
敗戦直後の東京の片隅でひたすら麻雀を打ち続け、様様な勝負師との出会いでもう一つの人生を学んでいく若者を描く(映画.comより引用)。1984年公開作品。監督は和田誠で、出演は真田広之、大竹しのぶ、加賀まりこ、名古屋章、加藤健一、高品格、鹿賀丈史。
阿佐田哲也の小説を、イラストレーターの和田が異業種監督として映画化しました。撮影中、家を出れば映画作り、家に帰れば妻・平野レミのお喋りを聞かされるという大変な生活を送っていたと想像できます。
もう三十年も前の映画ですので、真田と大竹が若々しいです。そこに加賀と鹿賀が大人の芝居を見せ、名古屋、高品らが渋く脇を固めるという良いキャスティング構成になっています。
本作は戦後間もない頃の話ということで、全編モノクロで撮られています。その色調にノスタルジーの感情を抱く人も多いでしょうが、ちょっと考えてみてください。現実に戦後を生きた人々は、皆が色盲だった訳ではなく、カラフルな世界にいたはずです。モノクロだから懐かしいというのは、映画やテレビによって刷り込まれた先入観ではありませんか。
『ALWAYS 三丁目の夕日』三部作は、昭和三十年代の東京の風景を再現したことで話題になりました。当時を知らない美術スタッフが建物セットを作る時、わざと使い込んだような汚しをかけたそうです。これも変な話で、当時の建物でも築年数が少なければ、ピカピカで綺麗なはずです。実は演出の一部で、古ぼけた汚しをかけた方が観客は懐かしさを感じるという理由に基づくものだそうです。客観的リアリティより主観的実感を重視したと言えます。モノクロ画やセットの汚しは、「実際どうであったか」より「それっぽく見えるか」が大事で、ノスタルジーという感情が主観に依存することを意味します。
本作で一番印象に残ったのは、「出目徳」役の高品です。元ボクサーであり、日活時代から悪役で地道に積み重ねた、人生のコクみたいなものを表現しています。出目徳は大勝負の最中に急逝し、身ぐるみを剥がされ、土手から捨てられ、家の前に放置されるという、無情な最期を遂げます。明日なき賭博師らしい末路です。博打で稼ぐ生き方は自由で憧れる人も多いでしょうが、その自由の代償に死に様まで何の保障もない人生を送らねばならないという厳しさを、本作は見せつけてくれるのです。
★★★☆☆(2015年11月17日(火)DVD鑑賞)
笹野高史も出演していますが、髪の毛があった頃なので、なかなか気が付きません。