2曲目:大河の一滴(歌詞は“桑田佳祐ニューシングル「ヨシ子さん」スペシャルサイト”で)
歌詞を読めば、渋谷を舞台にした曲であることが分かります。「渋谷」、「山手線」、「ラケル」、「宮益坂」、「御嶽神社」という言葉が入っていますから。歌詞に実在する地名を入れるという手法は、歌われる世界にリアリティを持たせる効果があり、サザンオールスターズのデビュー曲『勝手にシンドバット』でも「茅ヶ崎」や「江ノ島」を歌詞に用いています。これは桑田独自の手法ではなく、演歌や歌謡曲では頻繁に使われる手法です。地名が入った「○○ブルース」という曲は、昔から山ほどあります。
歌詞の主人公は、渋谷の街で昔付き合っていた女のことを思い出しているという設定です。しかし、そのうち「子供らはどんな未来を描くの?」や「大河の一滴になりました」という、スケールの大きなことに思いを馳せるまでに至ります。本作の仮タイトルが「いささか自意識過剰気味な男」(livedoorニュース(Techinsight)から引用)というのに納得できます。
主人公の中では、恋愛も未来も歴史も等価に扱われています。個人にとっては、いずれも重要なことで、こうした考え方は、世界がどうなっても愛(“I love you”)が大事というロックやフォークの思想と同種のものです。本作の歌詞中の「Dylan」ことボブ・ディランも、人生を歌うことも政治を歌うことも等価だと考えているから、政治を特別扱いしないプロテスト・ソングを作ることができたと思います。
近頃は「音楽に政治を持ち込むな」という意見もあります。しかし、音楽が個人(自己)と世界(他者)の関係を何らかの形で表現するものである以上、世界の一部を構成する政治を排除することは、音楽の可能性を狭める結果になります。音楽は自由であってよく、“大河の一滴”である人間の思いも自由であっていいと思うのです。
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