
デトロイトの工場で働くラビットこと青年ジミーには夢があった。ラッパーとして成功し、どん底の日々から抜け出すこと。プロデビューを目指す彼は街で行なわれているラップ・バトルに出場しようとするが、繊細な性格ゆえにプレッシャーを感じ、棄権してしまう。モデル志望の娘アレックスとの恋、トレーラーハウスに暮らす家族との生活、そして仲間たちと思い描く成功の夢。ジミーは迷い、傷つきながらも、やがてラップのバトルステージに立つ……。カリスマ的人気を誇るラップ・ミュージシャン、エミネムの半自伝的な青春物語(映画.comより引用)。2003年日本公開作品。監督はカーティス・ハンソンで、出演はエミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィ、メキー・ファイファー。
本人主演で半自伝的映画を作るケースは珍しいです。日本だと、力道山主演の『力道山物語 怒涛の男』みたいなものです。こうしたケースは主人公の人生を美化したものになりがちですが、本作の場合、主人公の格好悪い部分も曝け出すことによって、むしろ作品に深みを与えています。
挫折した若者が人生の紆余曲折を経て、宿敵にリベンジを果たすという内容は、青春映画によくある内容です。そうした作品では、喧嘩やスポーツで決着をつけるのが定番ですが、本作はラップバトル、すなわち言葉で相手の心を折ることによって決着をつけることに独自性があります。
ラップバトルの世界は黒人優位で、ジミー(エミネム)のような白人ラッパーは少ないという実情があります。これはボクシング界も同じで、『ロッキー』において白人挑戦者ロッキーが黒人王者アポロと闘うという構図が、本作と共通します。試合(ラップバトル)以外の描写に多くの時間を割いていることも似ており、本作はヒップホップ版『ロッキー』という見方もできます。
かつての繁栄を失ったデトロイトの風景、ホワイト・トラッシュ(白人貧困層)の生活を描くという社会的要素もあります。しかし、日本人の私から見ると、どうにも格好良く感じてしまうのです。舞台を埼玉に移し、ラッパーを夢見ながらも、くすぶり続ける若者を描いた『SR サイタマノラッパー』は、身につまされる格好悪さがありましたけどね。
★★★☆☆(2016年1月22日(金)DVD鑑賞)
主人公の母親役、キム・ベイシンガーの登場シーンにビックリします。