【映画評】野獣死すべし(村川透監督版) | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

イメージ 1
 
戦地を渡り歩いた通信社の元カメラマンが、翻訳の仕事に身を隠しながら、一匹の野獣となって、管理社会の安穏とした生活に犯罪で挑む姿を描く(映画.comより引用)。1980年公開作品。監督は村川透で、出演は松田優作、小林麻美、室田日出男、根岸季衣、風間杜夫、岩城滉一、泉谷しげる、前野曜子、佐藤慶、青木義朗、鹿賀丈史。
 
大藪春彦の小説が原作の角川映画。ストーリーと主人公である伊達邦彦(松田優作)のキャラクターが、原作と大きく異なるそうです。今だったら、「原作レイプ」だとネットで荒れそうです。
 
特に松田は体重を極端に減量し、頬のラインを変えるため奥歯を抜くという過剰な役作りをして、撮影に臨んでいます。同じ大藪原作の『蘇える金狼』の主演を経験している松田は、大藪作品のテイストを理解しているはずです。それなのに、それに逆らうような役作りをしたのは、似たような役を拒否するマンネリ打破と、役者としてステップアップしたいという欲望があったからでしょうか。
 
松田以外の出演者は、鹿賀丈史、室田日出男、岩城滉一、阿藤海、安岡力也、泉谷しげる、佐藤慶と危険な香りが濃厚な顔ぶれです。ヒロイン役の小林麻美は、現在“芸能界のドン”田邊昭知の奥さんなので、今では違った意味で危険な香りがします。
 
これらの強烈な共演者に囲まれながら、松田は尋常ではない狂気の演技を見せます。初めからずっと無表情で無口な静の演技を通し、終盤でハイテンションで暴力的な動の演技に転じます。自分を追ってきた刑事(室田日出男)を前にして、静から動へと変わる時、松田の目は(陳腐な表現ですが)ヤバくてイッちゃっています。
 
元戦場カメラマンである伊達の狂気は、戦場での悲惨な体験に基づくPTSDが原因でしょうか。それに加え、伊達がロシアンルーレットをするシーンがあるので、本作にディア・ハンター』の影響があるのは否定できません。村川透監督&松田主演の『殺人遊戯』にも、精神を病むベトナム帰還兵が主人公の『タクシードライバー』の影響があるからです。ちなみに『ディア・ハンター』と『タクシードライバー』で主演を務めたロバート・デ・ニーロも、後に過剰な役作りで有名になるという不思議な繋がりがあります。
 
伊達の狂気が爆発する終盤の展開は、突拍子もなく難解です。もし伊達の妄想であるという夢オチならば、どこからが妄想(=夢)なのかという話になります。終盤前にも伊達が感情を表に出すシーンがあり、そこだけ演出がワンカット長回しの舞台調になるので、そこは妄想であろうと解釈できますが、確たる自信はありません。
 
このようなオチを放り投げて、謎だらけで終わらせる方法に、当時の観客はかなり困惑したでしょう。しかし、テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』最終回の難解さを経験した世代には、それほど驚きはないはずです。本作の結末が、そうしたオチのつけ方の先駆けではないかとも思うのです。
 
★★★★☆(2017年12月5日(火)DVD鑑賞)
 
松田優作の醒めた目は松田龍平に似ています(当たり前)。
イベントバナー

 

にほんブログ村 映画評論・レビューに参加しています(よろしければクリックを!)