3曲目:愛のプレリュード(歌詞は“桑田佳祐ニューシングル「ヨシ子さん」スペシャルサイト”で)
ハワイをイメージしたという楽曲です。歌詞を追って、何を歌っているか勝手に想像してみましょう。
“君と並んで 星空を見上げても 抱きしめようとは思わない”
“顔を合わせりゃ 冗談とギャグばかり 友達・・・それ以上何もない”
“凄いヤバい喧嘩もやったね 生意気なオンナだよ”
長い付き合いだけど、恋人ではなく友達の関係にある男女だと思われます。
“I don't like you But I love you 君が涙見せた時 どうして? ときめくような恋心”
“愛のプレリュード 高鳴る 気づかないままに生きてきた でも変わらぬままの素振り”
「好きじゃないけど、愛してる」というのは、前述のように長い付き合いで嫌な部分も知っている間柄なのに、愛に気づいてしまったということでしょう。それにも関わらず、従来の関係を変えないのは何故か?
“二人並んで 大人になれたらいいな 晴れの日もありゃ雨もある”
“遠い場所へ 君が去くと聞いたのは 人影…消えた夏の終わりさ”
“サヨナラする日が来たら もう一度 喧嘩しよう”
「二人並んで大人になる」というのは、結婚のことでしょう。「晴れの日もあれば雨の日もある」は「病める時も健やかなる時も」という文句と同じ意味合いです。ところが、女の方が何処か遠くへ行ってしまうようです。これを文字どおり受け取るか、あるいは手の届かない場所へ行くこと(他の男と結婚すること、又は不治の病で死期が迫っていること)まで含めるかで、本作の意味が変わってきます。
“I don't want you But I need you 一番大事な人だった そうさ 男と女だもの”
“恋のエチュード 叶わぬ 誰にも言えない恋なんだ そしていつも通りの二人”
「欲しくないけど、必要だ」とは、自分のものにしたいとかではなく、かけがえのない必要不可欠な存在にまでレベルが上がっているということでしょう。それにも関わらず、従来の関係を変えないのは、女の方に訳があるからです。
“あの日 君が泣いたのは 誰か好きな人 他にいるからさ”
男が愛に気づいたのは、女の涙を見た時です。女が男から去る理由を、他の男と結婚するからだとすれば、この歌詞を文字どおりに受け取れます。しかし、そうでなければ、男が自分を納得させるための強がりのようにも受け取ることができます。そもそも女にも男への思いが無ければ、涙を流さないはずです。
“I don't like you But I love you 君が涙見せた時 どうして? ときめくような恋心”
“愛のプレリュード そして萌ゆ 恋人未満の僕でいい 嗚呼 二人の絆は永遠に”
男は女と恋人になることを諦めます。しかし、女への思いは、ずっと心に秘めたまま生きていくということです(女が去る理由を死別だとすれば、歌詞の意味が深みを増します)。
“Just You&Me Love me please”
「貴方と私だけ。どうか愛して」は、諦めたはずの男の本音でしょう。
“MAHALO NUI LOA[どうも、ありがとう]”
ハワイをイメージした曲なので、ハワイの言葉で締めます。
このように歌詞の背景を勝手に想像してみたら、あるドラマのイメージが浮かんできました。かつてフジテレビで放送されていた、片岡鶴太郎主演の『季節はずれの海岸物語』です。鶴太郎演じる喫茶店のマスター、高村圭介が毎回違う相手に恋しますが、結局成就せずに終わるというドラマです。主題歌は松任谷由実の『DISTINY』で、サザンオールスターズの曲も挿入歌として用いられていました。
同ドラマは、圭介の恋の相手として毎回違うマドンナが出演することから、「現代版寅さん」とも呼ばれていました。(高村)圭介が「現代版寅さん」なら、(桑田)佳祐は「音楽寅さん」です。本作『愛のプレリュード』は、実に「寅さん」=『男はつらいよ』的な味わいがあります(『男はつらいよ 寅次郎ハワイへ行く』という映画はありませんけど)。
桑田(サザン)は「ひと夏の片思い」を歌った曲を作り続けてきましたが、歳を重ねることで、その歌詞に人生の深みを感じさせるようになってきたと思います。