
矢場に居候しながら用心棒を務める丹下左膳と女将のお藤は、店で刺殺された男の息子・ちょび安を引き取ることに。ちょび安はとある壷を金魚鉢として大事に持ち歩いていたが、実はこの壷には百万両の隠し場所が塗り込められていた(映画.comより引用)。1935年公開作品。監督は山中貞雄で、出演は大河内傳次郎、喜代三、宗春太郎、沢村国太郎、深水藤子。
隻眼隻腕という、『片腕ドラゴン』のジミー・ウォングより重いハンディキャップを負った凄腕用心棒、丹下左膳役を演じるのは、大河内傳次郎です。時代劇マニアである林家木久扇の物真似で聞いたことがあります。「シェー(姓)は丹下、名はシャゼン(左膳)」というやつです。
百万両の在り処を秘めた壷を探す、頼りない柳生源三郎役を演じるのは、沢村国太郎です。長門裕之と津川雅彦の父親です。顔立ちや声がよく似ています(親子だから当たり前ですが)。壷探しと偽りながら、矢場の若い娘にうつつを抜かすというコミカルな役柄も、息子たちに継承されています。
軽快でコメディタッチの人情時代劇です。黒澤明監督の『七人の侍』に代表されるような、重厚でリアリズム重視の作品だけが時代劇ではありません。「時代劇とは、こういうものだ」という決め付けは、ジャンルの幅を狭め、衰退に導くだけです。
無駄を省き、テンポ良く展開します。いわゆるポップでモダンな時代劇です。戦前の段階で、このクオリティが完成していたことに驚きます。中野裕之監督の『SF サムライ・フィクション』や『RED SHADOW 赤影』の方が、テンポが悪くて駄目です。本作のリメイク版『丹下左膳 百万両の壺』にも期待は出来ません。本作が上映時間90分程度で話を上手くまとめたのに対し、リメイク版は更に30分も長いので、テンポが良くなるとは思えないからです。これらの作品が「新世代の時代劇」などと謳うのは、単に作品として面白くないのを、観客のセンスの悪さにすり替えている卑怯です(あるいは、作り手がセンスが良いと思い込んでいる勘違いでもあります)。
丹下左膳やお藤(喜代三)が、ちょび安(宗)を迷惑がっているような言葉と裏腹に、内心では心配して行動するのは、笑いのためでもありますが、実は日本的な振る舞いでもあります。本心をストレートに表現するのを良しとするは西洋的であり、本心を表に出さず、本音と建前を使い分けるのが日本人の美徳とされてきたからです。
★★★★☆(2016年2月9日(火)DVD鑑賞)
山中貞雄は天才監督と評されましたが。28歳で戦死しています。