用)。1922年製作のドイツ映画で、日本劇場未公開作品。監督はF・W・ムルナウで、出演はマックス・シュレック、アレクサンダー・グラナック、グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム、グレタ・シュレーダー。
 
吸血鬼物の元祖とされる白黒サイレントのホラー映画です。原作はブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』です。しかし、製作会社が映画化権を得られなかったので、タイトルと登場人物の名前を変え、設定やストーリーを少し変えることによって、映画化しました。現在だったら、盗作騒ぎでネットが荒れる荒技です。当然ストーカーの未亡人に訴えられ、フィルムのネガとプリントを差押えられる結果になりました。
 
吸血鬼であるオルロック伯爵(マックス・シュレック)は、スキンヘッドで牙を生やし、長い爪を持つという特異な外見です。後にベラ・ルゴシやクリストファー・リーが演じたドラキュラ伯爵とは、かなり印象が異なります。ドラキュラが蝙蝠を連想させるのに対し、オルロックは鼠を連想させます。劇中でもオルロックが眠る棺から、鼠の群れが出てくるシーンがあり、鼠はオルロックの使い魔だと分かります。伝染病であるペストを媒介する鼠は、当時のヨーロッパで忌み嫌われ、吸血鬼の使い魔に相応しい存在であったようです。
 
この「伝染(または感染)」は吸血鬼物の大事な要素であり、「吸血鬼に咬まれると吸血鬼の仲間になる」という設定が定番化します。現在では、ゾンビ物において「ゾンビに咬まれるとゾンビになる」という設定が定着しており、「伝染(または感染)」という要素は継承されています。「伝染(または感染)」により自己の人格が変わることに対する恐怖心は、時代を超えたものなのです(伝染(または感染)するのは病原菌やウィルスに限らず、思想やイデオロギーにも置き換えられます)。
 
F・W・ムルナウ監督は、オルロックが人を襲うシーンにおいて、彼の不気味な黒い影を人に被せるという恐怖演出を行っています。黒沢清が『スウィートホーム』で同じ演出をしているのは、ムルナウ演出の流れを汲んでいるとも受け取れます。近年ではVFX技術の進歩により、何でも映像化できることから、直接的なショッキング描写をするホラー映画が多くなりました。しかし、そんなことをしなくても、いわゆる「影絵」というアナログな方法によって恐怖を演出することができます。他にも白と黒のコントラストを活かした演出を見ることができる本作は、映画が「光と影の芸術」であることを再認識させてくれるのです。
 
★★★☆☆(2019年1月5日(土)インターネット配信動画で鑑賞)
 
半世紀も経ってから、『ノスフェラトゥ』としてリメイクされています。
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