
B級恐怖映画の音響効果マン、ジャックは風の音を録音中に自動車事故を目撃し、川に落ちた車からサリーという若い女性を救助する。彼は、同乗していた死亡者が次期大統領候補だったことを知り、さらに録音テープに収められた音から、これが狙撃によって起きた事件だと気づく。やがてサリーの正体も明るみになるが……。陰謀に巻き込まれながらも、真相を究明しようと奔走する主人公の姿を描いたサスペンス・スリラー(映画.comより引用)。1982年日本公開作品。監督はブライアン・デ・パルマで、出演はジョン・トラヴォルタ、ナンシー・アレン、ジョン・リスゴー、デニス・フランツ。
冒頭からデ・パルマ監督お得意の長回しです。しかも女子寮の窃視が『裏窓』で、シャワー室襲撃が『サイコ』という、敬愛するヒッチコック作品へのオマージュまで捧げます。その後、画面分割やスローモーションを見せ、デ・パルマ監督が手持ちのテクニックを全て披露するかのような作品になっています。
本作には、次期大統領候補者暗殺の陰謀や、おバカだけど謎めいたサリー(アレン)との恋愛や、不気味な殺し屋(リスゴー)による娼婦殺害など、様々な要素が盛り込まれています。しかし、これらに深い意味はなく、ただサスペンスを盛り上げるための効果しかありません。ヒッチコック作品がサスペンスを見せることを第一としているのと同じ姿勢です。
ジャック(トラヴォルタ)は雑誌の切り抜きと録音テープで証拠フィルムを作りますが、これは正に「映画」です。本作では、「映画」が事件解決の重要な鍵となり、「映画」を求めて緊張感ある争奪戦が展開されるということです。そこにデ・パルマ監督の映画至上主義が表されています。
また、ジャックが音響効果マンというオタク的職業であることは、デ・パルマ監督の願望を投影したものです。『殺しのドレス』で犯人の手がかりを発見したのは、オタク的青年です。デ・パルマ監督は、マッチョな二枚目ハンサムではなく、自己投影したオタクをヒーローにしたかったのでしょう(それなら、オタク臭のないトラヴォルタはミスキャストのような気もしますが)。
本作は安易なハッピーエンドにならず、サリーは映画の中で生き続けるという、これまた映画至上主義的な結末を迎えます。デ・パルマ監督のテクニックと映画愛が盛り込まれた本作は、「デ・パルマって、どんな映画を撮るの?」と聞かれたら、「これを観てください」と答えられるような、彼の名刺代わりの作品と評価したいです。
★★★★☆(2016年2月5日(金)DVD鑑賞)
本作におけるトラヴォルタの好演が、『パルプ・フィクション』主演に結びついたらしいです。