
大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇(映画.comより引用)。2016年日本公開作品。監督はクエンティン・タランティーノで、出演はサミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン。
西部劇と言っても、冒頭で映るのは広大な雪原です。70mmフィルムで撮影されている本作は、最近観ている映画より画面の大きさに目を奪われます。密室ミステリーなので、ほとんど屋内シーンだらけの映画ですが、大画面を有効に使って奥行を出しています。クエンティン・タランティーノ作品ゆえにグロ描写もあり、その時は大画面に血飛沫が飛びます。
音楽はマカロニ・ウエスタンの巨匠、エンニオ・モリコーネです。外が吹雪の閉鎖的空間で疑心暗鬼に陥る設定に、カート・ラッセルが出演し、モリコーネの音楽だと『遊星からの物体X』みたいですね。
題名どおり、「憎き8人」が主要キャストです(他にもいますが、ネタバレになるので言えません)。その8人は、それぞれクセが強いキャラクターで、嘘をつき、騙し合い、血みどろの殺し合いを始めます。『キル・ビル』のタランティーノ監督なので、グロ描写もたっぷりあります。頭を木っ端微塵に吹き飛ばし、血ゲロをドバドバ吐き、腕をブッタ切り、金玉をグチャッと撃ち抜きます。
3時間近い長尺の会話劇ですが、弛れることはなく、先に張られた伏線が後で回収されるので、ちょっとした台詞も聞き逃せません。ミステリーですが、名探偵コナンや金田一少年が扱うような凝ったトリックはなく、後半で謎が解けていく展開は『レザボア・ドッグス』に似ています。
『ジャンゴ 繋がれざる者』と同じく、黒人差別を絡めた西部劇です。「ニガー」という言葉が、これでもかと飛び交います。タランティーノは黒人差別に反対する立場でありながら、本作を虐げられた黒人が憎き白人に復讐するという勧善懲悪的な物語にしませんでした。サミュエル・L・ジャクソン演じるマーキスは善人ではなく、捕虜にした白人に性的虐待を行うクズ野郎です。8人は憎しみの果てに破滅していきます。それは、ヘイト(憎しみ)の感情が人類から無くならない未解決問題であることを示しているかのようです。マーキスの持っている「手紙」に微かな希望を見出すことはできますけど。
そして、アメリカ国民のヘイトな感情を煽ることによって、ドナルド・トランプが大統領になった今となっては、本作が来る時代の空気を予見していたかのような気にもなるのです。
★★★★★(2017年2月11日(土)インターネット配信動画で鑑賞)
本作の美術監督は日本人の種田陽平です。西部劇なのに。