何かとバッシングされる公務員の労働実態について考えてみます。SYNODOS「増加する『非正規公務員』とはなにか?」を参考にしました(以下、引用部分は同記事からです)。
民間労働において正規と非正規の格差問題が取り上げられます。この問題は、公務労働においても同じです。「2012年の総務省の統計で比較すると、最も身近な自治体である市区町村の正規公務員は約92万人、これに対し非正規公務員の人数は約40万人です。ここには任期6月未満や週勤務時間20時間未満の非正規公務員は含まれていませんから、実際はもっと多い。だから3人に1人」とあります。そして、その3分の1の非正規公務員は「おおむね任期1年の有期雇用です。長年勤務していても、無期雇用に転換することはなく、年度末には決まって雇止めの危機にさらされています」。公務員だからと言って、十把一絡げに安定した職業だと批判するのは、随分と雑で乱暴な意見です。
非正規公務員が多く採用されている職種については、「公立保育園の保育士の52%は非正規の保育士」、ハローワークの「常勤職員11,140人に対し非常勤の相談員が16,737人」、「学童指導員の92.8%、消費生活相談員の86.3%、図書館司書の67.8%が非正規公務員」となっています。住民が接する機会の多い現場仕事において、非正規公務員の占める割合が大きいと言えます。
それでは、これら非正規公務員がどれほどの待遇を受けているのでしょうか。「一般行政職の正規公務員の平均年収総額は624万3437円です。これに対し、事務職の非正規公務員の年収は、市区町村の臨時職員が159万6218円で4分の1に過ぎません。市区町村の臨時職員の平均週勤務時間は36時間30分、常勤の正規公務員は38時間45分。その差は、週2時間15分、1日27分だけです。それでいてこの賃金格差です」。非正規公務員の年収を月収に換算すると、約13万円です。どこかのボンボン総理が例え話で「パートで月収25万円」などと発言していました。例え話には、データに基づく厳密さは不要ですが、説得力あるディテールは必要です。
しかも非正規公務員の大半は女性です。「男性が多数を占める一般行政職の正規公務員と女性が大半を占める非正規公務員の賃金格差に着目」し、「時間給で比較すると、男性正規公務員100に対し、臨時職員34、非常勤職員49」となります。「男性正規公務員の2分の1から3分の1という、これほどまでの賃金格差は、雇用形態の差異を装った『間接差別』なのです」。政府が推進する「女性が輝く社会づくり」は、まず公務から率先して実践すべきでしょう。
ここまで非正規公務員が増加した原因は、「人が足りないのに、仕事が増えたからです」。「保育園の待機児童は増え、学童保育の需要も高まっていますし、高齢化に伴い生活保護受給世帯は増加している。児童虐待やDV被害が増え、オレオレ詐欺などの消費者被害も拡大している行政とりわけ地方自治体は、これらに対処しなければなりません」。しかし、「『小さな政府』の志向性が高まる中で、正規公務員は増やせない。だから、公務員の定数にカウントされない非正規公務員を増やし、これに代替させ、増大する仕事に対処してきたのです」。そして「官から民へ」の風潮の下、「残りの業務は、民間事業者に業務委託をしてきたのです」。
その結果、ワーキングプア層が拡大し、自治体の税収減が加速し、福祉行政サービスの仕事量も増加するという悪循環に陥っています。政府やマスコミが絶対善のごとく流布する、「小さな政府」志向や「官から民へ」の風潮に対し、懐疑を抱かざるを得ません。
たまに役所の窓口で職員に長々と苦情を訴える暇人を見かけます。行政クレイマーとも呼ばれます。「公務員は優遇されている」とか「税金の無駄遣いだ」とかネチネチと責め立てるそうです。この公務員バッシング丸乗りの罵詈雑言を聞かされているのが、正規公務員とは限りません。一般事務における非正規公務員の割合は18.9%で、非正規公務員に任される仕事は、簡単な書類整理や、マニュアル化された窓口業務であることが多いと聞きます。すなわち窓口で延々と苦情を受けているのが非正規公務員である可能性が高いのです。これまで述べてきたように、非正規公務員であれば、決して優遇されているとは言えません。的外れな批判を吐き散らかして、行政クレイマーは自己満足にどっぷり浸れるでしょう。しかし、その苦情処理に用いた時間が税金の無駄遣いであると理解できない、迷惑極まりない存在でしかありません。窓口の非正規公務員を虐めて、何が変わるというのですか。
非正規公務員は住民を抑圧する加害者ではなく、政府やマスコミが旗を振る「小さな政府」志向や「官から民へ」の風潮が育て、経済的に厳しい生活を強いられている被害者です。公務員とりわけ地方公務員は、国が自分勝手に作ったルールに従い、本来国がやるべき仕事を押し付けられた「道具」に過ぎません。国民のガス抜き機能でしかない、安易な公務員バッシングの洗脳を解き、本当の敵に牙を剥かなければ、現状を変えることはできないでしょう。
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